ブラックボックス
こんにちは! ワセリン太郎です! 本日は一つ、皆様へのご報告が。
前回の前書きにおいてお知らせした『自粛中にコソコソ書いていた読み切りの新作』の件なのですが、世間も未だこのような状況ですし、いつ公開しようか? いつ公開しようか? とタイミングを見計らっていたところ、逆にそのタイミングを見失ってしまい……もう仕方が無いので世間様の空気を読まず、何も考えずにドバッと出してしまう事にしました。(とりあえずは前半部分を数日に分けて一気に連投しようかと。そして少し間を置いて後半を小出しにしていこうかと)
【魔法少女まこと】〜クソ森少年探偵団〜 N2423GE
僕の作品を読んで下さっている皆様には、恐らくあまり違和感のない内容……というか、実態としてレアさん奇行のスピンオフの様な立ち位置の作品です。なのでよーく読んで頂くと、あの人やあの人とかあの人の影がチラホラと見え隠れしたりしなかったり。
とにかく! 世の中は未だに色々と不穏な空気に包まれておりますが、もしお時間がありましたらお付き合い頂き、せめて小説の世界の中だけでも明るく、そしてまた皆様に『アホか!』と笑って頂けたら幸いに存じます。
──ガチャリ。
アパートの自室の前に戻って来たレアは、無施錠の玄関扉を開け放つと……玄関に安全靴を脱ぎ捨て、ペタペタと奥の居間へと歩き出す。
「うーむ、何やらミストが“うー〇ーなんとか”がどうのと言っていたな。保冷がどうこうとも言っていたし、要は“ブン殴って冷たくなった保存食”をそれに入れて持ち帰れという事なのだろうが……そのリュックというやつは一体どれの事だ?」
彼女はブツブツと呟きながら散らかった部屋の中を見回すが……畳の上にそれらしきものは見当たらない。しゃがみ込み、ちゃぶ台の下もチェックする。
「無いな。もしかして押し入れの中だろうか?」
──ガサッ。
勢い良く押し入れの襖を開き、下の段を覗き込む。ちなみに上段は現在、鶴千代の寝床であり、目につく物と言えば万年床に鍵盤ハーモニカ、それとお気に入りの犬用ビスケットの空き箱ぐらいのものだ。
「暗いな。この邪魔な段ボールを退けて……と」
レアは薄暗い中、押し入れからゴソゴソと密林商会の段ボールを引きずり出してゆく。そうして徐々に視界を確保してゆくと……
「むっ! もしかしてこれの事か?」
そう言って、押し入れから上半身を引き抜いた彼女の手に握られていたのは……ウー〇ーイーツと印字された、黒く大きな保冷リュック。
「なんと、これはかっこいいな! それにこれだけ大きければ、さぞや大きな和牛も収納可能に違いない! よし、折角なので中も少し見てみるか」
バリバリバリ……
ベルクロを剥がして蓋を開け、サイドのジッパーを降ろして中を覗き込む。
「ふむ、なるほど上下二段になっているのか。つまりこのリュックは、小型の犬を上下に一匹づつ収納するのを前提に設計されているという事なのだな?」
明らかに前提を間違えている。
「むっ、何だこれ。下段に帽子が入っているぞ」
彼女が手に取ると、それはウーバー〇ーツのロゴが入った緑色のつばの黒い野球帽。ミストが密林商会にてリュックを注文する際に目に付き、千六百九十八円で同時に購入したものだ。
「おお、何だこれカッコイイ。それにリュックと同じロゴが入っているではないか! なるほど。良くわからんが、これは間違いなく高名なメーカーの優れた製品に違いない! よし、折角なのでこの帽子も被って行くとするか!」
そうしてリュックを背負い、同じデザインの帽子を深々と被ったレアは……自室の玄関を開け放ち、無施錠のまま二階の踊り場へ意気揚々と飛び出したのだった。
──ガチャリ。
「……ん?」
「むっ?」
ほぼ同時に太郎の部屋の玄関が開き、蒼と紅の視線がぶつかる。
そう、ロキだ。
「アンタねぇ……帽子で顔隠して出てきたから、一瞬泥棒か何かと思ったじゃないの。てか何なのよ、その格好は。ツナギ姿で目深く帽子被って、その上道具箱みたいなの背負ってるなんて怪しいったらないわよ」
突然、お気に入りをピンポイントで指摘され、まんざらでもない様子のアホの子一号。
「ふむ、ロキよ。やはりこれが気になるか? ふふふ、仕方ないので貴様にも見せてやろう。さあ遠慮せずに拝むが良い! この何だか良くわからん、死ぬほど格好の良いリュックの神々しい姿をな!」
首を傾げ、『はぁ?』といった様子の悪神。彼女は公職選挙法の勉強でモニター疲れした目をこすり、嬉しそうにソレを見せつけて来るレアの背中をまじまじと見つめ……
「ちょっとアンタそれ、ウーバー〇ーツって……今、都会とかで流行ってるアレじゃないの? 最近ニュースで話題になってるの見たわよ。配達員が自転車で追い越し車線を走ってタクシーに突っ込んだとか、信号無視して事故起こしたりとか」
「何と、それは実に頼もしいな! それより……自転車? 自転車が要るのか? そういえば私は自転車に乗ったことがないぞ! ロキ、貴様は乗った事あるか??」
『しまった!』と肝を冷やすロキ。レアが自転車を運転するなど以ての外。それは仮に過小評価したとしても、住宅街を自動航行の小型ミサイルが泳ぎ回っているのと何ら大差のない恐ろしい状況だ。
因みにレアと同種のアホであるキア姫も、自転車を所有して乗り回してはいるのだが……何故だか彼女の場合、フラフラとふらつきながら歩くより遅い速度で運転しており、また交差点進入時や商店街等の人混みにおいては、危険を感じる度に侍従のフェレスが全力で荷台のキャリアを引っ張って停止させる為、幸いまだ住人達の生命を脅かす脅威とは成り得ていない。
ロキはレアの興味を自転車から引き離すため、必死に話題を逸らした。
「べ、別に歩きでもいいんじゃない? うん、そんなリュック背負ってるんだし、歩いた方が絶対に格好いいに決まってるわ。てかそんな事より、神丘市なんて超ド田舎なんだしウーバーイー〇のサービスなんてやってないでしょ? そもそもアンタ、何でそんな物を持ってんのよ」
「良くは知らん。だがこれはミストが密林商会で四千円で買った物なのだ!」
“四千円”と聞き、顔が引き攣る金髪女神。
「よ、四千円──!? ホントに四千円もかけて、そんな用途不明の宅配ボックスを買ったの? 正気? あんのミストのアホ、まじで腹立つわぁ……あっ! 良く見たら帽子まで揃えて買ってるし。ほんとバカじゃないの!?」
値段を聞いて憤慨するロキを前にして“羨ましがっている”と勘違いを起こし、ドヤ顔で胸を張るあんぽんたん。
「はっはっはっ、妬むのは見苦しいぞ! 貴様もこれが欲しいと素直に言ったらどうなのだ?」
「要らんわ! で、その宅配ボックスを背負って何処へ行くつもり? あと、どーせ人の話聞いてないだろうから、もう一度教えてあげますけどね。そのウー〇ーイーツ、まだ……というか、これから先もずっとだと思うけど、この神丘市みたいなド田舎じゃ、ほぼ間違いなくサービス自体が開始されないからね」
「サービス? 開始? ロキよ、貴様が一体何の話をしているのか全くワカランが、この優れたリュックの使い道はとうの昔に決まっているのだ」
どうやらレアが注文の入るのを待っている訳ではないと知り、改めて怪訝な表情を浮かべるロキ。先程までは『どうせサービス外地区なのを知らずに、ありもしない注文を待ち続けるんでしょ?』程度に考えていたのだ。
「アンタ一体、何するつもりなのよ」
「ふふふ、聞いて驚くがよい! このリュックはな、これまで丹精込めて育て上げた和牛を速やかに捕獲し、毎日庭でバーベキューをする為にミストがホームセンターで何かデカイのを買いに行ったので、私がリュックに犬を入れるつもりでアパートに帰って来たのだ! あと、一番大きいサイズのヤツがいいってミストが言ってた! しかしお肉は小さくて今日は練習なのだぞ!!!」
早口でまくし立てる阿呆。
案の定、情報が一定量を越えると……頭に浮かんだ単語を順不同に羅列し始め、聞き手からすると何を伝えたいのかが一切理解出来ない。
とにかくそこまで言ったレアは、“おいしいお肉の各部位”が書かれたチラシをポケットから取り出し、両手で彼女へバシッと広げて見せる。
そのドヤ顔に困惑するロキは、目の前のチラシへと顔を近付け覗き込む。
「なにこれ、おいしいお肉の部位? 飼育してる最中の和牛を捕獲する……? だめだ、全然わからないんですけど……」
「うむ。実は私も良くわからんのだが、何かエチオピアと中国がどうとか言ってたな! あと、ヤツは顔がオッサンみたいで非常にキモいのだぞ!」
再びロキの頭の中へ、大量のクエスチョンマークが現れる。しかし先程からずっと勉強し続け、思いのほか疲れていた彼女は……これ以上頭痛の種を増やすまいと、即座に深く考える事を止めた。
「あらそう。何だか良くわかんないけど……面倒だから余計な騒ぎだけは起こさないで頂戴ね? それじゃアタシは、ちょっとそこの先に買い物に行くから」
──ガチャリ。
そう言うと、太郎から預かっている合鍵で玄関に施錠するロキ。
「ぬっ? ロキよ、貴様はどこへ買い物に行くのだ?」
「……ベーカリー林田」
住宅街に程近いパン屋の名前だ。
「何を買うのだ?」
「別に何でもいいでしょ」
「まさかこの女、人様に言えない様なとんでもないものを買いに行くつもりか!?」
呆れたように溜息を吐くロキ。
「……袋入りのパンの耳よ。てか何なのよ、人様に言えない様な物を売ってるパン屋って」
そう、パンの耳は安くて沢山入っているのだ。
「はっはっはっ、あいかわらず貧乏くさいな!」
「やかましいわ──!!」
「よし、私も貴様と遊んでいる場合ではない。そろそろ和牛を捕獲しに行くとするか! それではな、ロキ」
「いやいや、お肉って買う物でしょ。捕獲するもんじゃないから……ってアンタ人の話を聞きなさいよ」
当然、全く聞いていない。
「さあ待っていろ、保存食十九号! このレア様が貴様をバラバラに精肉し、夕方になる頃には立派な焼肉へと変身させてやるからな! はっはっはっ、ホルモンにミチミチと詰まったウンコの食感というやつも非常に楽しみだな!」
アホの子はそう言いながら帽子をぐぐっと被りなおし、ロキに軽く手を上げてから元気よく歩き出す。
「アイツ……何わけのわかんない事言ってんだろ? いやそれは毎度の事か。もうやめとこ、構うと余計に疲れそうだし、アホは放置しとくに限るわ」
振り返り、二階のロキへとブンブン手を振ってから再び歩き出したレア。軽く応じてその後ろ姿を見送りながら、彼女は踊り場の手摺りに体重を預けて呟く。
「それにしても後ろから見ると、まんまテレビとかネットで見る〇ーバーの配達員ね。でももしレア達に配達を頼んだら、商品が無事に届く気が微塵もしないけれど」
玄関前に置き配された弁当の空き容器。当然、その中身は全て食べられた後。しかも扉の前の絶妙な位置に置かれている為、不審に思った家主がドアを開けると……グシャリ。とにかく、そういう充分にありえそうな光景を想像し、『ふふん』と疲れた様子で笑う悪神。
「あーあ。ホント神丘市でサービスが始まらなくて良かったわ。もし、あんなのをアイツ等にやらせでもしたら……いやよ、賠償額を考えるだけで怖い怖い! さて、アタシも遊んでる場合じゃないか。買い物に行って勉強の続きをやんなきゃ!」
ロキは階段を降りながらそう呟く。それから彼女もまた、レアとは逆の方角へと一人歩き始めたのであった。
そう、この暫く後に……アンポンタン達が再び余計な騒ぎを起こすとも知らずに。




