ビニール傘と金属バット【外伝】~変人たちのクリスマス(ラスト)
こんにちは。志村けんさんが心配なワセリン太郎です。
無事、肺炎からご回復する様、お祈りしております。
それでは、3日連続更新、ラストになります!!
再び舞台は太郎の自室へ。
「それじゃあロキ、僕は帰るよ」
「うん、まあその……ありがと」
協力に対して素直に礼を言われ、かつて“悪神”と怖れられた女性に訪れた確かな変化を感じ……『いや、きっと彼女は本来“こう”なのだろう』と、嬉しそうに目を細めるメルクリウス。
「いいえ、太郎君にも宜しく」
「ええ、伝えておくわ」
「それじゃあ、おやすみ。良いクリスマスを」
「ありがと、アンタもね」
こうして無事に鶴千代へとプレゼントを渡し、ロキに挨拶を済ませたメルクリウスは……再び空中へと魔力の足場を造り、慣れた様子でそれに飛び移った。
それから周囲を眺めると、同じ要領で……まるで光の階段でも降りるかの様にフワリと地面へ降り立つ。
「さあ、帰ろうかな」
だが彼がそう呟いた直後。
──ガサリ。
「まあそう慌てず……ちょいと待ちな」
「──!?」
突然茂みの後ろの暗闇からノソリ、巨大な熊の如きシルエットが現れたのである。
「よう、待ちわびたぜサンタのオッサン。まさかオメー、そのまま帰る気じゃあねえだろうな?」
「えっと、もう遅いし、そのつもりだけど……」
困惑するメルクリウスに、呆れた様子で肩をすぼめて見せる巨体。
「おいおい、そりゃねぇぜ? さあ、これから配る筈だったプレゼント……耳を揃えて全部置いていきな!!」
そう。三十六歳、未だにサンタの存在を信じる、どうしようもない大家の御登場である。そしてその背後には、必死で笑いを堪えるロッタと、眠い目をこすり、呆れ果てた様子のフリストの姿が。
彼女達は本日、この手の事件を見越したロッタの誘導で大家宅にお泊り中であり、当然母屋はフリストが逃げ戻らぬ様にと……二人の手でガッツリ戸締り済みだ。
先程のやり取りで、微妙な異変に気付くメルクリウス。
(あれ、大家さん、サンタの正体が僕だって気付いてないのか? 当然、ロッタとフリストはわかってるみたいだけど。ってことはまさか……)
空のプレゼント袋を大家に見せ、少し困った様子で問いかけるメルクリウス。もちろん鶴千代にプレゼントを渡した直後であり、その中にはかさ増しの為の新聞紙しか詰まっていない。
「一つ聞いてもいいかな? 大家さ……じゃなかった、君は子供達へのプレゼントを奪って……どうするつもりだい?」
フンと笑い、タバコに火を付ける大家。
「おいおい、人聞きの悪い事を言うんじゃねぇよ。俺様がガキ共の夢を奪うワケがねぇだろ?」
ここでようやく雲行きがおかしいのに気付き、『えっ……? えっ……?』と、彼等の顔を交互に見回すフリスト。
彼女もこの時まで、『当然、大家さんもこのサンタさんの正体に気付いてるよね?』と当たり前の様に考えていたのである。だが目の前のオッサン、どうにも様子がおかしい。
開幕したアホ臭い寸劇に、ロッタの肩が激しく震えた。そう、彼女はこれを、こういう展開を待ちわびていたのだ。
(……ん。やばい、連日のダメージが腹筋から抜けてない。これは明日も筋肉痛確定。腹筋大崩壊)
彼女は思う。自分はこのままこの“日本”に滞在すれば、バカな大人達を毎日見る事による笑い過ぎの産物として、自然と魅力的に引き締まった“くびれ”を手にする事が出来るのではないか? しかも何の苦労もせずに、だ。
『ガキ共の夢を奪うつもりはない』とする大家の発言に、少し不思議そうな表情を見せたメルクリウスは……再び彼に問う。
「では何故に? 答えてもらえるかい」
「ハッ、んな事ぁ決まってるぜ。最終的にプレゼントは……世界中のガキに行き渡ってハッピーエンドってやつよ」
「では、君がそれを奪う意味がわからないのだが」
「知れたことだぜ。まず、テメーが持ってる世界中の子供のプレゼントを一旦俺様が預かって、全てヤフ〇クに出品するのよ。そしたら世界中の親がそれを落札して我が子に配るだろ? つまりガキ共は何の損害も負わねえし、それを転売した俺様も何の損害も負わねえ。わかるか? これが世界にとってどれほど素晴らしい事か」
大家の吐くワケのわからない理屈を聞いたフリストが『ク、クズがいます……』と目を見開いて驚愕し、頭を抱えた。当然、ロッタは顔を真っ赤にして笑いを堪えたままだ。
首を横に振り、真面目にに答えるメルクリサンタさん。既に彼も大体の事情は把握済みだ。そう、この目の前のオッサンは、齢四十を前にし、未だに大多数の大人が知る“世界の真実”に気付いていないのだと。
ただ、このメルクリウスという男、彼もある種の非常に大きな問題を抱えている。それは何かというと……とにかくアホ程に“人が良い”のだ。
そしてこの毒にも薬にもなり得る性質はこういった場合……目の前にいる“オッサンの夢を壊してはならない”などという、ありえない解を導き出してしまう。
「悪いが……話にならないな。それでは子供達へのプレゼントを渡す事は到底出来ないよ」
「そうかい。残念だぜ」
“実はサンタさんは関係者”という、小学生高学年の子供でも呆れるような……勿論、ロッタとフリストですらとうの昔に知る真実。それを大の大人の男が二人、真剣な表情で論じ合う。
小さな邪悪にとって、これ以上に素敵なクリスマスプレゼントが存在するだろうか? いや、無い。
「……ん。大家、実はあの袋が世界と繋がってる」
フリストが驚き、『何を煽っているの!?』と表情でロッタへ訴えるが、彼女はそれを一切無視し、この聖夜に起こる奇跡の喜びを噛みしめていた。
大家は何か納得した様子で頷く。
「そうかい。実は俺様もよ、小学校の頃から“もしかするとそうじゃねえのか?”と疑ってたんだぜ。なるほど、やっぱそうかよ……でねえとあの袋一枚じゃあ……どう考えてもみんなの分のプレゼントを運べねえもんな!!」
サンタさんの持つ袋、四次元ポケット説。
深夜の住宅街で繰り広げられる、下らなさを通り越した痛々しい茶番に、ロッタの身体が激しく打ち震えた。
そしてとうとう我慢の限界に達した彼女は『ブッ──!?』と吹き出し、大家に気取られぬ様にと慌てて顔を隠す。
徐々に混沌を増す現場。フリストは助けを求め、祈るようにアパートの二階を見上げた。
「ロ、ロキ姉様どうにかし……あっ!?」
──ガラガラ、ピシャッ! 二階の窓が勢いよく閉まる音。
大家が現れた瞬間からハラハラしつつ見守っていたロキであったが、メルクリウスが彼に話を合わせだした辺りから次第に呆れだし、『アホかこいつら。もういいや、さっさと寝よう』と腹を決め、考えるのを止めて窓ガラスを閉めたのだ。
だがその直後、何やら思い出した様子で……
──ガラガラ、ピシャッ! 今度は二階の窓が勢いよく開く。
当然、そこから見下ろすのはロキだ。救いを求めるフリストの表情に光明が差す。
「ちょっとフリスト! いい? そいつらと遊んでたら馬鹿が感染るわよ! その連中のバカは、流行病の百倍タチが悪いんだから! てかもう夜も遅いんだし、いい加減アンタも早く戻って寝なさい! 大家、アンタたちも何時だと思ってんの!? 近所迷惑よっ!」
──ガラガラ、ピシャッ! 再び、二階の窓が勢いよく閉まる音。
「ええぇぇ……」
「あ……? 何言ってんだ、あの女。とうとう目の前にサンタのオッサンが現れたんだ、これこそ男のロマンってヤツだろ。アイツぁダメだ、全くわかってねえ。ロマンを前にしちゃぁよ、近所迷惑とか、んな小せぇこたぁどーでもいいに決まってんだろーが!!」
そう、この大家……テレビの特番でたまにある、“怪奇現象スペシャル”等の与太話をマトモに信じてしまう、非常にややこしい類いの大人である。
じわり……メルクリウスに迫る巨大な影。面白がって荷担するロッタも、大家と共に彼の退路を塞ぎに掛かった。
「退路は……無しか」
だがこの時、彼はこう思った。
(いや、これは逆に良い機会かも知れないな。大家さんはともかく、ロッタとフリスト。まだ候補生とはいえ、幾度かの実戦を経験した君達の成長……それがどの程度のものか、見極めさせて貰う良い機会かも知れない)
プレゼント袋を担いだまま、皆へクイクイと手招きするサンタさん。
「いいでしょう、三人で掛かってきなさい」
「ええぇぇ……」
困惑するフリストを余所にニヤリと笑う、大家とロッタのコンビ。
「……ん。これは面白くなってきた」
「へへへ、そうこなくちゃな」
ジワリ、お互いの距離が詰まり……
深夜の住宅街の静けさを破り、大家が吠える──!!
「いくぜサンタのオッサン! テメ中二ん時、クリスマスプレゼントに“ハード系エロ本”を頼んだらお袋にバラしやがって! 覚悟しろや! あん時の礼を今、ここでさせて貰うぜ!!」
ちなみに、その“お願い”が書かれた紙を、最初に開いて見たのは大家の母親である。
激突する巨体と赤い影。二、三度激しく打ち合い、それから素早く距離を取った。
「おいおい冗談だろ……やるじゃねえかよ、サンタのオッサン」
大家からの賞賛を受け取り、それに応じるサンタさん。
「いやいや、貴方こそ相当なものだ。正直、普通の人間だとは……とても思えないよ」
ヒヤリとし、メルクリウスの頬を汗が伝う。
「そいつぁ……どうもっ──!!」
再び、交錯する二つの影。
ガラガラガラ……ゆっくりとアパートの二階のガラス戸が開いてゆく。
この時、嬉々として拳を交える彼等は、自分達の身へと迫る災難に……一切気付いていなかった。そう、二階から彼等を見下ろす、怒りに燃える紅いの瞳の存在に……
(……ん。やばい、調子にのりすぎた)
いち早くん殺気に気付いたロッタは……巻き込まれぬ様に己の気配を消し、そっと下がって暗闇へと消えて行く。怒りの形相のロキを見上げ、ガクガクと震えるフリスト。
そして次の瞬間──
「アンタ達! 今何時だと思ってんの!? 大体さっきからギャーギャーギャーギャーうるさいのよ! 近所迷惑も大概にしろやコラァアアアア──!!」
この時、ようやく頭上より放たれた殺気に気付いた大家とメルクリウスの顔面に……時既に遅し。ベランダに置いてあった植木鉢がほぼ同時に炸裂したのであった。
再び場面をレア達に戻そう。
遠のく意識の中……無駄に乳を揉むのも諦め、ダラリと力なくぶら下がる太郎の両腕。当然、少し前までは絞首台であるレアの腕を必死に掴んでいたのだが、徐々に力が入らなくなってしまい、今ではこの有様となっていた。
(クソ、このままではまずいぞ……)
「さあサンタのおっさん、さっさとプレゼントの在処を吐くがよい!」
「そ、その袋の中に……」
彼の言葉を笑い飛ばすレア。
「ハッハッハッ、誰が騙されるものか! 常識的に考え、世界中の子供に配るプレゼントがそんな袋一つに入るワケがなかろう? さあ、戯れ言をほざいていないでさっさと在処を吐け!!」
(こいつ! アホのくせに、何で妙なところだけ現実的な考え方をしやがるんだ……)
ミストはプレゼント袋を拾い上げて覗き込み、目に付いた中身をレアへと報告する。
「姉さん、やっぱサンタのオッサン嘘ついてる! 見ろよこの袋の中身……プレゼントはゼロで、亀田のあられとカントリーマァムと、あと柿の種とベビースターとチップスターとガーナミルクチョコとチョコパイと……あれっ、何か思ってたより結構お菓子入ってるかも──!?」
「何だと? 貴様! ポテチは入れていないというのか!?」
吊るし上げたサンタを揺するレア。
「ぐ、ぐるじい……チ、チップスターを入れといただろ……」
「何を言う、その様な事が許されると思うのか!? ポテチはポテチ! チップスターはチップスター! この二つは似て異なるものであり、実は両方おいしいのだ!!」
(し、知るかよ、わけわかんねぇ……てかダメだ死ぬ、こうなったらもう“アレ”しか手段が……残されてない)
そう考えた太郎は、サンタの衣装のベルトへと手を掛け……ガチャガチャとズボンを緩め始めたのだ。
「ぬっ、サンタよ、気でも狂ったか?」
(お前にだけは言われたくない……)
ずり下がるズボンと共に、バラバラと床へこぼれ落ちる段ボールの鎧。プレゼント袋を覗いていたミストも、突然ストリップを開始したサンタを訝しげに凝視する。
「ちょ、このサンタのオッサンなにやってんの? 何かいきなりズボン脱ぎだしたんですけど! きもっ! もういっそ殺した方が良くね??」
レアに吊り上げられたまま、下半身はジャージ姿になったサンタ。それから彼は……
「ミストよ……このジャージとパンツを下ろしてみろ……」
「マジ何言ってんのこのオッサン!?」
「いいから下ろせ──!」
迫真。
「そ、そこに何があるってんだよ……」
少し引いた様子の彼女へ、太郎が吠える──!!
「そこに……そこに全ての真実が詰まっている! さあ、俺のズボンとパンツをズリ下ろすんだ──!!」
要は、チ〇コ小さい……というのを証拠に、『俺は本当に太郎だ!』と彼女達に気付いて貰おうとしているのだ。しかし……それを黙って聞いていたレアが突然──
「ダメだこいつ、アタマおかしいな!」
ブン、ブン、ブンッ――!!
「ぐえぇぇぇっ──!?」
レアは、首を揺すって失神させたサンタを……勢いよく階段下に向かって放り投げた。
──グシャリ。
ささくれ立った手摺りのペンキに引っかかり、太郎のジャージ……とパンツが膝までずり下がる。そうして彼は、尻……というか下半身丸出しで白目を剥いたまま、空中で土下座するような格好を取り、無様に手摺りへぶら下がる事となってしまったのだった。
汚いものを見る様な視線を送るレア。
「何だこのオッサン、いきなり『ズボンおろせ』とか、なかなかにキモイヤツだな! あれではまるで本物の太郎の様だが……んっ?」
彼女はそこまで言うと、何かに気付いた様子で、階段の手摺りで股間を晒すサンタを注視する。
同じく、ぶら下がる彼を見て『空中えくすとりーむチンコ丸出し土下座!!』などと喜んでいたミストも、『あれっ……?』と“ある事”に気付き、おそるおそるサンタに接近。
そして二人は“ぶら下がる小口径”を目にし、ほぼ同時にこう叫んだのだった。
「「ああっ!? チンコ小さい!! これホントに太郎だ──!!!」」
十二月、二十五日、午前八時四十分。
エプロンをつけて台所に立つロキは……居間で布団へ寝転び、頭を抱える太郎を一瞥して大きく溜息を吐いた。
「ちょっとアンタ、ほんとに大丈夫……?」
「う、うーん。な、何とか……」
「今は四十分だし、あと二十分か。もう少ししたら天界の医療部門の外来が開くから、それまで我慢しなさいな? そしたらその“無くなった前歯”も医療魔法でどうにかして貰えるから。てか一体、何があったのよ……」
「お、お前が朝まで気付いてくれなかったからだぞ……」
「ちょ、ア、アタシのせいなの?」
そう言われて焦るロキ。確かに昨夜、騒音にイラついて植木鉢を二人に投げつけた後、頭に来てふて寝している内に本当に眠ってしまい……外の階段で太郎が冷え切っているのをすっかり忘れてしまっていたのだ。
「ひでぇよぉ。朝、気付いたらレアとミストのアホもどこにも居ないし……」
その彼女達、暫くは太郎を『おい太郎、大丈夫か!? 貴様、本当に気の毒
なほどチンコが小さいぞ、あたま大丈夫か!?』等と心配しつつ揺すっていたのだが……
驚いたミストが慌てて駆け寄った際、誤って床にあったプレゼント袋を蹴り飛ばしてしまう。そしてその中に入っていた大量のビック〇マンチョコをぶちまけてしまい、残念ながら、二人の興味は自然とそちらへ移ってしまったのだ。
それからチョコを貪りながらシールを開封し始めたレアとミストは、すっかり太郎の事を忘れてしまい……朝、新聞配達のオジサンが、下半身丸出しで冷え切った状態の太郎を発見するまで、誰も彼を救出する事は無かったのである。
「ぐすん、ひでぇよ。ロキが助けてくれると思ってたのに……」
「ああもうごめん! 気付いてあげられなくて悪かったわよ! てか男の子がいつまでもグジグジ言わないの!」
「そりゃ文句も言いたくなるよ……」
「大体、太郎がアタシみたいに手際良くやらないからよ」
「よく言うよ、二人も病院送りにしたくせに……」
そう。昨夜、怒り心頭のロキに植木鉢を投げつけられ、意識を失った大家とメルクリウス。フリストとロッタによって天界の夜間救急外来に運ばれた二人は現在、医務室で治療を受け、一旦回復した後の経過観察中である。
「うっ……ア、アイツらがあんなので死ぬワケないでしょ!」
「いくらあの二人が頑丈だって言ってもなぁ……やりすぎだぞ?」
「わ、悪かったわよ……」
珍しく素直に謝る悪神を見て、『まったく……俺の歯の治療が終わったら、見舞いに行こうな?』と、入れ歯を無くした老人の如く、悲しげに鼻の下を摩る太郎。
彼等はこの時、知らずにいた。
天界に入院中の大家が、医務室の担当天使の尻を撫でまわすというセクハラを決行し、花瓶で顔面へと二度目の制裁を受け、再治療の憂き目に遭っている事を……
「でもまあ、とりあえず痛みがないのも鶴千代のお陰か……」
「ホントね。今はアタシが魔法使えないし、魔法……神通力で血と痛み止めをしてくれた鶴千代に感謝なさい?」
そう言うと二人は、プレゼントされた“ピンクの鍵盤ハーモニカ”を懸命に吹く鶴千代へと視線を移し……再び顔を合わせて自然と微笑んだ。
「そのうち……楽譜っていうのか? とにかく練習用の本なんかも買ってやるか」
「ふふふ、そうね、それがいいかも」
二人から見られている事に気付いた鶴千代は、お気に入りのプレゼントを頭上に掲げ……嬉しそうにニパッと笑い、こう言った。
「太郎、ロキ! ウチはこれ、ほんに気に入ったでの! サタンのオッサンに感謝じゃ!!」
こうして、“ただ、想いを込めてプレゼントを渡す”という、何処にでもありがちなイベントを何とか乗り越えた彼等。そしてその様子を、喫茶店のテーブルに置かれた水晶玉で覗く瞳が……四つ。神様と個休を満喫中のエイルである。
「ふふふ。鶴千代のやつ、本当に喜んでおるのう。今年はプレゼントを……と思うておったが、ワシが余計な事をせず太郎に任せて正解じゃったわい」
そう嬉しそうに呟いて目を細め、コーヒーをすする神様。
「ええ。鶴千代さんもこうやって少しずつ、現代社会に溶け込んでゆくのでしょうね。まあ、プレゼント一つ渡すのに、前歯を全部持って行かれるというのも難儀な話ではありますが。しかし神様、昨日はお婆さまが来ると聞いて大家さん宅から逃げ出したとか?」
エイルの言葉にギョッとする神様。
「一体誰がそんな事を言うておった!? ワシは決してババアが来るから逃げたのではないぞ!」
「いえ、今朝お婆さまが電話してきて……『逃げた神がそのままキャバクラに吸い込まれていった事は既に把握済みさね』と仰っていましたよ。まさに自業自得、ご愁傷様です」
肩を落とし、力なく呟く天の主。
「それは……帰りたくないのぅ」
こうして今年もまた、神丘市のクリスマスはゆっくりと過ぎ去ってゆくのであった。




