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ビニール傘と金属バット【外伝】~変人たちのクリスマス(その8)

こんにちは! ワセリン太郎です!

コロナウイルス、大変な騒ぎとなってしまいました……ともかく、皆様が感染されず、最悪もしそういう事態になったとしても、何事もなくご無事である事を祈るばかりです。こういう時こそ皆で同じ方向を向き、肩を寄せ合い何とか凌いでいきましょう!


今回の外伝最終話、一話にするには少し長くなるので3分割とし、3日連続投稿にしたいと思います!

──十二月、二十四日、午後九時三十分。


 先程まで大家(しげる)宅の居間でバカ騒ぎをしていた一同はようやく解散し、各々自宅へと戻って行った。



 太郎の部屋のちゃぶ台に突っ伏し、随分と気疲れした様子のロキは両手で湯飲みを握りしめて溜息を吐く。


(もうヤダ。ほんっっと、あの“お馬鹿共”の相手をするのは疲れるわ……)


 その様子を見た鶴千代が、大家(しげる)宅から持ち帰ってきたケ〇タッキーフライドチキンをバリボリとかみ砕きつつ、不思議そうな顔で彼女へ声を掛ける。


「ロキや、どうしたのじゃ? 何ぞ疲れておる様に見受けられるが」


 そう問われた彼女は、ちゃぶ台にピタリと付けていた額を離し、魂の抜け掛けたような表情で天狗の娘へ視線を這わす。


「鶴千代、アンタ達さ……もしかして毎日あんな感じなの?」


「うむ? あんな感じとは……何がじゃ?」


「いやほら、レアとかミストとかと一緒に暮らしてるでしょ?」


「うむ!」


「それで今日、大家(しげる)()でクリスマスパーティーしたじゃない?」


「うむ! オードブルが実に美味かったの!!」


「あの時、アンタ達やたらと元気(・・)が良かったけど……」


「そうかの? 何ぞいつもと変わった様子はなかった様に思えるのじゃが」


 ここで彼女は察する。あれが三馬鹿娘(あんぽんたんず)の日常であるのだと。


「いや、何でもないわ……」


「ようわからぬが、疲れの抜けぬ日には、腹一杯食うて寝るのが一番肝要じゃ! ほれ、この“おりじなるちんき”とかいう物をウチと一緒に喰らうが良い!」


 ロキは部屋に充満するチキンの臭いをクンクンと嗅ぎ、鶴千代の背後でキラキラと瞬くクリスマスツリーの電飾を、力なくボーッと眺めながらこう言った。


「“チキン”ねぇ、胃もたれしそう……」


「それは残念じゃ、しかし鶏の揚げ物で胃もたれとは……お主も歳かの?」


 そう聞くや否や、ロキはガバッ! と元気に跳ね起き、捕らえた鶴千代の頭を両手の拳骨で挟んでグリグリし始める。


「いま何つったあぁぁ!?」


 彼女は『うびゃあぁぁぁ!?』と叫ぶ天狗の娘を折檻しつつ、ゆっくりと壁掛け時計へ視線を移した。


(そういえば太郎……遅いな。あ、もしかしたら例の件の打ち合わせが長引いてるのかも)


 その太郎はというと、先程クリスマスパーティーが終わった後、アリシアとアイリ、それにヒルドやシギュンを自宅まで送ると言い、彼女等に付いて行ったのだ。


 夜道は危険なので女性陣を家まで送り届ける。そのありがちな用件に加え、今日の太郎にはもう一つ別の目的が存在する。それが何かというと、無事に鶴千代へクリスマスのプレゼントを渡す為、とある人物と密会して最終の打ち合わせをする予定。


 何故そこまで綿密な計画の必要があるのか? それは言うまでも無く、レア達の存在があるからに他ならない。


 太郎は思う。『俺にはわかる、絶対にアイツらが黙っている筈が無い。きっとまた、いつもの勘違いから生じるワケのわからないトラブルを起こし、それによって確実に不本意な結末が招かれるに違いない……』と。


 ただ、まるで日課の様に被害に遭う経験(まいにち)を積み重ね、充分にトラブル慣れしている彼は……こうも考える。『いい加減に俺だって……いや、俺だからこそ、アイツらの考えそうな事を先読みしてコントロールできる筈だ』と。


 そうして随分前から準備を進めてきた太郎は、レア達に知られずに“ある人物”と協力して……何とか今回のクリスマスイベントを乗り切る覚悟でいるのだ。何とも大袈裟な話しであるが、彼にとってレア達の起こすトラブルは、甘く見ると社会的に“死ねる”類いのものばかり。とにかくそれは、端から見る程気楽なものではないのである。




 鶴千代はテレビに映るお笑い芸人を眺め、フライドチキンをバリバリとかみ砕きながら呟く。


「のうロキや」


 お茶を啜りながら答える金髪。


「なぁに?」


「太郎の奴め、少し遅くないかの?」


 そう言った彼女は、天井向けて口を大きく開ける“ノームのパッ君”を目掛け、フライドチキンを一つ放り投げた。


──グワシャッ! チキンをかみ砕く音が部屋に響く。


 それを見て、急須から湯飲みへ茶を注ぐロキの手が止まった。


「そうねぇ……でもヒルドとアタシの妹も送って行ったんでしょ? それにヒルドのマンションは少し遠いし、多少時間掛かっても仕方がないわよ。それより鶴千代、アンタ先にお風呂入って頂戴? 出たらアタシも入るから」


「うーむ、しかし家主より先というのも如何なものかの?」


 “意外だ”とばかりに目を丸くするロキ。


「ちょっとアンタ、妙な所だけ常識的ね。でも大丈夫、そこは気にしなくていいわ。“アタシの残り湯”とか、男共にとってそれは“神聖なるご褒美”以外の何ものでもないから!」


 ドヤ顔の女神を見上げ、首を傾げる鶴千代。


「何ぞ、ようわからんの」


 ちなみにロキ、日頃よりお風呂は湯船派であり、シャワーだけでは我慢がならない。


「冗談はさておき、太郎が帰って来てお風呂遅くなるといけないし、先に入って頂戴? さて、今日はもう遅いし、アタシも不本意ながらシャワーで済ますか……」


「うむ、承知した!」


 そうして勢いよくすっぽんぽん(・・・・・・)になった鶴千代が、風呂場に入って行ってから少し経った頃。


 カンカンカン……と、誰かがアパートの階段を登る音が響いてきた。


 暫くして──ガチャリ、と玄関の鍵があけられ扉がひらく。


「ただいまー」


「あら、お帰り太郎。ちょっと遅かったじゃない? 今、鶴千代をお風呂に入れたところ。それで……準備は万端なの?」


 ロキは、戻った彼にお茶を淹れようと立ち上がる。


「ああ、みんなを家に送った後、ちゃんと“アイツ”と打ち合わせをして来たから……きっと上手く行くと思うよ? そもそも大家(しげる)さん達に頼み事するのとはワケが違うし、その辺りの間違いはないと思う」


「そっか……まあとにかくお疲れ様。それより冷えたでしょ? 今お茶を淹れるから、手を洗ってこっちに座りなさいよ」


 太郎は洗面所でうがいまで済ませると、湯飲みを置く彼女に促されるまま、ちゃぶ台へと手を伸ばす。


 それから淹れて貰ったお茶を一口啜ると……テレビのリモコンを握り、チャンネルをニュース番組へと切り替えた。


「あー、温ったけー」


「愛よ愛、愛の温もりってヤツよ」


「へいへい、それは有難いこって」


 画面には、最近巷を賑わす感染症関係の見出しが所狭しと並ぶ。それを見て苦々しく呟く太郎。


「これ、ホント嫌だよなぁ。世界中が迷惑してるし、早く終息してくれないかなぁ? まあ神丘市みたいなド田舎は、良い悪いは別としてこういう騒ぎからも見放されて大概は蚊帳の外、まあいつも通りテレビの中の出来事……ってカンジなんだろうけど」


「ホントね。あ、でもアンタ、(ジジイ)の息が掛かってるでしょ? 教えていいのかわかんないけど……実はこういうのに感染しないわよ?」


「は……? マジで??」 


「割とマジで。でも内緒よ? 知らない振りしてなさい。てかそれよりアタシ、このおっさんがくっそムカつくんですけど!」


 そうロキが指差す画面には、医療用のマスクを付けた“大陸国”の(ショウ)陳寶(チンポー)国家主席が、『我々はこの麦国が持ち込んだウイルスとの戦いに完全に勝利した! 欧米諸国は深く、心より反省しろ!!』等と声高に拳を振り上げる姿がデカデカと映し出されている。


 『確かに』と、呆れた様子の太郎。


「マジで何言ってんだろうな。本当にウイルスに完全勝利したのなら、まずはその厳重なマスクを外してみせろよ……」


 主席の発言を聞いた取り巻きがロボットの様に拍手を始める中、A・H・O(アンタの国の・ヘルス・オーガニゼーション)のペドロス事務局長が『さすが主席!』とばかりに必死に手揉みをし始める姿が目に留まった。


 それを見たロキは頬杖をつき、苦々しく悪態をつき始める。


「厚顔無恥ってこの連中の為にある言葉じゃないの? マジでバカみたい、どう考えても世界中にバラ撒いたのはアンタのところでしょーが! それにA・H・Oって大体何なのよ、全然役に立たないし本当に“アホ”丸出しじゃない! あとコイツ、絶対カ〇握らされてるわ」


「ホント、それだよなぁ……正直、こんな子供の理屈がまかり通るとか、世の中一体どうなってるんだ? とは俺も思うよ」


「でしょ!? ほんっっと、コイツらに民主化は百年早いわ! いい加減もっとマトモになれっつーの!」


 次第にエスカレートし始めるロキを見て、太郎は徐々に危機感を覚え始める。


 そう。この女、一旦エンジンが掛かり始めてレッドゾーンに突入すると、どこまでもブツクサと文句が止まらなくなってしまうのだ。


 テレビを見ながらちゃぶ台をバシバシ叩き始める金髪。先程まで一緒になって『しね・よ!?』等と憤っていたパッ君も、微妙に驚いた様子で彼女の様子を見上げていた。


「ねぇ、アンタも見なさいよパッ君! この脂ぎったオッサンの(ツラ)! コイツ絶対、毎日ステーキとか焼肉とかお寿司とか、高額な物ばっかり食べてるに違いないわ! 大体、女神のアタシがお昼ご飯に困る日があるってのに、ホント何なのコイツ、不敬だわ、神罰が当たればいいのよ!!」


「だ・よな……」


(神罰って、お前がその“神”の一柱と違うんかい。いやいや、余計な事は言わずに黙っとこう……)


 最後の件は完全に私怨の様な気もするが、仮に日本が島国でなく、かの国と国境が隣接でもしていたら……恐らく、大家(しげる)も加えて『精神的苦痛を受けたから、国を跨いでカネをむしり取ろう!』等というハナシに発展していたであろう事は想像に難くない。


 ふと、数年前に神丘市に根付く大手企業の工場が火災を起こした際、大家(しげる)に強制連行されて企業の通用門へと押し掛け、『煙を吸い込んで体調が悪くなった。このオトシマエをつけろ!』などと、彼が数時間にわたってゴネる姿を見せられた事を思い出す太郎。


 とにかくこういった場合、彼女が怒り出す前に機を見て話題をすり替えるのが得策。そう考えた彼は、居間のガラス窓の奥でゴソゴソと身体を拭く鶴千代の気配を感じ、ロキを『まあまあ』となだめつつ、そちらの方を指差した。


「あっ、ほらロキ! テレビもいいけど、鶴千代も風呂から出たみたいだし、お前先にお風呂入って来いよ? 俺は後からでいいからさ」


「えっ、でもアンタさっき帰って来たばっかだし、身体冷えてない? アタシが後でいいわよ」


「いや、俺は大丈夫だからさ。ほら、先にお客さんが入った入った」


「別にもうお客さんって間柄でもないでしょーが。あっ!? ねぇ太郎、アンタもしかして……アレでしょ?」


 そう言い、悪戯に微笑む悪神。


「……? な、何だよ」


「アタシの残り湯に浸かって……」


「あのね! お前、俺の事を何だと思ってんの──!? 童貞ってのはね、そんなレベルの高い趣向は持ってないの! そんなん明らかに上級者の思考ですわ! もう変な想像してないで早よ入ってくれる!? あと、ウチは貧乏だからシャワー一択!!」


「ふふふ、はーい」


 彼女はそう言うと立ち上がり、バッグから着替えを取り出して……再び悪戯を表情に滲ませ、指で摘まんだ下着をチラリと見せつける。


「あのねロキさん、こちとら(・・・・)そういう事に耐性がないの! お願いだからこれ以上イジるのやめて!!」


 押し入れから洗濯済みのバスタオルを取り出した太郎は、顔を真っ赤にしてロキへと投げてよこす。そうしてこちらも照れ隠しに『クスクス』と笑ったロキは、『何ぞ?』といった様子で頭を拭きながら出てきた鶴千代をワシャワシャと撫でると、入れ違いでガラス戸の奥へと消えていった。


 『はぁ……』と溜息を吐き、ドライヤーとコンセントの延長コードを用意する太郎。それから髪をゴシゴシとやる鶴千代の背後に座り、ドライヤーの電源を手に取った。


 それから彼は気を取り直し、無心で鶴千代の頭を乾かし始める。


「しっかし鶴千代、お前の髪の毛、長いし量もすごいし、ほんと真っ黒……というか濃紺というか。でもホント、こうして見ると綺麗なモンだよなぁ。てかこれ、全国のハゲが見たら泣くぞ?」


 背後を見上げ、ニパッと笑う天狗の娘。太郎に褒められ、悪い気はしていない様子。


「うむ、髪はおっかぁ(・・・・)譲りでウチの自慢じゃでの。ちなみにおっとう(・・・・)は、晩年頭髪が次第に……」


「やめろ鶴千代、親父さんの毛根の話しはそこまでだ! でもホント、何食ったらこんなにフサフサになるんだろ? 秘訣があるなら割とマジで教えて欲しいよ」


「うーむ、そう言われてもの。ウチに思い当たる節があるとすれば……やはり商店街のペットショップで購入する“びたみんどっぐシリーズ”を定期的に食している事ぐらいのものじゃ。あれは箱に“美しい毛並み”と書いておるし、そういった効能があるやも知れん」


「鶴千代お前、いい加減に犬用ビスケットを食べるの止めような……」


 ふと考える太郎。


(そういや俺のじいちゃん達、揃いも揃ってハゲてるし、いずれは俺もヤバイのかも知れないぞ。親父だってそろそろ(・・・・)キそうな感じがするし、それに親戚が冠婚葬祭で集まると、必ず若年性のスキンヘッドが数名……)


「太郎や、何ぞ深刻な顔をしておるが、一体どうしたのじゃ?」


「いや、何でもないんだ。そっとしといてくれ……」


 彼は手に取る美しい束を見つめ、己の毛根の未来に思いを馳せる。


(少し前に某有名県知事だったタレントのオッサンが“生えてきた”とか、産毛をこれみよがしに見せびらかすCMも気になるが、最近ネットでよく見掛ける『使いすぎるとボーボーに』とかいう広告も気になる。しかし果たして本当なのだろうか? 誇大広告ではないのか? だが一応、次に広告が出てきたら見てみるか……)


 彼がそう考えながらドライヤーを当てていると、鶴千代が『ウチは喉が渇いた!』と騒いで突然立ち上がり、自由にキッチンの方へ歩き始めた。


「あっ、コラコラ……」


 太郎は“そういや、二人が泊まるので冷蔵庫にジュースを買い置きしていたよな”と思い、ドライヤーを止めてゆっくりと後に続く。


 こうして長い黒髪を下からバスタオルで支え、鶴千代の後を追う姿はまるで、父親か何かの様にも見える。


「鶴千代。冷蔵庫にジュースが入れてあるからな? どれか好きなのを……」


「うむ、かたじけない!!」


──ガラガラッ!


 勢いよく開け放たれる居間のガラス戸。その先の気配に気付き、二人はゆっくりと視線を持ち上げた。


 そこには……これから浴室に入ろうと、全裸で髪を結い上げるロキの姿が。


「えっ……?」


「……えっ?」


 冷や汗が太郎の頬を伝う。そう、頭髪の未来ばかり考えていた彼は、すっかり入浴準備中であった彼女の存在を忘れていたのである。


「ロキや、冷蔵庫にジュースが入っておるそうじゃ! 風呂上がりに飲むとよかろうて」


 先程、太郎をイジっていた際に見せた“上級者”の風格はどこへやら。まるで少女の様に首元まで真っ赤に染まる悪神ロキ。


 それから数秒の後。


「いやぁぁぁぁぁぁぁああっ!?」


「うわぁぁぁぁぁぁああいっ!?」


 太郎とロキ、双方の叫び声が深夜のアパートに木霊したのだった。

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