女神、万引く。
初めて小説を書く上に文盲野郎なのでお見苦しい点が多いかと思われますが笑ってお許しください。あと、読んだ後に怒って「時間返せバカヤロウ!」と石を投げつけないで下さい。作者は非常にピュアでデリケートで小心者です。誤字脱字も仕様に御座います。ひゃっほう!
俺は困っていた……
えっと……何だろうあの人は? 金髪で目も青いし、透き通るような肌だし……外国人であるのは間違いなさそうだが、どこか具合でも悪いのだろうか? 床に体育座りをし、一人で何かをブツブツと呟いてる。しかも、俺アパートの自室ドアの前で。
それにしても……かなり妙な格好をしているな。あれか、最近流行のコスプレってヤツだろうか? なんだろう、実在の中世風のものではなく、漫画とかに出てくる騎士なんかが着ていそうな雰囲気だ。多分身なりから察するに、恐らくヤバいヤツに違いない。
いやでも……パーティーグッズにしては妙に仕立てが良い気もするなぁ。その筋の趣味を持った器用な人が本気で作ったら、ああいう物が出来上がったりするのだろうか? などと考えて固まっていると、その不審者とバッチリ目が合った。
うわ、美人だけど目付きが鋭い。あれ、目が赤い。もしかして泣いてる? しかしドアの前で体育座りされてるから自宅に入りづらい……
仕方ない、声を掛けてみるか。
短時間で色々葛藤した俺ではあるが、立ち尽くしていても仕方がないので一応話し掛けてみる。言葉の通じない可能性が一瞬頭をよぎり、非常に不安になるが。
今更だが、学生時代に英語を真面目に勉強しておけば良かったと後悔する。自慢ではないが、俺ぐらいの学力レベルになると……英語なんて”中指おっ立てて叫ぶ”アレ”位しか知らない。しかし、勇気を振り絞って声を掛けてみた。
「あの……すみません。大丈夫? 日本語、わかります?」
金髪の不審者がゆっくりと顔をこちらに向けて返事をした。
「ニホン?」
おっ、日本という単語はわかるのか? もう一度ゆっくりと聞く。
「日本語は、わかりますか?」
ハッとした顔をした不審者が唐突に叫んだ。
「――!? ここはニホン? ニホンなのか!?」
喋った!? しかし流石に阿呆の俺でも一瞬である結論に到達する……勘弁してくれ、恐らく間違いない。この人は己の所在を理解してない。つまり不法入国者か何かの可能性があるという事だ。やばい、絶対に関わってはいけない。
「ええ、そうですよー、ここはニホンですよー……」
と小声で会話しながら鍵を開ける。内心ちょっとしたパニックだ。
「では、そこ自宅なので、ちょっとごめんなさいねー」
そう言いつつ少しだけ開いた扉に半身で滑り込み、そっと扉を閉める。
OK、上手くいった……上手くいったはずだった……だった。
腕に抵抗を感じ、閉まるはずだった扉を振り返ると……先程とはうって変わってキリイッ! とした表情の不審者がガッチリと隙間に手を入れている。
ちょっ――!?
「失礼、少々お待ち頂きたい。私は主神オーディンの使いにして戦乙女のレ……」
ヤバい!
「いや、ごめん。悪いけど関わりたくない! お願いだから帰って!!」
扉を閉めつつ叫ぶ俺。
「貴様! 神の使徒が困っているのに手を貸さぬとは何事か! 不届き者め! このクソボロい扉を今すぐ開けよ! こなくそっ!!」
扉をこじ開けようと大声をあげる金髪の不審者。なーにが”神の使途”だ! 間違いない、危ない手合いだ。まともな宗教の勧誘の人は絶対にこんな事しない!
「宗教は間に合ってます! あと扉壊れるからやめて!」
「お願いだから開げでぇぇえぇえぇ!!」
何だこの女!? 泣きながら涙と鼻水垂らしてる! 怖い! そして滅茶苦茶チカラ強い!!
「ち、ちょっと止め――!?」
そしてこの後のお約束ではあるが……木造の我が家の扉が”聞いた事のない不思議な音”を立て、サッシとサヨナラするのにそう時間は掛からなかった。
〜十分後〜
「で、日本に”異世界で活躍する英雄だか勇者だか”を探しに来たって……? なるほど、そうかそうか」
俺は現在、扉を引き千切った挙句、謎の甲冑みたいなブーツを履いたまま自宅へ上がり込もうとしてきた不審者と……居間で卓袱台を挟んで座っている。
玄関より優しく吹き込む風に新鮮な感覚を覚えるが……正直、泣きたい。
「フッ、その通りだ。バリッ、理解が早くて助かる、それこそがバリバリッ、私の使命! なんだコレ、実に美味しいな!」
出されたお茶をすすり、目の前の煎餅を次から次へと口に放り込みながら……この『レア』と名乗るイカレた不審者は胸を張り、堂々と自信たっぷりに答えた。つーかオッパイでけえ! じゃなかった……今はとりあえずそんな事を考えている場合ではない。
「あのさ。悪い事言わないから、あんま妙な事を言わない方がいいぜ? 漫画とかの見過ぎでそういう設定にしてんだろうけど、なりきりごっことか流石に引くわ……」
あれだろ? 最近流行りの“ジャパニーズカルチャー大好き”ってやつ。そういう外国人が増えてるって、前にテレビで見た事あるわ。
忠告する俺に『??』という雰囲気でジェスチャーしてくる彼女。でもまあ痛い言動はさておき、これだけ流暢に会話できるのなら不法入国者の線はないのか……? と安心しかけた矢先、レアは急に立ち上がり、部屋の中を楽しそうに物色し始めた。
勝手に我が家の家財道具を色々と手にしつつ、『そうか、ここがニホンか〜』などと感慨深げににつぶやいている。ああ、心底胡散臭い。
ごっこ遊びに付き合っている暇はない。俺はこれから飯の準備もしなくてはならないのだ。さっさと帰ってはくれないものか……
そういえば、ふと気になった事がある。少し尋ねてみよう。
「そういやさ、お前何でウチの前で座り込んでたの?」
パソコンの前で立ち尽くしてブツブツ言っていたレアは、急に振り返ると堰を切ったように喋りだした。
「そうだ、聞いてくれ! 実はこちらに転移した時にまで、話は遡るのだが……」
勢い良く話し出したは良いが……途中から急にイジけたオーラを纏い、これまでの経緯について語りだした彼女。
俺は後にこの件について、”聞かなきゃ良かった”と強く……強く後悔する事となる。
〜数時間前〜
ピポンピポ〜ン♪
「いらっしゃいませ〜! ようこそイレブンコンビニマートへ!」
レアは立ち尽くしていた。
そう、先刻まで戦乙女の隊宿舎で召喚の儀式を行っていた筈。それが今、何故だか全く見覚えの無い場所に立っているのだ。爆発で宿舎の床でも抜けたのだろうか? それにしても知らない、見覚えの無い場所である。
ふと違和感に気付き、少し驚く。元来、神属として存在する自分の、背中にあって然りの筈の物がない。
翼だ。
天界にいる時は、大空を自由に飛び回れる純白の大きな翼があるのだが……もしかすると爆発で千切れたのかと思い、付け根に手を回してはみるが……血も出ておらず、怪我の様子もまるでない。
(そういえば、戦乙女候補生の講義の際に講師が、『よいですか?皆さん。我々神属が現世に顕現した際には、翼が云々〜』とか何とか言ってた様な気もするが……講義の時にほとんど居眠りしていたから詳しくは知らんな! でも痛くないし、まあいいか!)
そう彼女が考え事をしていると、統一された縦縞の制服を着た複数の人物が……何か大声を上げている事に気が付いた。
どうやら、物資か何かについて訴えている模様。
そう思った彼女が周囲を見渡すと、建物内に雑貨や食料と思しき物が大量に陳列されていた。
「ここは……支援部署の倉庫なのか?? 私は入った事がないからわからん……」
だが彼らはきっと、噂に聞く天界の補給部隊なのだろう。そう、レアは思い込む。
(現世に赴く際には最低限の補給物資を持っていくと聞くが、ここがその補給所なのだろう。我ながら冷静かつ鋭い観察眼、流石スーパーエリートの私! あたまいい!)
レアは制服を着た男性の言葉に耳を傾ける。
「いらっしゃいませ〜! 只今、こちらのおでんがお安くなっておりまして云々〜」
「オデン? ああ、あの鍋のような物に入っているアレか? そうだな、考え事をして小腹も空いた。頂こう。あれ? そういえば私、朝ごはんは何食べたっけ……?」
そうしてコンビニの店員に近付くレア。
不審な恰好の来客に、彼は一瞬たじろぐが……日頃から珍妙な客が来ることもあるのだろう、努めて平静を装って彼女を応対した。
「失礼、ではそれを頂こう」
「ありがとうございます! そちらの容器をお使いください」
(補給物資を渡すのに”ありがとう”とは違和感があるが、これもエリートである私への気遣いなのだろうか)
「しかしこの“オデン”という食料は初めて目にするな。音の響きからして主神オーディンに纏わる由緒ある物に違いない。きっと任務に赴く隊員へ振る舞われるのだろう。はっはっはっ、私の頭脳は今日も冴えてるな!」
一人、店内で大声を出すレアへと視線が集まるが……彼女は一切気にした様子は無い。
「よし。とりあえずオデンは汁物だし、頂く前に他の携帯食料を掻き集める事にするか! 現世に顕現すると、神属にも食料が必要になるってヒルドが言ってたし!」
因みにレアは、普段から食べる事が大好きだ。天界にいる状態の神属には食物を摂取する必要はないのだが、ある種の娯楽として食事を摂る者も多い。
周囲を見渡すと……随分高齢に見える女性が、次々と緑の籠の中へ物資を入れているのが目に付いた。
実に手際が良い。恐らく御姿を見る限り、御歳、数万年は超えた”戦乙女の先輩”なのだろうと一人納得する。
「しかし今も補給所にて補給作業をされているという事は、現世に戦乙女として顕現する準備をされているという事だ。これはかなり高名な御方に違いない、よし、私も続こう。あの方が選ばれている物資を真似させて貰えば、私の経験不足も補える筈だ。なるほど、この”おいしいおかずシリーズ”これが重要なのだな? 準備は整った。よし、最後にオデンを頂くとしようか……」
〜十五分後〜
コンビニの事務所で、外国人の女性を目の前にし……心底面倒そうに口を開くおまわりさん。
「あ〜店長さん、それでこの人が突然、未清算のおでんを食べちゃった……と?」
「そうなんですよ、おまわりさん。言葉は通じるみたいなんで、聞いたらお金も持ってないし……」
「しかも、『私は神の使徒だから云々〜』とかワケのわからない事言って……カゴに入れた商品も離そうとしなくて。それで困っちゃってですね~」
困った表情で、レアを眺めるおまわりさん。
「うわぁ面倒くさ、言葉はわかるんだ……お姉さん、外国の方? もしかして最近流行りの迷惑系ユーチューバーとかじゃないよね? とにかく、続きは交番で聴くから」
~更に十五分後~
「ゔぇっ、ゔぇえぇ……」
困ったおまわりさんが、諭す様に優しく問いかける。
「あのね? さっきも言ったけど、窃盗や万引き……商品を食べてお金払わないのは犯罪なの。わかる? 国は? ご家族の方は?」
おまわりさんの語りかけも耳に入らず、レアは一人、ズビビと鼻をすすっていた。
「ゔぇっ、わだじが、まんびぎ、せっどう、ゔボェっ……」
「あのさ、泣いてても何も解決しないよ? ……うわっ、えづき出した!?」
マズイ、マズイ状況だ。このままでは栄光の戦乙女の初仕事が……窃盗になってしまう。じきに過去に例を見ない『万引き女神』の誕生だ。泣きながらもレアは考えていた。
これは『なかったことにする』必要がある……と。
幸い手足を拘束されてはいない。しかし何と甘い尋問官なのだろう、天界ではこうはいかない。逃げるチャンスだ! そういえば以前、地球を管轄する天使の友人から聞いた事がある。
日本の名高い文学作品に登場する、高尚な兜を被る紅の騎士が放ったという名言。『捕まらなければどうという事はない!』うろ覚えであるが、確かそんな感じだった筈だ。
それにここが何処なのかが全くわからない以上、長居する訳にもいかない。最悪、地球の日本へ直接出向いてでも英雄を確保して、3日後の出立に間に合わせるのだ。
でないと、あの日本の伝統的な掌サイズの書物の如き、華々しい英雄譚でデビューする夢が潰えてしまう。
嘘泣きをしつつ周囲を観察し、どうやって逃げよう? と思案するアホの子。
(走って逃げるか? いや、制服を着た尋問官は二名いる。不利だ、逃げ切れまい。何か、何か手段は……? フッ……閃いた! あれだ、あれしかない。先程、連行される際に押し込められた”白黒カラーで屋根に赤いクリスタルの塊の様な物が乗った鉄の荷車”。あれを拝借しよう!)
それがどうやって動いてるのかはレアにはわからないが、彼女は乗せられた際に操作する尋問官の動作をジックリと観察しておいたのだ。おそらく魔導機械の類だろう、と結論付ける。
連行される途中に興味を引かれ、舵取り装置らしき物の付いていない椅子に座る尋問官に操作方法を聞いてみると、案外簡単に教えてくれたのだ。
彼は、『君、面白いね。車乗った事ないの? 簡単だよ。左側のペダル踏んだままキー回して真ん中のレバーのボタン押して下げるでしょ? って免許持ってないの? いけないいけない、アブナイ事教えちゃダメだね』と。
(メンキョって何だ? しかし頭脳明晰な私へと、そこまで教えたのが運の尽きだ)
あのキーと呼ばれる、恐らく魔導具の起動鍵らしき物は……先程から目の前の尋問官が指に嵌め、クルクルと遊ぶ様に回している。
(これは神が、私に逃げよと仰っているのだ、間違いない!)
「ねえお姉さん、さっきからずっと黙ってるけど……おまわりさんの話、聞いてる?」
鍵をクルクル回していた尋問官が少し身を乗り出した刹那、レアが動いた――!
突然指から鍵を奪い、尋問用の鉄のテーブルを持ち上げ警官2人に押し付ける……と言えば聞こえは良いが、要は投げつける――!!
「あっ!? な、何をする――!?」
グワシャッ!!
「ぎゃああぁ!?」
それからカウンターを飛び越え交番を脱走し、急いで駐車スペースに置かれた鉄の荷車のドアノブへと触れた。後は扉を開き、キーを挿し込み回すだけだ!
ガチャ、ガチャガチャ!
「アレ……何故だ、扉が開かないぞ? まずい!」
レアは焦った。
(どうしよう!? 走って逃げても、この鉄の荷車に追い詰められる……あれは恐ろしく速いのだ)
そうこうする内に交番内では……倒れていた警察官二名が、デスクを投げつけられた衝撃から立ち直りつつあった。しかし、そこへタイミングが良いのか悪いのか。
「おつかれっス! 自分、パトロール終わりましたー。あれ? 皆さん一体、何してるんすか!? え? これどういう状況!?」
別のパトカーに乗った若い警察官が、巡回を終えて外から戻って来たのだ。
彼は交番の入口から少し離れた位置に車を停めると……シートベルトを外して窓を下げながら、荒らされた建物の中を覗き込んで目を丸くした。
(しめた!!)
レアは咄嗟に走って彼へと近付き、エンジンを停止していない車の窓から……戻って来た警官を力任せに引きずり出す。
(あれ? コイツ、あまり力が強くないぞ? もしかすると彼等は文官なのだろうか?)
「ちょ――!? な、何だこの女!? や、やめろ! なんつー馬鹿力だ!」
そして引きずり出した男を頭上へ持ち上げ交番へ走り……起き上がろうとしていた二人組に向かって、再び投げ飛ばす――!!
「「うわあぁぁあぁ!?」」
たまらず倒れる、おまわりさん3人組。
「――許せ!!」
レアが走ってパトカーへ戻ると……先程とは違い、ロックの掛かっていない扉は簡単に開いた。
「おお、これはいけるぞ!」
動力の魔導器にも火が入ったままだ。座席に飛び込み左の足踏みを踏みつけガチャガチャすると、手元のレバーはすんなりと動いてくれた。
そしてペダルから足を外すと、ゆっくりと車は前進し始める。しかし次なる問題が。
「何故だ? 何故遅い!? さっきはもっとこう、馬の様に速く走ったはずだ! それに後ろに進めるにはどうしたらいいのだ? 後退もするはず、さっき連行される時に見たし!」
レアは慌ててガチャガチャと色んな所を触ってみる。
駄目だ。それでもとにかく触る。それが何なのかは良くわからないが、座席の横にある棒状のレバーも下げてはみる……が、少しだけ荷車の動きが良くなっただけで、大して効果は得られないように思えた。
彼女は慌てる気持ちを落ち着け、足元を覗き込む。視線の先にはペダルが二つ。
「はは〜ん、わかったぞ。これだな、流石レア様、天才! 左の足踏みを踏むと前に進むのだから……右の足踏みを押し込むと後ろに退がる訳だ。うむ! 間違いないな!」
クリープ現象……因みに左の足踏み、”ブレーキペダル”を踏んでも車が前へ進む筈もなく。
(荷車は尋問施設の方を向いている。よって後退さえできれば、この長い”頭脳戦”に勝利する事ができるのだ。勝ったな私、歴史的大勝利!)
ニヤリと笑ったレアは、右側の足踏み”アクセルペダル”へとゆっくりと足を載せる……
『取り逃がしてしまう!』と言う表情にしては些か引きつった、目の前の尋問官達の表情が少し気になりはしたが……
「許せ尋問官達、私は捕まる訳にはいかないのだ! 貴殿らは職務を全うした、それは誇ってよい。しかし、さらばだ尋問官!もう会う事もないだろう!」
そう言い放つとレアは……車両の後方を見据えつつ、全力でアクセルペダルを踏み込む。
荷車の魔導器が吠える――!
――ぐわしゃっ!! ぼんっ!!
直後……エアバッグの開く音と共に、パトカーが交番へと突っ込んだのだった。
〜1時間後〜
逃避行である。
こそこそと住宅街を逃げながら、レアは鼻水をすする。
「ゔぇっ、ゔぇぇぇ。何で、何であんなに仲間がいるのだ……」
車で交番に突っ込んだ直後、慌てて降りると警官三名は皆無事だった。『良かった。無事だったか!?』とレアが叫ぶと『てめぇフザケんな! 何が無事か? だ。お前もうアレだ! 国家反逆罪だ! 警察ナメてんじゃねえぞ!? とりあえずアブネーからエンジン切れ、馬鹿野郎!!』などと、怒号が飛んで来たので……走って逃げた。
鉄の荷車は煙を上げ、カンカンカンと妙な音を立てていたような気がする。
その後、随分遠くまで走って逃げたので、もう大丈夫だろうと思い、ふらふらと道を歩いていたのだが……甘かった。奴ら尋問官には仲間がいたのだ、それも大量に。
先程から隠れてはいるが、何十台もの”あの白黒カラーの荷車”が走って行く。どうしよう、これでは捕縛されるのも時間の問題か?
「うう、あの追っ手の人数を考えると……私が考えているより、遥かに巨大な組織なのかも知れないな」
仕方なく隙を縫ってコソコソと隠れつつ、逃走中のレアであったが……ふと塀のある古い木造の建物が目に付いた。
二階へ向かう階段がある。階段の上の手摺には木の板で目隠しがしてあり、裏側が下から見えない様だ。身を隠すには好都合。
「何かばっちいけど……あそこでいいか! どうせあんな汚い建物、誰も住んでないだろう。よし、夜まで隠れとこ!」