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三秒くっきんぐ。

こんにちは!ワセリン太郎です!

ではそろそろ二日目いってみましょう。皆様お付き合い宜しくお願い致します

 長い。こんなに長いとは……


 噂には聞いてはいたが、まさか本当にこんなに時間がかかるとは思ってもみなかった。


 俺は今、皆を連れて神丘市内に存在する唯一のショッピングモールに来ている。


 神丘市(こちら)にいる知人に会ってくるという神様から結構な額の軍資金を頂き、『材料だけでなくワシの可愛い孫娘達(めがみたち)にも何か買ってやるんじゃぞ?』と仰せつかった俺は内心うきうきしていた。


 そう、始めのうちは……だ。そもそも女性と買い物に出かけるなど、俺の人生において初のイベントなのである。しかもお相手は美人が二人!! おっと忘れていた。後、残念な美人が一名と謎の動くぬいぐるみが約一匹。


 行く前はレアのやつが随分とゴネた。要はショッピングモールでなく、ホームセンターの方へと行きたがったのだ。


 だが鼻息も荒く『おい貴様、ホームセンターにいくぞ!!』と騒ぎ始めた彼女を『おいおいレア、お前本当にそれでいいのか? 日本に来てショッピングモールに行った事がないなんて……ぷっ』と挑発すると、案外簡単に釣られてくれた。

 

 俺がホムセンを避けた理由は二つある。まず一番危険視したのが、ホームセンターには所謂”バールのようなもの”が沢山置いてある事だ。そして当然、ああいった物を見るとまたレアの血が騒ぐ。正直、おまわりさんとドンパチするのは二度とごめんだ。


 そして二つ目は単純に材料の問題。神様から聞いた話によると、どうもノームが要求してくる材料の多くは食品や日用品の方向に偏っている様子。それを踏まえて考えると、スーパーやホームセンターでは二度手間になるし、少し違うのではないか? という結論に。この意見には神様も同意してくれた。よって今、皆でショッピングモールに来ているのだが……


「疲れた……」


 休憩所のベンチに浅く腰掛け、女性陣の買い物が終わるのをジッと耐えて待つ。俺の隣には……こちらも奥さんを待っているのだろうか? やはり魂の抜けた様な、荷物持ちの為に付いて来たらしきお父さん達の姿が数多く見える。


 最初は俺もニコニコして、彼女達が服や日用品を選んだりするのに付き合っていた。しかし、一時間……二時間、と時間が経つにつれ、流石に疲労感を覚えて助けを求めるが……彼女達はキャッキャウフフとしており、疲れた様子を微塵も見せない。まったく、女性というのは一体どうなってるんだ??

 

 流石に限界を感じた俺は、リュックに詰められ頭だけ出したノームを従え……先程よりこの休憩用ベンチに非難して座り込んでいるのだ。


 ちなみに当初の目的である“装備品の材料探し”は後回しにされ、今のところ有耶無耶に。でもそっちを優先すると女性陣のひんしゅくを買いそうだし、それは買い物が終わったら……と、いう事にしておこう。もういいわ、後回しで。


 しかし不思議な事にこの妖精(ノーム)、他の人から全く気付かれない。


 通常、いい年こいた大の男が、リュックにぬいぐるみの様な物を詰めて持ち歩いていると……まずその時点でヒソヒソと後ろ指をさされてもおかしくないと思うのだが、全く誰も気に留めないのだ。


 ホント面白いよな、思い切りリュックの外へ顔を出し、こんなに平然と会話までしているというのに。

 

 先程ヒルドが『妖精や妖の類は現世ではそんなもの。稀に”それに気付いてしまった人”が、怪異や超常現象を見たと騒ぐのです』と語っており、今更ながら妙に納得してしまった。


(そうか、俺は今、怪異をリュックに詰めてるのか)


 ノームと目が合う。ヤツは俺にこう言った。


「つか・れた!」


「だよな!」


 ホントだよ。うんうんと俺が頷きながら、ノームの頭をポンポンしていると……ふと気配を感じた。足元を見ると、目の前には誰か女性の姿が。


 おお、やっと買い物が終わったのだろうか? そう思って顔を上げると、そこには大きなメガネを掛けた茶色い髪の小柄な女性。あれ、見覚えない顔だな。一体誰だろう?


「……こちらへ」


 その女性は突然俺の手を引いて立ち上がらせ、ズンズンと大股で歩き出す。


「えっ、ちょっと!?」


 何度呼びかけようが彼女は振り向かず、どんどん通路を進んで行く。それから暫く歩き、人通りの少ない場所まで来たその女性は……こちらを振り返ってようやく口を開いたのだった。


「あなた、”それ”を一体何処で!?」


 ――!?


 当然、”それ”というのは、このポカンとした顔で俺達を交互に見上げる……リュックの中のコイツの事だ。つまりこの人は、このノームにはっきりと気付いている。そう、彼女には視えているという事だ。

 

 あっ、という事はもしかして”関係者”なのだろうか? しかし彼女の容姿を見ると、何かハーフっぽい顔立ちで可愛らしくはあるが……いや、何かこう……違う。


 そう、俺の知る天界の女性達はもっとこう……出る所がバンッ! と出て……そしてキュッ……って感じの……目の前の地味な女性を再び見る。うーん、やっぱ何か違う。


「あの、あなた今……何かものすごい失礼な事考えませんでしたか……?」


「えっと、いや……その……うへへ☆すんませんでした」


「――ひどい!」


 その直後、何かが聞こえた。


 いや、聞きたくなかったが。


「我が名はレア! 戦乙女にして主神オーディンに仕えし者!! そこの不埒な輩共め! 正義の鉄槌を受けるがよい!!」


 嫌だなぁ……


 振り向くと、少し離れた所にある階段の手摺を……”バットを持ったツナギ姿の女”が、勢い良くお尻で滑り降りて行くのがチラリと見えた。


 俺の隣の女性が驚いた様に息を飲む。


「あれは……もしかしてレアさん……!?」


 やはり”関係者”か! それよりレアだ。ヒルドに『絶対に目を離さないよう』あれほど念を押していたのだが……まあ、レアの事だし、どうせ買い物に飽きてコッソリと抜け出したのだろう。ヒルドを責めるのも酷か。俺は目の前にいる小柄な女性に伝える。


「お姉さん、ごめんなさい! 続きはまた後で!」


 早足にレアを追い始める。だがその女性も小走りに俺へと付いて来た。隣を走りながらこちらへと顔を向け、輝く表情で何かを騒ぐ小柄な女性……まだ付いてくるのか? てか何なのこの人。


「すみません! 貴方、今……今、何と!? お姉さんと!? お嬢ちゃん……ではなく、お姉さんと!? お姉さんと呼ばれた気がして!!」


 うわぁ……


 俺は理解した。ああ、この人もきっと面倒な類の人だ。それはそうと、レアの滑り降りて行った階段の上に到着し、下の踊り場へと目をやると……案の定、そこにはバットを構えたレアと、相手は三人か。誰だろう……?


 あっ、あの顔はどこかで見た事があるぞ。それとあのイカニモ(・・・・)な風体。ジーザス……おまわりさんの次は”地元で名の知れたヤクザ”かよ!? 正直、ああいうのには関わらないのが吉だ、しかし何でこう、アイツは次から次にややこしい連中と……


 レアと相手を観察する。良かった、まだ手は出していない。仕方ない、ここは俺の渾身のジャンピング土下寝で許してもらうか。俺は呼吸を整え、ゆっくりと階段を降りてゆく。


「あの……すみません、俺の連れがご迷惑をお掛けしたようで……」


 こちらを向くチンピラ三人組。彼等は、俺を見るなり大声で苦情を伝えて来た。


「おい! このネーチャンはオメーの連れか!? マジで頭おかしいぞ! 早くあっちに連れていけや! アブねぇ、殺される!」


 あれ……? まあいい。とりあえずこのまま連れて引き下がろう。俺が愛想笑いを浮かべつつそう考えていると、レアの阿呆が大声を上げたのだった。


「おい、太郎! この外道共はな、ご老人にぶつかり倒しておきながら謝罪もせず、睨みを利かせたまま立ち去ろうとしたのだぞ! 断じて許されん! このレア様が成敗してくれる!!」


「だ、だからよ、『(ワリ)ぃな』つっただろーが!」


「貴様ら、あれで謝罪したつもりか!」


 ブンブンと宙を舞う金属バット。


 ああ、そういう事か。


「ちょ、わかったから一旦落ち着け!!」


 レアよ……気持ちはわからんでもないが、まずはバットを抜く前に、話し合いで解決する努力をしような? 俺が頭を下げ、レアを後ろから羽交い絞めにして引き下がろうとした瞬間だった。


 突如、チンピラ三人組のボス格と思われる男が、神妙な雰囲気で俺の背中を指差す。


「おい兄ちゃん。ちょいと一つ聞いてもいいか? オメーよ、その背中のリュックからこっち見てる妙なモノは一体……何なんだ??」


 えっ……? あっ、コレ視えちゃったの!? これですか? これアレっスわ、妖精さんですよ?


 などと言えるワケがないじゃない! 俺もゆっくり、背中の方へと首を傾けた。


 ノームと目が合う。ヤツはヤクザを指差し、感情の感じられない瞳でこう呟く。


「あれ・くうか?」


 は?


「くうって……食うって事?」


「くう・ぞ?」


 エッ――!? 今何と!?


 刹那、ノームの口が上へと開き、そのまま顔面が分度器の様に百八十度展開する!! そしてその中から”宇宙空間の色”をした腕が現れ……チンピラ達に向けて襲い掛かった――!?


――ガシッ!!


 掴まれる足首。


「うおあぁぁぁあ!?」


 宙へと吊し上げられるヤクザ。そして……


「ばくっ」


「あっ……!」


 それは一瞬の出来事だった。ノームの口から伸びたマジックハンドがヤクザのボスを掴んで引き寄せ……グッ、グッ、グッと、まるで大蛇の様に丸呑みにしたのである。


 全員の視線がノームに集まる。一瞬の沈黙。そして……


「げぷうぅぅぅぅぅぅぅ」


 間を置き、悲痛な声を上げるチンピラ達。


「あ、兄貴――!?」


「兄貴が! 兄貴が()られた!!」


「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!?」


 俺は頭を掻き毟る。


「食ったの!? お前、マジでヤクザを食っちゃったの――!?」


 はしゃぐレア。


「おい、見たか太郎!? あいつ食べたぞ! オッサンを丸呑みだった!! すごいな!!」


「兄貴が!! 兄貴が!? テメーら! 兄貴を何処にやった!?」


「いやいやいや!? 俺の方が聞きたいですわ!!」


 騒然となる現場。


 こうして……俺の連休の二日目が、ようやく本格的に幕を開けたのである。

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