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猟師狸を追い、皮を数える。

 皆様こんにちは! ワセリン太郎です。


 今日、新しいお話をアップする作業中、今更ながら”ある重要な事”に気がつきました。なんと「レアさん奇行」のジャンルが僕の編集ミスで「戦記」になっていたのです! これには驚きました。僕的には「恋愛」か「純文学」のつもりで書いているのですが……


 でも、これまでのお話を読み返してみると、確かにレアさんがおまわりさんと戦ってばかりいます。ぼくは”面倒くさいし戦記でいいや……”と思いました。

「不公平だ……」


 俺は取り調べ室でボヤいていた。明らかに主犯のレアは”神様の政治的圧力”により、一切のお咎め無し。


 それで実質無罪の俺と、カウンターを破壊して警官に投げつけた大家の二名だけが……事情聴取と言う名の取調べを受けているのが現状だ。

 

 大家も大概ではあるが、レアの起こした騒ぎに比べたら、正直何もしていないのと同じレベルにも思える。隣ではその大家(マッチョ)が、全く反省する事なくおまわりさんに向かってギャーギャーと喚いていた。


「おい、俺様は急いでんだよ! 今からおっパブ行くんだよ! あくしろよ!? オマワリ、オメーも行くか? おっパブによ!! バルンバルンだぞオラァッ!?」


 オッサン、マジやめてくれよ……目の前の警官の目が冷たい。


 俺は今まで捕まった経験は無いが、恐らく通常の取調べは、個室で一人ずつ行うってのがセオリーなのではないのだろうか? しかし今、俺は大家と二人で取り調べ室に詰め込まれている。マジでブチ込まれる直前みたいな雰囲気だな、これ。

 

 目の前のおまわりさんを見ると、言葉遣いこそは丁寧なのだが、今にも額へ血管が浮き出してくるのではないかと思える程に恐ろしい形相だ。正直怖い。


 いくら上司が“逃がせ”と命令しているにせよ、当然現場にゃ現場の意地がある。乱暴狼藉を働いたクソ共をそうやすやすと帰らせてたまるか! って事なのだろう。いかん、大家は特にバレていない余罪とか多そうだし、これは下手を打つと怖いぞ。


 結局今回の“事件”、おまわりさん達の側から見るとこういう事だろう。

 

 まず、ワケのわからない万引き女が管轄内で大暴れし、パトカーと交番を破壊。発見出来ず、市外にまで応援を頼んで逃げる犯人を追い詰めるが……とうとう市民の営む飲食店に被害が出てしまう。まあ具体的に言うとラーメン屋、

 

 その後、犯人とその仲間が警察官へ路上で暴行する事、複数回。更にあろうことか犯人一味が”追われた意趣返し”とばかりに警察署へ殴りこみを掛け、職員及び署内が無茶苦茶に蹂躙された……

 

 しかもその後、突然上からの命令で犯人が無罪放免。いくらお(かみ)の命令とは言え、そりゃブチキレ寸前になるのも理解はできる。本当に申し訳ない気持ちで一杯だ。いや、これってやっぱ俺達、完全に悪者じゃねーか!!

 

 今更弁解の余地は無いとは思うが、一応主張だけはしておこう。『俺は一切の破壊活動をしておらず、ずっと”見ていただけ”です!』 と。あっ、いかん、忘れてた。食い逃げ“させられた”前科があったわ……でも何かもう、そんな事は大した事と感じなくなってしまった。



 大家にイライラしつつ、聴取を始めるおまわりさん。


「では先ずあなた、そう筋肉ムキムキのあなた(・・・)だよ。名前と年齢とお仕事教えて? あと住所もね」


 早くおっパブに行きたいのか、案外素直に答える大家。


「しげる・brown・アームストロング、36歳。もう帰っていいか? あー、仕事はアレだ。みんなの憧れ、大家さんだぜ」


 大家って職業なのか……? まあいい、しかしおまわりさんのツッコミが入る。


「はい、お仕事は……無職、っと。あと、あなたねぇ、そんな名前があるわけ……」


 ポイッと財布ごと免許証を机に投げて見せる大家。それを手に取り、『嘘だろ?』といった様子でまじまじと確認する警官。


「失礼しました。では次は隣の君ね」


 来ましたよ……


 因みに俺、出来る限り他人の前で本名を明かしたくない。何故なら……実はある種、非常に変わった名前なのだ。それを知る大家は、机に頬杖をついたまま此方を見てニヤニヤしている。


 しかしこの状況で“言いたくない”……が通るはずも無く。こういう場合に『聴取って任意ですよね?』なんて戯言が通用すると思い込んでいるのは、相当な世間知らずか、アタマがヤバい奴のどちらかとなるのだろう。


 俺は仕方なく名乗った。


「えっと、や……だ……ろう……です……」


 声が小さくて聞こえなかったのだろう、問い返すおまわりさん。


「え?」


「ですから、や……だ……ろう……です……」


 おまわりさんが少しイラついたような声で、俺へと”ハッキリ言うように”促した。


 クソ、言うしかない。意を決してハッキリと名乗る。


「や、山田太郎(やまだたろう)……26歳です」


 少しの沈黙の後、おまわりさんが口を開いた。


「君、警察ナメてるの……??」


 隣で爆笑した大家が、警官に大声で余計な事を語る。


「ぶっははは! オマワリさんよぉ、嘘だと思うだろ? だがなぁ、コイツほんとに”やまだ・たろう”なんだぜ!! ぎゃはは!! わかんねーか?? アレだよアレ! 検尿とか検便とか、ギョウチュウ検査の時に名前のサンプルで書いてるアレだよ!」


 頭にきた俺は、隣で笑う大家(チンピラ)に言い返す!


「おいコラ!! 全国の山田太郎さんと花子さん、あと田中一郎さんとか鈴木さんにも謝れ!! それとアンタにだけは言われたくねーよ!? 大体アンタの名前なんて、日本人かどうかすらわかんねーだろ!?」


 突然素の表情に戻り、とても悲しそうな顔をする大家(しげる)さん。


「ちょ、お前……ヒドくね……? 俺のお父さんが一生懸命、俺の為に考えて付けてくれた名前……それをワケがわかんねー名前って……ちょっとヒドくね……?」


 あれ……? チクリ……良心が痛む。いけない、謝ろう。


「あ……何かその……大家(しげる)さん、ごめん。そういうつもりじゃ……いや、謝ります。すんませんでした……」


 俺が心底謝りたいと思ったその気持ちが、彼に通じたのかも知れない。俺の肩をポンっと叩いて頷き、『いいって事よ』と大家が笑う。


 正直、彼のこういう所はサッパリしていて男らしいと思うし、嫌いではない……いや待て、何かおかしい!! 俺は大きく息を吸うと、大家に向かって大声で怒鳴った。


「ちょっと待った! 先に俺の名前をギョウチュウ検査とか言って、散々バカにしたのはアンタの方だろーが!! おい! やってやるぜ! 表出ろ! 喧嘩したら間違いなく俺が負けるけど!!」


「ぶっはは!! おーし、相手してやんぜケンベンマン! 掛かってこいやオラ!」


 慌てて間に割って入るおまわりさん。こうして俺達の事情聴取は進行していったのである。


 

 



 これまでの経緯をおまわりさんに一から話し、多少、同情された俺が開放されたのは……三十分程後の事だった。あと、おまわりさんは名前を笑った事を謝ってくれた。逆に泣きたい。


「ういーっ。良かったなケンベン、おまわりが“ヨンパチ”だとか言い出さなくてよ」


「ヨンパチ……? 何の事スか?? あ、パチンコ玉の単価か何かでしたっけ?」


 でも今、この状況でパチ屋は関係無いだろうし、このオッサンは一体何を言っているのだろう?


 呆れた様に俺の顔を見る大家(マッチョ)


「おめー馬鹿か? この場でヨンパチつったら“四十八時間勾留(おとまり)”の事に決まってんじゃねーか。お前ホント常識ねぇのな? 大体、社会人としてソレはねぇぞ、割とマジなハナシよ」


「んな事、善良な一般市民は知りもしませんわ! そういうアンタのイカレた常識を押し付けるの、マジでやめて貰えません――!?」




 それから警察署のロビー……“だった場所”に戻って来ると、自動販売機スペースの前で他の皆が待っていた。


 よく空腹を訴えていたレアが辛抱していたものだと感心していると、アリシアさんが缶コーヒーを差し出しながら話し掛けて来てくれた。


「あっ。太郎さん、お疲れさまでした。大変だったでしょう? 可哀相……よしよししてあげる。あっ、これ飲んで下さいね?」


 ああ、やはり天使だ。少し背の低い大天使アリシアさんに頭をヨシヨシされ、俺はお礼を言いつつコーヒーを受け取る……って誰だよ!? よりによってアリシアさんに俺の名前を勝手に教えたヤツは!!


 となりでレアが騒いでいる。


「太郎! 太郎! オーヤに聞いたぞ! 私は問う! ケンベンとは一体何だ!? それとウ◯コが貴様の出自に深い関係があると聞いたのだ!!」


「ねーよ――!?」


 ふと横崎署長と目が合うと、スッと視線を逸らされ、避けられた気がする。クソっ、今、笑うのを我慢しやがったな?


 問い正すと、どうやら皆でマジックミラー越しに取り調べ室を覗いていたようだ。

 



 その後、ロビーを抜ける際に……片付けに奔走する警察署職員の皆様方の、刺さる様な”憤怒の視線”を全身に受けつつ、俺達は駐車場の大家の車の前まで戻ってきた。


(これでようやく終わった……のか?)


 無意識に詰まっていた呼吸を緩め、深呼吸しながら夜空を仰ぎ見る。


 暗い夜空は午前中ずっと降っていた雨など嘘だったように澄み渡り、漆黒の闇に散りばめられた星々がキラキラと元気に瞬いている。


 今日一日のドタバタ劇を思い返すが、平凡な俺の一生分の出来事(トラブル)が、ギュっと”今日という日”に押し込められて圧縮されたような感覚を覚えた。再び大きく深呼吸。ようやく少し肩が軽くなった気がした。


 さあ、疲れた。飯でも食って、我が家へ帰ろう。


 ”丁度七人乗り”の自家用車(バン)で、俺達を商店街まで送ってくれた大家(マッチョ)と神様は……そのまま夜の街へと消えていった。


 彼らはきっと、俺が未だ見ぬ聖地”おっぱぶ”へと繰り出したのだろう。正直、どんな楽園なのか俺も知りたい……知りたいです!! ハッスル!!


 神様からアイコンタクトでお誘いがあったが、憧れのアリシアさんに軽蔑される恐れがあるため、断腸の思いでお断りした。その後残りの女性陣とファミレスで食事をし、レア、アリシアさん、ヒルドの三人を書店に送り届けてから、俺も家路につく。


 疲れきっていたのか、自宅に帰りついた俺は……風呂に入るのも忘れ、そのまま布団を敷いて倒れこんだ。もう無理だ、明日の朝になったらシャワーを浴びよう。


 それからウトウトしつつ、ふと俺は考えた。一体、これから別の世界でどんな仕事をさせられるのかわからないが……ともかく、給料だけは確実に増える筈。それに都会のお偉い大卒方がどうなのかは知らないが、地元の平均所得や俺の年齢を加味して考えると……正直、この待遇は破格だと断言して差し支えないだろう。


 物欲。そう、人間というものは、少し懐に余裕が生まれると……“希望”という名の物欲が鎌首をもたげてくるものだ。


「俺が……車?」


 俺は、以前から欲しかったが、とても手が出ない”自家用車”について思いを馳せる。そもそも俺達の住む神丘市は田舎町。当然、言うまでもなく車社会だ。アパートには一応駐車場だってあるし、皆、主婦に至っても殆どの人達が自家用車を所持している。一人一台。そうだな、車があって困る事はない。


 ではもし自家用車を買うとなった場合、やはり……男なら一度は乗ってみたいスポーツタイプの車だろうか? いやいや実用性を考えると、やはり大家のような大人数乗れるタイプの方が良いのだろうか……?

 

 今日の警察署からの帰り道、大家の車は俺達”七人”を悠々と乗せて商店街(ファミレス)まで送り届けた。見た目のガラの悪さはアレだが、何だかんだ言って本当に便利である。大人数用の車は室内も広いし、荷物だって沢山詰めるだろう。


(ふーむ、これは一体どうしたものか……)


 などと、捕らぬ狸の皮算用をしていた俺なのだが、ふと”ある事”が少し引っ掛かった。


 あれ……? 今日帰りに車に乗ってた”七人”って誰だったっけ??


 不思議に思い、指折り数える。


 先ず俺だろ? そんで運転手の大家(しげる)さんだろ? レアのアホだろ? 大天使アリシアさんだろ? 神様だろ? あとヒルドさんだろ? あれ、あと一人は“誰”だっけ……?


 いやいや、確かに“丁度、七人”乗っていたはずなんだが??

 

 そう必死で考えようとしたのだが、疲れ切った俺の意識はいつとも知れず遠のき……そのまま闇へと溶けていったのだった。


 こうして、俺の三連休の初日がようやく幕を閉じたのである。 




――ピピッ! ピピッ!


 部屋へ鳴り響く、目覚ましのタイマー。


 うるさい……


 俺は昨日の騒ぎで疲れているんだ。もうちょっとだけ寝よう。


 布団の中で目を瞑ったまま、手探りで目覚まし時計を探すが……ダメだ、見つからない。


 しかし目を瞑っているのに”見つからない”とはこれまた妙な表現だ。暫く手を這わせて目覚ましの位置を探っていると……『あいっ!』という声と共に、誰かが俺の手へと握らせてくれたのだった。


「ああ、ありがとう」


 お礼を言ってアラームを解除し、時計を枕元に戻して再び二度寝に入る。疲れているし連休だし、もう少しだけならいいだろう。


「どー・いた・ました!?」


 ふふっ、”どういたしまして”……だろ? 全く舌足らずで面白いヤツだ……


 んっ――!?


 えっと、今……誰かが居たような!?


「だ、誰だ!?」


 布団を押し退け飛び起きる。


 腹に巻いていたタオルケットを頭から被り、ゆっくりと部屋を見回すが……当然、そこには誰もいない。


 ああそうか、寝ぼけてたんだな。そりゃそうだ、昨日あんな事があったんだ、いや待て。昨日の事件も、もしかしたら夢……だったりしてな。うんうん、まだ頭がボーッとしてるし、多分きっとそうなのだろう。


 ははは。大体、魔法だとか異世界だとか、良く考えたら夢の典型じゃねーか。こりゃ俺も随分と童心に帰ったモンだ。でも現実逃避をする程ににストレスが溜まってるんかなぁ? そうならかなりヤバいな、気を付けないと。


 ふと、レアという登場人物(アホウ)の事を思い出す。


 しかし……現実逃避した先の夢であんなにストレス受けてたら、それこそ意味無いよな、本末転倒とはまさにこの事か。まあいいや。あ、でもアリシアさんだけは、夢じゃないと……いいよなぁ。


 そう考えた俺はもう一度布団へ入り、フワフワした気分で二度寝を開始する。


 そうして再び目を瞑ったその時。


「どー・いた・ました!」


「うひゃあい――!?」


 反射的に奇妙な声が出た。


 飛び起き、再び部屋を見回すが……やはり何もいない。


 これって幻聴か!?


 いやしかし、確実に”何かの声”を聞いた。深呼吸し、注意深く声のした方向を探すと……じーざす! ソイツはいた。


 そう、俺の視界に入った奇妙な”ソレ”は、ちゃぶ台の上にちょこんと座り、目覚まし時計を小脇に抱えてジッとこちらを見つめていたのである。



 一体何なんだ……!? ”コイツ”は。

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