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ふるきゆうしゃのものがたり。

 皆様ごきげんいかがでしょうか? ワセリン太郎です!

唐突ですが、皆様は”おっぱぶ”はお好きでしょうか? お嫌いですか?

僕は行った事はないのですが……大好きです!!


 えっと……異世界?


 はは、また面白い事を言う人達だ。ああ、そうか、これはジョークだ。きっと、おちょくられてるんだな? お茶目なジーサンだなぁ……と、思って”カミサマ”の顔を見ると、彼は至って真面目な顔でこちらを見つめている。


 老人は言葉を続けた。


「急にこんな事を言われても、一切信じられんのはわかる。しかしのぅ、隣り合う”別の世界”というのは現実に複数存在するんじゃ。地球の存在するこの次元もその一つ。儂はその数多ある世界を管理する者。簡単に言うと神じゃ。あ、今お主、笑ったろ?」


「い、いえ……」


 流石に俺は中学生ではない。いい加減、良い歳をこいた大人だ。しかしそんな俺より、更に御年を召された目の前の老人が……真面目な顔をして面白い事を言う。


 俺は笑いを殺すのに必死だった。異世界……? 神……? ああ成程。こうやって俺たち若造をおちょくり、暫くして飽きたら解放してくれるって腹だな? ならまあ、こちらも先輩方にお付き合いさせて頂かねばなるまい。どうせ最後は、街へ繰り出し“飲み会”って流れだ。


 そう思い、 大家に同意を得ようとして隣をチラリと見ると……彼は心底驚いた様な顔をして『マジ……かよ……!?』と。あ、ダメだこのオッサン! ジイサマの与太話を完璧に信じきってる!


 部屋に流れる微妙な空気。そして再び”カミサマ”が口を開いた。


「うむ、儂の言葉は信じられないのも無理は無い。そこでじゃ、”魔法”というものを見せてやろう。そうすりゃ儂の事や世界の事、信じる気にもなろうて」


 ……あんだって? ま・ほ・う?? いいね、見せて貰おうじゃないの! どーせ手品か何かなんだろうけど。俺は老人に向かって頷いた。ニヤリと笑い、老人が俺の額に手をかざし小さな声で呪文のようなものを唱え出す。


「……ガ・……ミタイ・……イオ……ガ……イ……パイ……ツ……ガ・モ……イ……オ……パブ……」


 何かブツブツと唱えた老人の掌が淡いピンク色に輝く……! ほらきた、何かの発光トリックだ。俺は簡単に騙されはしない。まずはこれでハートをキャッチしておき、次に驚いた相手に何かしらの事象を見せ、嵌める。


 マジックの常套手段だな。しかしここは、上手く騙された振りをしなければならない。年長者を立てる、下っ端の腕の見せ所だ!!


  ふふふ、さあどんなものを見せてくれるんだ……? 俺が騙されるものかと身構えていると、老人が俺の耳元で囁いた。


「よいか? 小僧。これより先……”何”が見えても決して慌ててはいかん。声をあげるな。絶対じゃ。さあ、ゆっくりと部屋(ラクエン)の中を見回して見るがよい……」


 そう言って、老人は“パチン!”と指を鳴らした。


 何か一瞬、視界が暗転したような気がするが……気のせいだろう、と片付ける。それから俺は、促されるままに部屋の中を見回してみるが……何か変わった様子は……うん、無いな。


もしかして、 相当探さないとわからないレベルの、本当にしょーもないマジックじゃないだろうな? そういうのが一番リアクション取るのに困るんだよなぁ。実際、こういうのはしっかりブン投げてもらわないと、綺麗に受け身も取れやしない。


 そう思い、もう一度部屋を見回す。


 がっ……!?


 突然、俺の刻が止まる。


 なん……だ……と!? まず、俺の目の前にいたヒルドという女性に目が止まった。


 な、なんだ……これは!? 何故だ!? 彼女は何故、一糸纏わぬ……産まれたままの姿なのだ!?


 あ、因みに俺、”現物”は初めて見ました!! ええっ、何という美しさ!? そして……かなり……かなりおっきいです!! こちらを見て、笑顔で首を傾げるヒルド。


 目の前に広がる絶景。ありがてぇ!! ありがてえ!! ありがてえ!! 当のヒルドは不思議な顔をしたまま、こちらを見ている。本人は全く気付いていないようだ。つまり俺にしか見えていない……!?


 ……ハッ! まさか……!?


 ヒルドをガン見しつつ、俺はある重要な事を思い付く。そう、この部屋にはアリシアさんという天使がいるのだ。


 そっと、”カミサマ”の方を見る俺。鋭い光を目に宿した”カミサマ”は、俺へと静かに頷く。そうして二人でゆっくりと……アリシアさんの方へ視線を移動させた。


 うわあぃっ――!?


 眼球が血圧で血走り、祝福の鐘が鳴る。雪解けの大地に芽吹く春の新芽、風にたなびく緑の草原、小川流れる清らかな大地!! これまで無宗教、また不信心だった俺の心に……雲の切れ間から一筋の光が差込み、降り注ぐ神の恩寵が清らかに穢れを洗い流してゆく……おお、神よ!ハ・レ・ル・ヤ!!


 俺は今日この日、神の信徒になると決めた。


「えっとぉ……? あのぉ……お二人共……何でしょうか? その……私がなにか??」


 アリシアさん! 非常に、非常にご立派でございます!! 俺はその光景を心の奥にしっかりと刻み付ける。そう、永久(とわ)に忘れる事のないように……そして俺は、もう二度と目を洗わないと硬く心に誓った。

 

 不思議そうな顔をして『ん~?』と首を傾げるアリシアさん。


 ゆさり……ゆれる二峰の神聖なるチョランマ。これが世界遺産というヤツか!? なんだ、ユネスコに認定されるのもこれでは納得だ。

 ゴクリ……喉を鳴らす俺。大変、大変お美しゅう御座います!! ビバ!世界遺産!! 俺は今、異世界や神、異能の存在を再認識し、神への信仰を深めた。


 もし今、俺が世界中が注目している中で記者会見に引きずり出されたとしよう。科学者達が俺に懐疑的な視線を向け、記者達からは心無い言葉や嘲笑が投げ掛けられる。


 周囲に俺の味方は誰もいない……


 それでも神の敬虔な使途である俺は、涙を流しながら力強く世界に訴えるだろう。『異世界は……異世界はあります……!!』と。



 さて、次にレア……は、いいや。うん。確かにレアも黙っていれば非常に魅力的だ。そう、口を開かず黙っていれば、だ。本来美しい筈の外見を暗雲の如く覆い隠す、あのどうしようもない中身。人格。残念すぎる。俺は再び絨毯で例の”草むしり遊び”を始めたレアを無視し、神様の方に向き直る。


「神様、結構なお手前で御座いました。それでは”異世界”の話を続けて頂いても宜しいでしょうか?」


「うむ。信じて貰えたようで何よりじゃ」


 アリシアさんとヒルドが、少し怪訝な顔をしていたが……この際、気にしない。


 神様が何かを呟き、魔法が解ける……


 えっ! 何で!? そのままが良かったんですが!! お願いだから戻してよ! ヒルドさんのも、もう一度見たいんです! わんすもあ! 神様、もう一度だけ!!


 俺の心中を察したのか、神様が気の毒そうにボソリと言った。


「燃費が悪いんじゃよ、この魔法。あとな、可哀想じゃが、普通の人体への負担を考えると……正直、二度目は難しい。ハッキリ言うと、失明する覚悟が必要じゃな」


「嘘だと言ってよバーニィ――!?」


「誰がバーニィじゃ」


 その後、様々な話を聞かされた俺がまず驚いたのが、レア達の存在だった。


 レアが言っていた様に、レアとヒルドに関しては本当に戦乙女。主に戦死した勇敢な死者の魂を刈り取り、天界へと連れ帰るとの事だ。死神かよ!? おっかねえ。どうりで俺が何度も死にそうな目に合うはずだ。


 次にアリシアさんが天使だという事。これは改めて言われなくとも、元々俺の中では天使だったので特に問題ない。そう言うと『あら……』と言って頬を染めるアリシアさん。ちょーかわいいです!!


 また、アリシアさんの住む商店街の本屋は本来、天界より派遣されている天使の駐在所の一つであり、そうして全国各地に存在する天使駐在所のネットワークを使い、日本の状況を監視、把握。定期的に天界に報告しているらしい。当然、日本以外の国にも天使は派遣されているらしく……そのネットワークは巨大だそうな。


 因みに本屋さんはアリシアさんの実益を兼ねた趣味。素敵です。結婚して下さい!!


 それで俺達がこれから調査に向かう異世界は、現時点の日本より文明レベルが低く、それでいて様々な種族が生活しているとの事。


 街を一歩出ると危険なモンスターや巨大な獣と遭遇する可能性もあるらしい。 


 当然、事なかれ主義の俺は、そんな物騒な生物なんかと会いたくもない。神様が『まあ、あれじゃ。あのほら、よくある異世界じゃよ。何も心配はいらん』とか仰っていたが、モンスターが闊歩する世界がそんなにあってたまるか。遠くから見てる分には動物園よろしく、案外面白そうではあるけれど。


 そして当たり前ではあるが、現地では日本語は通じない。それでは困るので、天界の人達が生まれつき持っているという、”全ての言語と文字及び数字を理解できる能力”に相当する“魔法”を出発前に神様が掛けてくれるそうだ。


 話がひとしきり終わって俺も落ち着いたのだが、一つ気になる事があった。横崎署長だ。一体何者なのだろう? 話を聞いている際にも別段驚いた様子も無くお茶をすすったり、うんうんと頷いていたりした。どうにも単なる人間だとは思えない。


 当然だが興味が沸いて来て……いやあの、決して男に興味があるという意味ではない。俺は至ってノーマルだ。ふと、知らない方が良い事もある……という言葉が頭をよぎるが、好奇心の方が勝り、恐る恐る尋ねてみた。


「あの、署長、一つお聞きしたいことが」


 署長がどうぞと頷く。


「神様のお話を聞いている時、署長は全く驚いた様子が無かったのですが……もしかして署長もそちら側の方なのでしょうか……?」


 笑って答える横崎署長。


「ああ、それかい? 確かに、気にはなっただろうね。多分、私が君でもそう訪ねるだろう。では少しお話しようか。よろしいですかな? 神様」


 神様が笑って肯定する。それを見た署長も頷き、言葉を続けた。


「もう30年程前になるだろうか……ある所にね、一人の警察官がいたんだよ……」


 突然、待ちくたびれた大家が怒鳴る。


「おい! いい加減にしろや! 俺と神様(ジイサマ)はな! これからおっぱぶに……」


 大家(マッチョ)の頭頂部へと神様(ジイサマ)の手が置かれ、オッサンがグニャリと静かになった。どうやら……叫ぶ途中に魔法か何かで眠らされた様だ。やっぱ本物なんだな、この人達は。


 署長が話を続けた。


「その若い警察官はね、毎日毎日、同じような仕事をして帰宅する日々に嫌気がさしていたんだ。平凡な日常が続くという事はね、本当はとてもありがたい事なんだよ。だけどその時の彼は”大切な事”に気付かなかったんだね……」


 それはきっと”彼の物語”なのだろう。


 俺は静かに耳を傾ける。少し隣を見ると、レアが出されたお茶菓子を黙々と食べていた。えらく静かだとは思ったが……そういう事か。遠い目をした署長が語り出す。


「ある日の事だった。彼はいい加減嫌になって、心の底から神に願ったんだ。『どこか遠くへ行きたい! 俺にだって、他人とは違う、もっと華やかな人生を!』……ってね。願いが”神様”に届いたのかも知れない。きっとその時、彼の人生に魔法が掛けられたんだろう。それから暫く経って彼の前に”悪い魔法使い”が現れたんだ」


 チラリと神様の方を見る署長。ぷいと視線を逸らす神様。


 再び物語は続く。


「現れた魔法使いは彼をそそのかす。『他の誰も歩めない人生が欲しいか? 血沸き肉踊る、とびっきりの冒険に出掛けたいか? ならばワシと共に来い』ってね。彼に断る理由はなかった。今思うとその時の彼は……人生に何かが起きるなら何でも良かったんだろうね」


 正直、わからなくはない。多分、そういう機会が与えられる状況になれば、俺だって……いや、それは俺だけでなく、きっと皆、誰でもそうなのだ。


「それから、彼と魔法使いの冒険が始まったんだ。見たこともない世界に行き、その地の様々な人達の助けを借りながら、彼は魔法使いと共に冒険を続けて行った。当たり前だが簡単ではなかったよ。如何に今まで恵まれた環境で生き、いや……生かされていたのかを、彼は身を持って知るんだ。でも苦しい事ばかりでもなかった。彼はその世界で後に伴侶となる女性を得たり、生涯忘れられない友とも出会う。そして……」


 少し懐かしむように遠くを見た。


「彼と魔法使いは……苦難の末に悪い竜と魔王を打ち倒しましたとさ。めでたし、めでたし。そんな古い御伽噺さ。ふふ、聞いててつまらなかっただろう?」


 元“英雄”……と呼ばれる”生きた伝説”が俺の目の前に立っている……!?


 俺は身震いをした。なるほど先程の強さも納得がいった。しかも”フッ、昔の話さ”みたいな語り口!! 痺れるあこがれる……!! 俺が一人興奮していると、レアの阿呆が口を挟んだ。


「おい貴様、私は暴れたから腹が減ったぞ。何か食べに行こう。今すぐ連れて行け。そうたラーメンがいい。よろしくおねがいします!!」


 アホのおかげで、勇者の伝説が台無しだ……まあいい。あんま良くないけれど。


 俺が『一旦帰っても?』と尋ねると、二人が肯定して頷く。


 それから大家を小突いて起こしつつ、神様が今後について俺に伝えて来た。


「また明日にでも顔を出すからの。今日は帰って休むがいい。ワシはこれからこの阿呆を連れておっパブへ行く。約束は約束じゃからな。謙三、お前も来るかの?」


 笑って拒否する横崎署長。そうだ! 勇者はおっパブなんて行かない!! 俺は勇者じゃないから……ちょっと……いや、かなり行ってみたい……けど……


 周囲を見回すと、冷徹な鋭い視線で男性陣を見るヒルド、そして対照的に悲しそうな表情のアリシアさんの姿が目に入ったので……ここは女性陣と行動を共にした方が賢明だと思う。いやホントは行きたくてしょうがないんですけどね!!


 『では、色々とご迷惑をお掛けしました』と挨拶し、俺達は署長室を退出する。


 ああ、ドッと疲れて腹が減ったので、もし良いなら皆を連れてどこか寄って帰ろうか。あれ? 良く考えると美女ニ人に頭のおかしな美人が一人……!?


 レアがいるのが大きな問題ではあるが、いやいや! これはこれで悪くないぞ!


 さて、戻るか。


 そうやって廊下を歩き出した俺に、背後から声が掛かる。


 振り返ると……廊下を片付けていたおまわりさんの一人だ。


「あ、ごめんね、君まだ帰れないから」


「へ……?」


 聞き返す俺。


「えっと、あの、署長は帰って良いと……」


 ニッコリと笑って答える警官。


「それはそれ。君達にはまだ事情聴取が待ってるから」


 こうして、俺と大家はそのまま取り調べ室へと直行となったのである。


 あれ!? レアは?……無しだと!? 何で!? 主犯は解放されて、何で俺達だけ!? くっそ忖度しやがって、フザけんな!!!

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