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ドキドキ! ぼくらのたのしい転職。

 こんにちは!ワセリン太郎です。

今日サイト内のジャンル変更のおしらせという公式の記事を見つけて読んでみました。これからジャンルが色々と複雑化するようです。そこで僕が気になったのが「ファンタジー」の項目。

 僕が書いている小説「レアさん奇行」もファンタジーに該当すると思われます。

そのファンタジーのなのですが、今後「ハイファンタジー」と「ローファンタジー」にわけられるようです。

僕なりにかんがえたのですが、ハイファンタジーはお上品なファンタジー。

ローファンタジーはお下品なファンタジー。僕はハイファンタジーで行こうと決めました。

あと、ファンタが飲みたくなってきました。

 こんなおじいさん、さっきまで居たっけ……?


 驚いた俺がその老人を凝視すると、その人はこちらを見てニッコリと微笑んだ。


 随分と背が高い。日本語は流暢だが、レア達のような中高い顔立ちからして外国人なのだろう。俺との身長差からして、百八十センチ以上はある筈だ。そして立派な身なりに白く長い髭。隣には透き通るような青い髪と瞳のスーツ姿の女性が、一歩下がって付き従う様に立っている。秘書か? だとすると、どこか会社の社長さん? まあ何にせよ無関係ではないのだろう。でなけりゃ、わざわざこんな現場へ“火の粉”を被りに来る筈がない。


 一体、何者だろう……? とりあえず俺は会釈する。するとその老人も笑顔で会釈を返し、再び対峙するレアと年配のおまわりさんの方へと向き直った。


  レアが静寂を破り、口を開く。


「……貴殿は何者だ? 見る限り、相当な実力をお持ちとお見受けする」


 ニコリと笑い、答える年配のおまわりさん。


「おっとこれは失礼。名乗るのが遅れたね、私は神丘市警察署、署長……横崎です」


 名乗りに応じ、答えるレア。


「私も名乗らず失礼した。我が名はレア。主神オーディンに仕えし戦乙女。今回、貴殿等ケーサツの横暴な振る舞いを是正すべく、参上した」


 いやいやいや! ”乱暴狼藉”を働いたのは貴女の方なんですが!? 俺の心のツッコミを無視してレアが続ける。笑いながら睨み合う二人の隣では、ベンチに座った大家(バカモノ)がスマホのゲームに熱中していた。いい加減、空気読めよオッサン。


「フッ。これまでの相手、いささか物足りぬと思ってはいたが……やはり親玉がいたか。そうでなくては張り合いもない。貴殿が今回の一連の騒ぎの黒幕だな? よかろう! この神の裁きを受け取るがいい!!」


 いや、だから今回の騒ぎの元凶は全部あなたなんですけどね、レアさん!! 相手が丸腰なので同じ土俵に上がるつもりなのか、無手のまま構えるレア。横崎署長は後ろ手に組んだまま直立し、身動きもしない。


 ジリジリと間合いを詰めて行くレア。緊張が走る。皆が見守る中、しんと静まり返った署内には大家のスマホゲームの間抜けな音だけが響く。見ている俺の掌にはジットリと汗が……


 次の瞬間、レアが動いた。横崎署長に飛び掛る! 初手は右のパンチか!? と、思わせて左脚による中段の横薙ぎ――


 その蹴り脚が署長の胴に到達しようとした瞬間、一歩前に出た横崎署長が右手でレアのふとももを抑えて蹴り脚の勢いを削ぐ。

 ニヤリとしたレアが、その反動で右のパンチを署長の顔面にお見舞いする――! しかしそれが届くことは無かった。署長がレアの右肩の付け根を左拳で突いていたのだ。


 『グッ……』とうめき声を上げて下がるレア。署長は再び手を後ろに組んで、身動きすらしない。


 強い……


 俺は武術に関してはド素人だ。金曜夜に放送されるボクシングやキックの試合を見ながら『おい、何やってんだよ! そこはそうじゃねーだろ!? もっと足つかえよ!! あーもう! 今の、俺ならカウンターの一撃で終わらせてたのに!」などと、発泡酒片手に評論家気取りの”よく居る輩”である。

 

 しかしそんな俺にでも、目の前のおじさんが恐ろしく強いという事は、本能的に理解ができた。


 レアの身体能力は非常に高く、戦闘能力は比例して高い。当然、武器を持たない肉弾戦においても、それは何も変わりはしない。それは、そこかしこに寝転んで、ウンウン唸っているおまわりさん達を見れば明白だ。

 だが、そのレアがたった一人の年配のおまわりさん相手に手も足も出ない。あれがもしかして”達人”というやつなのだろうか……?


 その後、何度も飛び掛るレアであったが……結果はどれも同じようなものだった。


 格闘戦では勝ち目がない……そう思ったのか、レアが背中から金属バットを取り出す。それを見た横崎署長はニヤリとすると後ろ手に組んでいた両の手を前に突き出し構えを取った。


 先程の騒ぎで、足元に転がる警棒。


 レアはそれを足で横崎署長に向けて蹴り飛ばし、“ソイツを使え”とばかりに彼へ促す。しかし横崎署長は笑ったまま、首を横に振って見せた。


 顔をしかめるレア。署長が“掛かって来なさい”……と彼女へ手招きした。


 その時、俺のとなりで見ていた老人が何かを呟く。


「……ルド」


「……?」


 俺が少し隣を気にしていると、老人の隣にいた青い髪の美しい女性が、スッ……とレア達の方へと歩み出た。


「参る――!!」


 レアが叫び、上段に振りかぶったバットを署長に振り下ろす! ニヤリとしながら臆する事無くズンと前に出て、迎え撃つ署長。


 決着か――!?


 そう思った次の瞬間、署内に老人の大きな声が響いた。


「双方そこまで!!」


 ビクッとして老人の方を見た俺だが、再びレア達に視線を戻すと……彼女と横崎署長の間に、いつの間にか先程の”青い髪の女性”が割り込んでいた。


「マジかよ……」


 思わず声が漏れた。


 その女性は、右手で振り下ろされたバットの中頃を平然と掴み、まっすぐに伸ばした左手の指先を横崎署長の喉元へと突きつけている。


 暫くするとレアのバットを持つ手の力が緩められ、横崎署長も笑いながら両手を軽く挙げ”降参”のポーズを取った。


 こうして手に汗握る”決闘”は終わりを迎えたのだ。当然、今回も俺は見ていただけである。俺はもう職場を辞めて実況解説者に転職した方が良いのかもしれない……


 緊張の解ける署内。後ろからは『はぁ~……』と腰が抜けてへたり込むアリシアさんの声が。大家のアホはというと……『ちょ、おまえソレ卑怯だろクソが……! 覚えてろよオラァ!』などとと言いつつ、未だにスマホのゲームに熱中していた。






 一連の騒ぎが一旦の終結を迎えた後、俺達は神丘警察署の署長室に通されていた。いやまあ、通されたというか、連行されたと表現するのが正しいのかは分からないんだけど。


 とにかく、部屋の中には俺とレアにアリシアさん。加えて黒マッチョ大家に先程の謎のご老人。そして先程の騒ぎを収めた、蒼い髪の女性。俺が落ち着き無く部屋を見回していると、この部屋の主、横崎署長が口を開いた。


「お久しぶりですな、神様。前回お会いしたのは何時だったでしょうかな」


 ソファーに座った老人が、髭を撫でつけながら答える。ちなみに俺、レア、大家の三名は床の絨毯の上に直接正座させられている。


「うーむ、半年振りぐらいになるのかのう。元気にしとったか? 謙三」


 そうか、署長の名前は”横崎謙三”……か。何か響きがカッコいいな。それに比べて俺の本名ときたら……などと考えていた俺なのであるが、先程署長の口から発せられた”妙なワード”に今更気がついた。


 カミサマ……? 神様だと……? こんな時に警察署長がふざけて物を言うだろうか?


 ああ、アレか、あだ名だ。この老人に付けられたニックネームだ、そうに違いない。確かにこのおじいさん、神様ってあだ名でもあんま違和感がない雰囲気だしな。きっと知人からはそう呼ばれているんだろう。


 横から大家(マッチョ)が口を挟む。


「おいおい、カミサマよぉ! ずっと正座してて足痛えんだが、もういいだろ? ノリで暴れたのは悪かったよ、つーワケで、そろそろカンベンしてくれや。俺様だってよ、反省してんだぜ? ワカンだろ、な?」


 このアホオヤジ、見ず知らずのおじいさんをいきなりニックネームで呼ぶな。だが、特に無礼に構う素振りを見せずに答える”カミサマ”。


「ダメじゃダメじゃ。シゲルや、お主はそこで暫く反省しとれ。じゃがまあ……もし良い子にしとれば、後で”おっパブ”に連れて行ってやらんでもない。どうじゃ、おとなしく出来るか?」


「ッシャオラ! わかりました!」


 即答する大家。『ひっ!?』と可愛らしく両手で胸を覆うアリシアさん。隣を見ると、正座中のレアが口を尖がらせブツブツ文句を言っている。なーにが『私は悪くないもん』だ。アホ共は放っておいて、俺は尋ねる。


「えっとその……署長。先程伺った件なんですが、その……俺達が無罪放免になるというのは、本当なのでしょうか??」


 どうも信じられないハナシだ。


 困ったように笑いながら答える署長。


「ええ、本来なら暫く塀の中で奉仕作業に従事して貰うところなんだがね……あれ、もしかして君、やりたいの?」


 意地が悪い。だがこれまで起こした騒ぎを考えると何も言えない。ニヤリと笑った署長が続ける。


「しかしね、流石に何もペナルティを課さない……とはいかないよ? 正直、起こした騒ぎは小さくない。その代わり君達にはある条件を提示する。そしてこの条件を聞いたらもう後へは戻れない。必ずやって貰う。それでもいいかね?」


 考え込む俺。隣では大家が『勿体ぶってねえでさっさと言えや! おっパブ行けなくなんだろーがよ!』などと騒いでいる。頼むからあんたは黙ってろ。


 レアはというと、正座した床の絨毯に絡んだ汚れを見つけ、それを一生懸命ムシって遊んでいる。ダメだこいつら。しかしペナルティか、一体どんな事だろう? でも交換条件と言うからには、正当なお裁きを受けるより多少は条件が悪くないのかもしれない……


 しかし何とは言えないが、微妙に嫌な予感がする。例えば、町内の奉仕活動を相当な長期間期間させられる……とだろうか? でももしそんな事なら、起こした騒ぎを考えるに、そう悪いハナシでもない。

 だが、そんな雰囲気でもないな。何しろ署長も”カミサマ”と呼ばれる老人も、先程からニヤニヤと笑っているのだ。


 だがこの状況、逃れられはすまい。そして“聞いたら後戻り出来ない”か。


 深呼吸し、俺は……意を決して答えた。


「わかりました。その”条件”を“お受け”します」


「うむ、なかなかに決断が早くて宜しい」


 ニッコリ笑う署長と”カミサマ”。一応独断だと悪い……と気が咎めて大家の方を振り向くが。『ああ? 何でもいいから、あくしろよ!』……このオッサン、本当にいいのだろうか? いや、もういいわ。 ”カミサマ”がゆっくりと口を開く。


「ヒルド、まず就業条件の提示を。話はそれからじゃ。坊主、万年貧乏しとるお前さん方には悪くないハナシじゃぞ?」


 就業条件――!? 仕事って事か?? あとこの御老人、何で俺が薄給貧乏なのを知ってるんだ? まあそこは今はどうでもいいけど。


 ヒルド。そう呼ばれたら蒼い髪の女性が応じる。


「神よ、仰せのままに」


 この人も”カミ”かよ? 何か現実感の無い”ごっこ遊び”をしているようで少し白ける。が、起こした騒ぎは現実の物だ。とりあえず黙って話を聞こう。今、彼等の機嫌を損ねるのは得策ではない。そのヒルドがこちらを向き、話を始めた。


「ではまず、あなた方二名には我々と契約して頂き、毎月お持ちの口座に給与が支払われる事となります。こちらの現地通貨なので”円”ですね。それと我々と労使契約を結ぶに当って……現在、お勤めになられている企業等は辞職して頂きます」


 転職させられる……って事!?


 マジかぁ……


 ははぁ、でも魂胆がわかったぞ。要は低賃金でずっとコキ使おうって腹か? だがしかし! 元々手取り額が雀の涙な上、散々ブラックにコキ使われて来た俺を……少々甘く見たな? 内心ガッツポーズを取る。


 あれ、でも今より給料が下がったらどうしよう!? それに滅茶苦茶ハードな職場かもしれない。例えばそう、マイナスうん十度の海の上、船にゆられて半年間……ヤバい、少し不安になって来たぞ。


 だが、このまま犯罪者となって社会的にお亡くなりになるよりは、随分と希望があるじゃないか! 生きてるだけで丸儲けなんだと、前向きに考えるしかない。それが気に食わないなら……俺の背後で口を開けるは、数年間の牢獄(ブタバコ)生活だ。


 とりあえず何をさせられるのか、わかった物じゃないが……他人様から見れば、別に大したものでもないのかも知れないが、一応、俺だって人生が掛かってる。せめて、給与の支給金額だけでも聞いておこう。


「えっと……あの……ちなみにお給金はいかほどで……?」


 ヒルドが真顔で答える。


「そうですね。総額ではなく、単純に手取りでの金額が知りたいのでしょう? それにつきましては、最初は大体35万円程度と考えてください。あとは勤続年数や、仕事の成果によって多少増加するかと」


……ハァ?? “手取り額”のハナシだよ? いや、そもそも総支給額にしても多い気が……


「えっと……総支給額じゃなくて?」


「ええ。税金や、福利厚生等の金額を差し引いて、貴方の口座に支払われる金額……という認識で構いませんよ?」


 そう言って、柔らかい笑みを見せる彼女。


 さ☆ん☆じゅ☆う☆ご☆ま☆ん☆!? ひゃっほう!! あと何だよ“福利厚生”って! そんなの初めて聞いたよお母さん!! でもやっぱこれって、真冬の漁船でマグロ追いかけたりするアレじゃないの? 福利厚生ってもしかして、受取人不明の俺の“生命保険”だったりする? 勿論、警察が怪しむレベルで高額なヤツ!


 しかしもう後へは引けない。隣からレアが首を突っ込んでくる。


「なあ、いったい三十五万円とはどんな感じだ!? ラーメンが何杯食える!? 詳細を聞く権利が私にはある!」


 ねえよ!


 とりあえずオマエは引っ込んでろ! と、レアの顔を手で押さえて退ける。そして大家の方を見ると……やはりこちらも、まんざらでもなさそうだ。大体、このオッサンもお金持ってなさそうだしな、気持ちはわかるぜ。俺はアリシアさんも見ている手前、内心小躍りしているのを悟られると恥ずかしいので、冷静を装って内容の続きを尋ねた。


 でも本当に何をさせられるんだ?? まさか警察関係で、色々な現場の“お掃除”とか無いよな? いや、ありえるのか? 聞くしかない。


「ちなみに、就業内容はどういったものなのでしょうか? 前職の経験を活かせると良いのですが……」


 ヒルドが答える。


「ええ。二人でコンビを組み、調査対象となる現地へ赴き問題の原因の特定……そうですね、わかりやすく言うと足を使っての調査業務となります」


 ふと頭に浮かんだのが……”借金取り”。まあ体裁は良くないかもしれないが、前科者にされるよりはマシだ。


 それにこの大家(コワモテ)と一緒なら、大概の連中は怖くない。いける……やってやれない事はない。俺だけで行くと、逆に身包み剥がされて放り出されそうだけど。


 俺は理解したような顔で大家に向かって頷き同意を得、最後にひとつ気になる事をヒルドに向かって尋ねた。


「わかりました。お引き受けしたいと思います。それと最後に一つ。調査する対象の地域……一つではないのかもしれませんが、どのような地域を想定すれば宜しいのでしょうか? やはり調査というからには、人口の多い関東や関西圏と考えても?」


 俺の質問を受け、ヒルドが何か答えようとした瞬間、例の”カミサマ”がそれを遮って代わりに答えた。


「行き先はな、お前さん達の世界の言葉で言うところの……そう、異世界じゃ」


 は?……このジーサン今何と……?? 異世界? ……?? この人何言ってんの? 俺がポカンと顔を上げると、そこにはニヤニヤと笑っている横崎署長と”カミサマ”の姿があったのである。

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