一進一退
こんにちは! ワセリン太郎です! 少し書き溜めてある分を吐き出していきたいと思い、一時間おきに三回程更新してみたいと思います! 他の溜まっている分は……まだチェックが終わっておりませんので悪しからず!
俺の手をぎゅっと握ったまま、こちらを見上げてロッタちゃんが再び訴えてくる。
「太郎……レアが何か変。いつもと違う……なんかすごく嫌、いつものレアがいい……」
「ああ……だよな」
しかし猛然と手にした大鎌を振るい、恐るべき速度でロキへと襲いかかるレアを止める術はない。確かに俺達が今、無事にこの状況を切り抜けるには”あの力”が必要なのかもしれないが……
「くっ! 案外やるじゃない!」
「……逃がさん」
大きく飛び下がったロキへと一瞬で追いつき、回転しながら変則的に上下へと斬り分けてゆくレア。ロキも再び異空間から”長槍”を召喚し、迫り来るレアの鎌の柄を叩き、すんでのところで防御した。一進一退……というより、明らかにレアが押し勝っている!?
手に持つ長槍を大きく振りかぶって斬り付けるロキ。レアがそれを手に持つ盾で防御しようとした瞬間、ロキは突然槍を宙に捨てて飛び下がり、再び高速で呪文を唱えて魔法を撃ち放った。
だが同時に……というより明らかに後から詠唱を開始したにも関わらず、先に魔法を放ってこれを相殺、迎撃するレア。ロキの表情に僅かな焦りが見える。
「くっ! 戦乙女のくせにアタシより……一体何なのコイツ!?」
次はまた何処からか”斧”を取り出して構えるロキ。そして激突し、鍔迫り合いの膠着状態となる二人。
斧の先の窪みで鎌の柄の部分を抑え、レアと押し合うロキだが……『この馬鹿力女……!』どうもレアの方が力が強いらしく、ジリジリと押し込まれて片膝をついてしまった。彼女へと徐々に迫る大鎌の切っ先。
しかし次の瞬間、ロキがニヤリと笑う。
「掛かったわね? お馬鹿さん。こっそり詠唱してて時間が掛かったけど、もう逃げられないわよ? ──Gleipnir!!」
突然レアの足元に魔方陣が現れ、そこから伸びる無数の黒く細い縄。それがレアの身体へと絡みつき……その自由を奪い去る。ホッと一息ついたような表情のロキ。これはまずい、レアを助けないと!
俺がビニール傘を握りしめ、対峙する二人の間へ走り出そうとしたその時、レアの瞳に燃える紅い輝きが一層強くなる。直後、何かを呟く彼女。
「目覚めろ! Aigis!!」
レアが持つ盾の中央に施された”不気味な女性の首の装飾”の眼が……禍々しい光を放ちながらゆっくりと──開く!
「──つっ!?」
酷く驚き、飛び下がろうとしたロキであったが、何故だか彼女は勢い余って後ろ向きに転倒してしまった。一体何が? そう思って良く見ると……
「ちょ!? あれどうなってんだよ!?」
「太郎……ロキの身体が石になってる……」
そう、ロッタちゃんの言う通り、逃げようとしたロキの下半身、正確にはふくらはぎ辺りからジワジワと上へ向けて……徐々に”石”へと変貌しつつあるのだ。悲痛な表情で叫ぶロキ。
「おのれ! ゴルゴネイオンか!? こんな呪いなんかでアタシが……ふざけないでっ!」
俺とロッタちゃんが呆然と見ている中、徐々に身体が石に変えられてゆくロキ。既に両手両脚に加えて腰の辺りまでパキパキと音を立てて石化しており、立ち上がる事もままならない様子だ。
流石にこれ以上はまずい、死んでしまう。このままでは完全に石像と化してしまうのにそう時間は掛からないだろう。
「おいレア! その辺でいいだろ? もう止めとけ!」
割って入った俺に、諦めた様な顔で呟くロキ。
「もう無駄よ……この呪い、解けないもの」
「な、何とか手はないのか……!? レア! ロキを助けてやれよ!!」
しかし縛られたまま俺の事もギロリと睨み、”コイツは敵だぞ”と言わんばかりのレア。本当に一体どうしちまったんだ……?
「逃げなさい! 見境なくなってるし、下手したらアンタ達もやられるわよ!? アタシが消滅したら、そのグレイプニルも消えちゃうんだから!」
「ダメだ! 敵だろうが何だろうが……人が死ぬのはダメだ!」
レアの腕にしがみつき、泣きながら訴えるロッタちゃん。
「レア! だめ! やめて!!」
それを見たロキは……最早、首まで石に変わろうとしているのに、急に落ち着き払った表情で溜息を吐いた。
「アンタ達ねぇ……ああっ、もういいわよ! どんだけお人好しなんだか! バッカじゃないの!?」
そう言い放った彼女は……突然、砂の様に崩れ去ったのだった。し、死んだのか……? しかし依然、魔方陣から発生した”縄”で縛り付けられたままのレアの姿。
少し間を置き、『パチパチパチパチ……』突然背後から拍手が聞こえてきた。驚いて後ろを振り返るがそこには誰もおらず、ゆっくりと手を叩く音だけが響いてくる。
そして少し高い位置から降って来る、聞き覚えのある声。
「ふーん、アタシの”分身”を相手に戦って勝つなんてね。戦乙女にしてはやるじゃない? 褒めてあげる。それじゃご褒美に、次はアタシ自らが相手をしてあげようかしら。何か正気じゃないっぽいのが気に入らないけどね」
どこだ!? そう慌てて周囲を良く見ると……公衆便所の屋根の上で脚を組み、頬杖をついてこちらを見下ろすパジャマ姿のロキが。
「……生きとったんかいワレ!?」
「アタシがあの程度で死ぬワケないでしょ!? バッカじゃないの?」
消えたのは分身だったのか……しかし心配してやったのに、全くいけ好かない女だ。直後、俺とロッタちゃんの背後から唸る様な声が聞こえ……
「はああぁぁぁあああっ!!」
──ブチブチッ!
レアが両手を拘束されていた綱を引き千切ったのだ。驚いたロキが大声をあげる。
「ちょっと! グレイプニルを引き千切るなんて、どんだけ馬鹿力なのよ!? こわっ!」
両手が自由になり、手に持つ鎌で残りの”綱”を斬り落とすレア。それを見て何か納得した様子のロキが再び口を開いた。
「やっぱりね。それ、アダマント製なんだ? それかオリハルコンでもないとグレイプニルは切り裂けない。それをどうやって千切ったんだか……そのうえゴルゴネイオンの呪いの盾も所持、あと恐ろしい程の”馬鹿力”。アンタ結構、性質が悪いわね。思ってたより厄介……やっぱ方針変更、悪いけどさっさと決着を付けさせて貰うわよ」
彼女はそう言うと屋根の上にスクッと立ち上がり、目の前の空中に両手を掲げ、何かをブツブツと唱え始めた。
「保管者よ、裏切りに長けし者が望む。海を愛せし者に与えし九つの鍵を解き、今ここへ焼き尽くす炎、その戦の杖を顕現させ給え」
──ロキの眼前の空間が歪み、そこから彼女は……一振りの紅い刀身の剣を取り出した。俺の隣でロッタちゃんがゴクリと喉を鳴らして呟く。
「多分あれがレヴァンティン……ロキが持ってる天界最強の神器。すごく危ないって歴史の講義で習った……」
「ご名答。良く勉強してるわね? 偉いわよお嬢ちゃん。適当に相手しようと思ってたんだけどね、久々に骨のある相手だし……そうねぇ、神とかフリッグのババア以来じゃないかしら? だから少しだけサービスしてあげる。名誉に思いなさい? おかしな戦乙女さん」
ロキ目指し、俺達の背後から大きな鎌を構えてズイッと歩み出るレア。
「敵を……排除する」
「いいわ。今度はアタシから仕掛けてあげる……ちょっと、そこの外野二人! 邪魔だし下がっててくれる? ……危ないって言ってんの! いいから下がる!!」
何故だか急にこちらへ気を遣うロキ。言われるままに、俺とロッタちゃんは後退した。
正気を失い、凶暴化してパワーアップしたレア。本気となり、奥の手の神器まで出してきたロキ。もう俺達がどうこう出来る次元のハナシではない。
こうして第二ラウンドのゴングが再び鳴ったのだった。




