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花一匁

 こんにちは! ワセリン太郎です! 


 ちなみに春は一年で一番、路上に”変〇者”が出没しやすい季節だそうです! 非常に楽しみですね!!



 

「お前……ロキだな?」


 そう言った俺に、ロッタちゃんへとバットを向けて警戒したままのレアが驚く。


「……えっ!? そうなのか!? た、太郎、何故わかったのだ!?」


 珍しくレアがバシッと決めた風に見えたのに、やはりこうなるのか。


「レア、お前さ、そもそも今まで、他に敵対者の名前出てきてないでしょ? 逆に聞くけど誰だと思ったんだよ!?」


「えっと……誰だろうな? わからん!」


 がっくりと項垂れるが、今はそれどころではない。もし俺の予想が当たっていれば、事態は最悪の方向へと向かっていると言っても過言ではないのだ。


 こちら側の間抜けなやりとりを見て、呆れた様な顔をしたロッタちゃん……ではない、何者かが再び口を開く。


「アンタ達さぁ……もしかしてバカなの? ま、いいわ。アタシが用があるのはそこの人間。タロウって言ったっけ? さっさと”神気の結晶”をこちらに渡しなさい。でないと……こうよ?」


 ──ドクン!


 そう喋っていたロッタちゃんの輪郭が、急に二重になった様に見え、直後に膝から崩れ落ちる。しかしその身体が地に伏せる事は無く、突然背後に現れた”誰か”に抱きかかえられたのだった。


 



 風に流れる長い金髪。整った顔立ちに燃えるような紅い瞳、そして長身で細く長い手足……その顔には見覚えがあった。そう、それはフリッグ様が魔法で書き出してくれた”悪神ロキ”の似顔絵が、そのまま現実へと抜け出して来たかの様な冷たい美貌。


 しかし……


「なあロキ、お前さ……何でパジャマ着てんの……?」


 こちらの発言を聞き、急に顔を真っ赤にする”悪神”。


「うっさい! こ、これはね! そ、そう! 着替える暇がなかったっていうか! 別に洋服持ってないとかそんなんじゃないのよ!?」


 見事に着古したグレーのパジャマと庭用サンダルである。そして彼女が履く茶色いサンダルには見覚えがあった。俺は思わず状況も忘れ、ある種の使命感に駆られてツッコんでしまう。


「そのサンダル……先月、〇ンキホーテで超大安売りしてたヤツだろ? 俺も二つ買ったわ。スゲー安かったしな! あと女の子なんだから靴下くらい履こうぜ?」


「う、うっさい! だまれっ! あーもう何か腹立つ! いいからさっさと”結晶”を渡しなさい! でないとこの娘……消しちゃうわよ?」


 意識のないロッタちゃんの首へと手をまわし、締める素振りを見せるロキ。これはまずい。


「わ、わかった! 渡す、渡すから! だからその子に手を出すな!」


 クソッ、ロキはロッタちゃんに憑依か何かをしていたのか? もしずっと見ていたのなら、完全にこちらの手の内を知られている。


 俺は……しぶしぶリュックを降ろし、その中から預かっていた”神気の結晶”を取り出して彼女へと見せる。


 リュックの中には、以前ヤクザの兄貴から貰った手榴弾も入っているので、代わりにそれを投げようか? とも思ったのだが……流石にロッタちゃんを人質に取られているので断念するしかない。そもそも神を相手に手榴弾などが有効なのかという疑問もある。


「これだろ? わかったよ、渡すからロッタちゃんを返してくれ」


 ニヤリと笑うロキ。


「いいわよ? 別にこんな子供なんてどうでもいいし。はい、それこっちに投げて」


 じわり……逆にロキから距離を取る俺。


「ダメだ。その場にロッタちゃんを寝かせてからこちらへ来てくれ」


 俺の交渉に全く警戒する様子も見せずに応じ、躊躇いなく近寄ってくるロキ。よし、これでロッタちゃんからアイツを引き離す事に成功した。この距離なら手榴弾が使えそうだ、もう少しこちらへ……そう思って再びリュックの中へ手を入れた瞬間だった。


 ──突然俺の肩にポンと置かれる腕。


「ふ~ん、アンタ随分と珍しい物を持ってんのね? でもそんな物騒な物、一体どこで手に入れたの? 戦争映画とかでしか見た事ないし……てか、それでアタシをどうにかできるとか思っちゃったりしたワケ?」


「──なっ!?」


 目の前を見ると、笑いながらこちらへと歩いて来るロキの姿。そして……隣を見ると俺の肩に手を置き、リュックの中を覗き込むロキの姿。


 分身か!? 幻影か!? 驚いた俺は”結晶”を握り、その場から飛び下がった!


 だが……


「ありがと。それじゃコレは約束通り貰っていくわね?」


 俺が逃げた先に三人目のロキが存在していたのだ。驚愕する手から、何事も無かった様にスルリと奪われる”神気の結晶”。


 膝が震える。だめだ……コイツには絶対に勝てない。心を折るには十分過ぎる程の力の差、これまでの相手とは次元が違う。


 俺はたったそれだけの事で絶望してしまいそうになった。しかし珍しく黙って見ていたアホの子の声が、その淵から俺を現実に引き戻す。


「あ~、ロキとか言ったな? えっとだな、それは私達の”番号札”とかいうのでな、後で使うのだそうだ。なので貴様にはやらんぞ? さっさと太郎に返すがよい。それと私達は急いでいるので、悪いがかまっている暇はないのだ」


 ”切り札”だバカタレ。しかしいつもの間抜けな物言いに、俺の凍えた背筋に血液の暖かさが戻る。


 ジロリ……レアを見るロキ。


「何アンタ? アタシに文句でもあんの? 羽付きの一級か二級神ごとき天使の分際で、神格に対して意見しようとか……」


 言われてみればロキには天界人特有の翼が無い。そういや以前、天界に戻った神様(カミサマ)にも翼が無かった様な……? だが全く怯む様子も見せずに続けるレア。


「何度も言うが、私達には貴様と遊んでいる暇はないのだ。アルヴィト姉さんがタイヘンなのだ。ほら、早く太郎にそれを返すがよい。時間がないのだ」


 ナメられ、頭にきた様子のロキ。急に目つきが鋭くなり、確かに”神”と言われても何ら不思議ではないオーラをその身に宿し、レアへとぶつけてゆく。しかし相変わらずひょうひょうとした様子のレア。


 すると明らかにカッとなっていたロキが、再びニコリと笑顔を見せた。


「ふーん、そう? じゃあアタシがこれを返さないって言ったら……どうするの?」


 困った様子を見せるレア。


「うむ、それでは仕方がないので、無理矢理取り戻すしかなくなるぞ? あまりそういった事はしたくないのだが」


 またニヤリと笑うロキ。


「へぇ、アタシに勝てるとでも? 面白いわね。それじゃゲームをしましょ? アンタがアタシに勝てたら……そうね、天界も全て解放して人質達も全員見逃がしてあげる。逆にアタシが勝ったら、この”結晶”と”万能薬”を両方貰うってのはどうかしら?」


「うむ! よくわからんが良いだろう! まあ後で”悪神”とかいうのをブッ飛ばさないといけないし、その肩慣らしとしては丁度良いだろう。貴様も”まあまあ”強そうだしな!」


 だからその目の前の相手が”悪神ロキ”だっつーの!! いやしかし、どうも妙な感じだ。ロキの条件がフェア過ぎる。レア相手に負ける気がしないという自信の現れなのかも知れないが。


 しかしレアには勝算はあるのだろうか……? いや、何も考えてはいまい。とにかく今こそ”アレ”を使う時だ。俺は背中から抜いた聖剣様(キンゾクバット)で素振りを始めたレアを手招きする。


「レア、お前メルクリウスから貰った”例の小瓶”を使えよ? あの”神気解放”とかいうのができるヤツだ。アレがないと流石にヤバ……じゃなくて、お前使うのを楽しみにしてただろ?」


 コイツには難しい説明をしても話がややこしくなる一方だ。持ち上げて乗り気にさせるしかない。


「うーむ、でもあれは”悪神”に使って格好良く戦う”必殺技”的なアイテムなのだ。この様な三下(さんした)相手に使うのはちょっとなぁ……」


 ”三下(さんした)”。そう言われたのが聞こえたのか、再び表情に険を含むロキ。これは本格的にマズい。


「言ってくれるじゃない……天使ごときが」


 俺は再び別のアプローチを試みる。


「いやー、俺さ。レアが”アレ”を使ってカッコ良く戦ってるのを見たいなーと。さぞかしスゲエんだろうなー!」


 ニヘラと笑い、急に前向きになるアホの子。


「そうか! それなら仕方がないな! うむ、実は私も”アレ”を使うのもやぶさかでは無いと、さっきから思っていたところなのだ! 奇遇だな!」


 よし! とりあえず乗ってきた! そうこうしていると意識が戻ったのか、倒れていたロッタちゃんがノソリと起き上がって来る。


「ん……太郎、これどういう状況? あれって……ロキ!?」


「いやさ……色々あってさ、レアとロキがタイマンを張る流れに……」


 『バカ……』目を覆って嘆く仕草を見せる彼女。こうして、”アホの子”対”悪神”の第一ラウンドの幕が切って落とされたのだった。

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