欺瞞の園
こんにちは! ワセリン太郎です! 早く続きを書きたくてたまらなかったので、どんどん行こうと思います!
「えっ!? ロ、ロキ!?」
倒れたアルヴィトさんの出血部位をタオルで押さえ、必死の形相で慌てるレア。
「太郎! そんな事より血が! 血が出てる! このままでは……」
震えたまま、その場にへたり込むフリスト。一体どちらが本当なんだ!? 彼女の表情を見る限り、嘘を吐いているようにも見えない。
いや、今はそんな事を言っている場合ではない! もし本当に倒れているのがロキであったとしても……
「誰か! 誰か回復魔法を使えないのか? ロッタちゃん!」
「太郎どいて!」
慌てて倒れたアルヴィトさんに回復魔法を掛けるロッタちゃん。少し間を置き、彼女はそれを連発する。しかし……
「ダメ……私の使える魔法じゃ……」
どうもロッタちゃん達、候補生の魔法で手に負える怪我ではないらしい。レアのアホはまともに魔法を使えないし……その時だった。縛られていたシギュンが叫ぶ!
「私の拘束を解いてください! 早く! 急がないと死んじゃう!」
言われるがままに彼女の身体を縛る縄をと……ちょ!? 解けない!? なんじゃこりゃ!? 誰だよ!? 亀甲縛りなんて高度な技術を編み出したヤツは!?
慌ててフリストが落とした短剣を掴み、縄を乱雑に斬り飛ばしてシギュンを解放すると……彼女は急いでアルヴィトさんへと駆け寄り、ボウッと輝く両の掌を刺された幹部へとかざしたのだった。
しかし……
「えっ!? ダメ!? 傷が……傷が塞がらない!?」
驚き怪我の様子を見ると、シギュンが魔法を掛けて暫く経つと……再び傷が開く様に、新しい血が滲んでくるのだ。
「ど、どゆこと?」
これには、俺の背後で立ち直ったらしきフリストが答えた。
「それは……自分の家系に伝わる……固有の宝具です」
呻く様に倒れているアルヴィトさんが呟いた。
「魔障の短剣……か。傷が三日三晩続くという……」
どうやら回復魔法で意識は戻った様だ。しかし彼女へと大声を上げるフリスト。
「ロキ! 騙されませんよ! 自分は見たのです、貴女が捕まえたアルヴィト姉様を存在ごと燃やし、幻術で同じ姿に成り代わる瞬間を! 如何に神と言えども、その短剣で刺されては傷は容易には塞がりません。今すぐ天界を解放してください!」
しかし興奮するフリストを手で制してロッタちゃんが言った。
「ちょっと待ってフリスト。これを使えばわかる」
それは……先程アルヴィトさんがシギュンへと向けた魔導具。そう、例の”嘘発見器”の様な機械だ。ロッタちゃんはそれを倒れたままのアルヴィトさんへ向けて……
「答えて。あなたは本当はロキ?」
「いや、違うよ……私はアルヴィトだ」
何も反応はない。どうもアルヴィトさんは嘘をついていないようだ。頷くロッタちゃん。その時、回復魔法を掛けていたシギュンが、何かに気付いた様にフリストを指さした。
「あのぉ……どちらかというと……フリストちゃんの身体からロキ姉様の幻術の残滓を感じるんです……本当に極僅かなので、多分姉妹の私にしか感知できないとは思いますけど」
ロッタちゃんがシギュンへと魔導具を向けるが……これまた嘘は吐いていない様であり。
「どうなってんのこれ……?」
「多分ですけど、フリストちゃんは偵察中にロキ姉様に捕まって、幻術魔法を掛けられたんだと思います。それからその時の記憶を消されて……空いた隙間に”偽の記憶”を植え付けられたんじゃないでしょうか? アルヴィトさんが消滅させられて、ロキ姉様がその姿に成り代わった……みたいな。記憶魔法で出来ない事はないんですよ、私はそんなの使えませんけど、まあロキ姉様ならやりかねないというか……」
愕然として崩れ落ちるフリスト。
「では自分は……ロキに騙されてアルヴィト姉様を……!?」
「ご、ごめんなさい……」
フリストに謝るシギュン。そりゃまあ姉のした事だが、常識人の彼女である。今の空気は非常に居づらいだろう。
倒れたアルヴィトさんへと近寄るフリストは震える声で、涙をポロポロとこぼしながら……
「アルヴィト姉様……自分は……何という事を……ごめんなさい! ごめんなさい!」
痛みに耐え、汗ばむ顔に無理に笑顔を作ったアルヴィトは。
「私は大丈夫さ。だからフリスト、泣くのをおやめ? これは君が悪いんじゃない、それにシギュンも手当をしてくれてるから……大丈夫さ」
しかし会話する二人の隣で、シギュンが俺へと小さな声で耳打ちした。
(あの、傷は抑えてありますが……出血が酷いです。このままでは血が足りなく……)
(わかった)
俺はフリストに事態を気付かれない様、アルヴィトさんへと訪ねる。彼女も馬鹿じゃない、己の置かれた状況は把握しているのだろう。
「アルヴィトさん。まあその内傷は治るんでしょうけど、何か手早く回復する方法ってないんですか? 出来ることがあるなら……俺が行きますよ?」
頷きながら、少し難しい顔をする彼女。
「太郎君、助かるよ。しかしまあ、手段はあるにはあるんだけど……これが少々厄介でね」
「構いません」
「ありがとう。実は戦乙女隊の宿舎にある、私の部屋の机の上に……非常に貴重な素材で作られた万能薬が置いてあってね。それさえあればたちどころに……」
まったく何でそんな貴重な物を自室の机の上に放置するかね? この人達は。確かアイリスさんも同じ様な事をしてた記憶が。まあいい、俺は彼女に頷いた。
そうして宿舎へと向かおうとすると、アルヴィトさんは再び俺を呼び止め、何かを手渡して来たのだった。
「太郎君、これを。操作法はロッタに教えてあるから、もしもチャンスがあるなら」
渡された物を見ると、それは薄いブルーに輝く水晶の様な物体。恐らくこれが移動用魔法門のキーとなる”神気の結晶”だ。俺はそれをリュックへ仕舞いながら再び頷き、何とかしますと約束する。
「では行ってきます。シギュン、ホント悪いけどアルヴィトさんをお願いしてもいいかな?」
快く引き受けてくれる彼女。やはり悪い人ではなさそうだ。
(恐らく数時間しか持ちません。何とか急いでください)
(……わかった)
「よし、そんじゃ行きますか!」
そう、己に気合いを入れて研究室の魔法門をくぐる。後ろからはレアとロッタちゃんもついて来た。この二人がいればロキはともかく、異形の怪物共なら何とでもなるだろう。なーに、先程まで居た宿舎へと戻って薬を持ち帰るだけだ、慎重に行けば何とかなるさ。
魔法門の通じる先のトイレへ到着し、そうこう考えていると……急にレアが疑問を口にした。
「なあ、太郎。その薬というのは……どんな形なのだ? 私は良く知らないぞ?」
そういや慌てていて聞いていなかったな。
「ああ、俺も良くわからんが……とにかくそれっぽいヤツを持って帰ればいいだろ? あんま大量に瓶とか置かれてたら、全部お持ち帰りになって困るけどな」
そう言いながら外の様子を伺う。どうやらトイレの周囲に敵の姿は無いようであり、安心した俺は後ろの二人へ”行くぞ”とジェスチャーして伝えた。ついてくるレア。
あれ……? 何か違和感を感じる。
振り向くと……何故かロッタちゃんが、トイレの入口で全く表情を変えず、立ったままジッとこちらを見ていた。
「ロッタちゃん、何してんだ? 早く行くぞ」
しかし、彼女はそれには応じず、先程のレアからの質問への回答と取れる内容を語り出したのだ。
「知ってる……? 万能薬は綺麗なガラスの小瓶に入っててさ、うっすらと蒼く輝いているのよ?」
「えっ……? そ、そうなんだ」
……違和感。
「そう。まるでその、背中のリュックに入ってる……”神気の結晶”みたいにね。ホント綺麗よね? それ」
「ああ、それより時間がないんだ、早く行こうぜ? ロッタちゃん」
……違和感。いつもは無表情の中にも、おどけて周囲を和ませるような優しい空気を纏う彼女が……ひどく妖艶な笑みを浮かべた。何故か心臓が高鳴り、額を嫌な汗が伝う。俺は少し身構えた。
急にロッタちゃんが自分の胸元から何かを取り出して見せる。それは……蒼い光を放つガラスの小瓶。それをおどける様な表情でこちらへ見せ、突然俺へと放り投げた。慌ててキャッチする。
「こ、これは……?」
「聞いてなかったの? 言ったでしょ、万能薬って、蒼く輝いてて……とても綺麗だって。良かったわね、それで怪我が治るわよ?」
──スッ。いつの間にか金属バットを背中から抜き取り構えたレアが俺の前へと立ちはだかり、それをロッタちゃんへと向けつつ問う。天界に戻ってから再び背中に生える純白の翼は……美しい水鳥が何かを警戒するかの如く、大きく緊張し、今にも羽ばたく様相を呈していた。
「貴様は……一体誰だ?」




