隠密行動
こんにちは! ワセリン太郎です! また月曜日ですね……嫌だなぁ!
開始すら待たず、砂上の楼閣の如く崩れ去った”天界奪還作戦”。正直、俺は途方に暮れていた。
本来であれば天界を占拠する悪神ロキに対し、神様が直接天界へと赴いて対処してくれる……そういう手筈だった。
しかし天界への通路が再び絶たれた今、その手段はもう使えない。俺の隣で元気よく素振りをするアホの子は、どうも悪神とタイマンを張り、勝つ気満々の様子ではあるのだが……
先程、ガレージに集まった際に神様から掛けられた言葉を思い出す。それは準備に向かったレアや、他の面子が戻って来る前の事だった。
「よいか? 太郎。人質救出に協力してくれるのは非常に助かる。しかしのう、一つだけ約束をしておいて欲しい事があるんじゃよ」
「はい、何でしょうか?」
「よいか? もし、誤ってワシより先にロキやシギュンと出会ってしまったら……何も考えずに逃げよ。酷い様じゃが……最悪、他を見捨てても構わぬ。ワシら神属にとってはそこまでして戦う意味はあるが、お主や大家にその義務はない。相手は腐っても神、神属であるなら戦えもしようが……人間の身であるお主達は、相手の機嫌次第では……二度と復活出来ぬ様、存在ごと”消滅”させられる可能性もある。良いか、約束じゃぞ? ”完全解放状態”の戦乙女ですら、一人では歯が立たぬ相手じゃ。この事、肝に銘じておきなさい」
はぁ……どうすんだよこれ。
要は相当おっかない相手に、俺とレアとパッ君だけで勝利しないと……日本へも帰れず、ずっと天界に閉じ込められたままって事だ。
ふと、ヴェストラで青魔人と交戦した際のヒルドの力を思い出す。あの力は相当に凄まじいものだった筈だ。しかし、それでも歯が立たないとは……やはり”神の力”って事か。
俺はガックリと項垂れながら……隣で金属バットを振り回し、楽しそうに素振りを続けるアホの子へと問う。
「なあ、レア。相手は”神”だぞ? 勝ち目あると思う……?」
素振りを続けながら鼻で笑うレア。
「なーに、先にブン殴った方が勝つ。それだけのハナシだろう? 心配するな!」
ああ、予想通りだ。この阿呆は”悪神”に真っ正面から”金属バット”で挑み、物理的にブン殴ってカタを付ける気なのだ。相手は魔法や幻術にも長けているらしいというのに……
俺達が出発前に勝つ気満々だったのは、あくまで神様あっての事。その事実が重くのし掛かる。
「パッ君、俺達……勝てるかな?」
「しら・ねーよ?」
「だよな……」
今回ばかりは流石に勝算が……そう考えていた時だった。
部屋の外、宿舎の廊下を遠くから近付いて来る複数の足音。恐らくは敵だ。何かしらの手段で俺達の侵入に気付いたのだろうか? いやしかし、ロキが”パッ君の胃袋が天界と繋がっている”事を知っているとは考えにくい。なにしろ、あの神様ですら御存知なかったレベルのハナシなのだから。
だが、今はそんな事を考えている場合ではない。敵と思しき足音は、遠くから徐々に近付いて来る。たしかこの部屋は廊下の突き当り……俺は荷物からビニール傘を抜き取りつつ、レアへと小さな声で話しかけた。
「おいレア、多分敵だ。まだ俺達が天界に来てる事がバレるとまずい。ここに隠れてやり過ごしたい所なんだけど……もし入ってきたら、いいな?」
頷くレア。
「うむ、了解した! 我が聖剣エクスカリバーの錆にしてくれようぞ!」
そう言った彼女は……何故か勢いよく扉を開け、部屋の外へと飛び出したのだった……えっ!?
「──ちょ!? おま! 何してくれてんの!?」
傘を握って呆然と立ち尽くす俺の耳に……部屋の外から飛び込んでくる、レアの勇ましいかけ声。
「かりばーっ! かりばーっ! かりばーっ! かりばーっ!!」
「「キ、キシャァァ!?」」
──あのアホ! 行くしか無い! 俺も床に荷物を放り出し、レアの後を追うが……
そこには、勝ち誇った様にバットをブンブンと振り回すレアの姿。足元には四体の異形の怪物達が転がっている。
「これ……さっきの一瞬でお前がやったの……?」
ニヤリと笑うアホの子。
「そうだぞ? 天界に戻って来たからな、日本にいる時より格段に力が漲っているのだ。強いだろう? もっと褒めるがよい!」
ああ……そうだった。戦乙女達は外界へと出る際に、力を一割程度まで制限されているって話だった。普段から随分と馬鹿力のレアであるが、それが約十倍か。道理で怪物達が一瞬で始末されるワケだ。いや、とりあえず今は助かる。
二人で動かなくなった怪物達を引きずり部屋に入れ、壁の大きく開いた穴から……お外へポイと投げ捨てながら考えた。
恐らくだが、この怪物達は見回り役だったのではないだろうか? そうだとしたら、戻って来ないことによって……ロキ達が異変に感づくのも時間の問題だ。とにかくこの場に居てはまずい。それに今の騒ぎで”既にバレている”かも知れない。何しろ相手は様々な魔法を使える存在なのだ、そう考えていた方が賢明だろう。
しかし一体何処へ行けば良いものか? ふと、”誰かが神様に連絡してきた”と聞いた事を思い出す。誰だっけ? 俺の知らない名前だったような気がする。もしまだ捕まっていないとすれば協力者が増える事になるし、ロキを出し抜いて魔法を飛ばしてきた位だ、それなりの腕を持つ人物ではあるのだろう。一旦その人を頼るか? ……まだ捕まってなきゃいいけど。
「おい、レア。神様に連絡して来た人って……何ていう人だっけ?」
俺の問いに、鼻をほじりながら答えるレア。
「ああ、アルヴィト姉さんの事だな? 彼女はすごいのだぞ? 魔導具管理部門の研究者であり、このエリートである私も一目置く程の優秀な人物でな。私が随分と小さい頃から面倒を見てくれていて、いつも”色々と面白い事”を教えてくれたものだ。とにかく非常に信頼のおける人物なのだ!」
レアの人格形成に一役買った人……少々嫌な予感がするが、今はその人を頼るしか無さそうだ。それに魔導具管理部門というなら、色々と便利な道具等の使用法にも精通しているだろう。何かの魔導具を使えれば、もしかしたら今の形勢を逆転できるかも知れない。
まあ管理倉庫自体はロキ達に押さえられてはいるだろうが、異形の怪物数体の程度なら……レアのアホがいれば実力行使でどうとでもなる。
「よし、んじゃそのアルヴィトさんを探しに行こうぜ。もし既にロキ達に捕まってたら……その時はまた考えるとするか!」
「うむ、そうしよう! しかし彼女がそう易々と捕まる訳がないだろう? やはり太郎はお馬鹿さんだな!」
「へいへい、何でもいいから行くぞ、レア!」
こうして俺達はコソコソとレアの自室を抜けだし、次なる行動を開始したのである。




