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始まりの場所へ

 こんにちは! ワセリン太郎です! ようやく”天界奪還編”開幕です! 今回は久しぶりの”レアさん&太郎君コンビ”のお話となります。

 

 さて今回、彼らはどのような”息の合った夫婦漫才”を見せてくれるのでしょうか? 

 

 ちなみにベースとなるストーリーはちゃんと用意してあるのですが、どうもレアさんがメインの回になると……彼女が頭の中で好き放題に自律行動を開始してしまい、お話がおかしな方向へと向かって行くのです。実はぶっちゃけた話……僕が物語を書く上で、一番苦手としているキャラクターがレアさんなのです。


 僕自身も楽しみなのと同時に、きちんと収拾がつくのかが……ちょっと不安になって来ました!

「よし、全員揃ったようじゃな。では、これより”天界奪還作戦”を決行する」


「「──はい!」」


 ”パッ君の胃袋が天界へ通じている事”を思い出した事により立案された奪還作戦。その手筈はこうだ。


 まず神様(カミサマ)と俺達がパッ君に飲まれて天界へと秘密裏に潜入、そして神様(カミサマ)がロキとシギュンを拘束しに向かう。流石に今回は相手が悪く、俺なんかがロキと鉢合わせにでもなった日には……非常に分が悪いとの事。これは当たり前か、相手が”神”である事に変わりは無いのだから。 


 そしてその間に俺達が人質を探し出し……救出する。当然、何かしらの罠は張り巡らせてあるだろうし、危険が伴う筈だ。注意して慎重に事を運ばねば……


 それと魔界への連絡も既に完了しており、あちらへ逗留中の神属達、加えて援軍の魔属軍も現在、進軍の準備中だ。彼女達については、後からフリッグ様が引き連れて天界入りする予定。


 本来は援軍を待ってからの方が心強いが……待たない理由は二つ。一つは時間的なもので、救出が遅れる程に人質が危険に晒される可能性がある事。

 もう一つはパッ君のキャパだ。援軍も入れると、その数は数百名にのぼる。当然飲み込めるのは一度につき一人だけなので、全軍を送り込む前に……恐らく何らかの形で決着がついている事だろう。しかしまあ、味方の数が多いに越した事はない。援軍が日本へ到着次第、順次送ってくれるそうだ。


 そういう訳で俺達が先行して侵入し、少数での隠密行動を取る事となった。最初は人数が少ない方が、敵にこちらの初動に気付かれる可能性も低くなるだろう。


 装備を整えてガレージへと集合した俺達に、メルクリウスが何かを手渡してきた。


「太郎君、大家(しげる)さん。二人にはこれを。これは神気や魔力への抵抗を持たない人間の為の護符なんだ。時間が無くて三枚ずつしか用意できなかったんだけど……でも強力な攻撃や催眠魔法なんかを、”一枚につき一度だけ”無効化してくれるからね? 安全の為に持っておいて欲しいんだ。あ、あとそれ、裏側シールになってるから」


「おう、貰っとくぜ! 風〇店の割引チケットなら、もっと良かったんだけどな!」


 空気を読まない発言をし、受け取ったそれを豪快にポケットへとねじ(・・)込む大家(マッチョ)。少し笑って頷いたメルクリウスは続ける。


「それと戦乙女(ヴァルキリー)達にはこれを。これも僕が保管していた物しか用意できなくて悪いのだけど、一人に二つずつ。緊急事態だし、使用については各自で判断してください」


 そう言うと彼は、ヒルド達へとガラスの小瓶を渡してゆく。ああ、あれはヴェストラの戦いでヒルドが使い、異形の怪物達のリーダーを圧倒した魔法具だ。戦乙女(ヴァルキリー)達を本来の”完全な無拘束状態の力”へと一時的に戻すもの……だったっけ?


 そう考えていると、レアとミストの順番がきたようだ。メルクリウスは、嬉しそうに手を出す彼女達の前で停止し、なにやら……渡し渋っていた。まあ、そりゃそうだろう、これこそ”馬鹿に刃物”というやつだ。メルクリウス、お前の判断はきっと正しい。


「えっと。レアとミストは……これの使い方については……本当に理解してる?」


「使った事無いけど、多分大丈夫だぞ! 私はエリートだからな! ほら、はよ渡せ!」


「あっ、アタシもソレ使ってみたかったんだよなー。レア姉さん、超楽しみだよな!」


 笑顔のレアとミスト。困ったようなメルクリウスだったが……渋々それを二人へと譲渡する。


「使っていいのは”どうしても必要に迫られた場合のみ”だからね? あと、もしその時が来てしまったら、”絶対に一つずつ”使う事。でないと”引き出される神気量”が不足してしまった場合、君達の”存在自体”を消費して……最悪消滅してしまう事になるんだ。いいね? 一度使用して、神気が回復しないまま使うのも駄目だよ?」


「うむ! 楽しみだな! ワクワクするな!」


「おっけー! 超楽しみ!」


 ちょ、大丈夫かこいつら……? 俺が不安になっていると、横からヒルドが口を挟んだ。


「メルクリウス。彼女達は責任を持って監督しておきますので……」


「うん、ちょっと怖いけど……頼むよヒルド。僕も出来る限りは注意しておく様にするけれど」


 その遣り取りを、困った様な顔をして見ていた神様(カミサマ)だったが、大きく息を吐くと……カンッと杖で床鳴らした。


「それではこれより天界へと向かう! 太郎や、パッ君をここへ」


「わかりました」


 俺はガレージ内の小さなテーブルの上に乗せておいたパッ君を、皆のいる場所の中央へと連れて来る。


「んじゃ頼むぜ? パッ君」


「いい・ぞー? タロー・いくか? レア・いくか?」


「ああ、行くよ。んじゃひと思いにパクッといってくれ」


 手を挙げて嬉しそうに前へ出るレア。


「パッ君、私だ! 私が一番がいい!」


「くう・よ?」


 そう言った次の瞬間、いつもは半開きのパッ君の口が、ガバリと分度器の様に百八十度に開く。そして……口の奥から”例の宇宙空間色をしたマジックハンド”が現れ……


 ──ばくっ!!


 レアを飲み込んだのだった。


 ──グッ、グッ……口の中に飲み込まれて行くアホの子。まあ、いつ見ても不気味な光景である。まるでカエルを飲み込む蛇のような……皆の表情を見ると、やはりというか当然というか、一様にドン引きしていた。さて、次は俺の番だ。


「げぷうぅぅぅぅぅ」


「よし、次、俺な? パッ君、次はすぐにいける?」


「くう・よ?」


 そして何の前触れもなく、視界が暗転する……どうやら食われた様だ。そうして俺の意識も謎の異空間へと沈んでいったのだった。







 しばらくすると、風が頬を撫でてゆく感触に意識が戻る。ああ、天界に着いたのか? ぼやけていた目をこすり、周囲を見渡してみると……成功だ。俺が最初にパッ君に食われた際に放り出されていたあの場所、例の”爆発して壁が吹き飛んだ部屋”である。

 隣では、背中から翼を生やしたレアがイビキをかいて寝ている。そういやコイツも天界人だったのを忘れていた。また何か騒ぎを起こしそうだし、皆が来るまで……コイツはこのまま転がしておこう。


 立ち上がり、穴の開いた壁の外を覗いてみる。耳を撫でる風切音、それがこの場所の高度を物語っていた。


 高い……足がすくむ。どうも天界という場所は、空の上の浮島の上に建築された”浮遊都市”の様な構造となっている様で、ここより遙か下の方に雲が浮かんで流れているのが見える。

 

 もし落ちたらどうするんだろう? 翼を持つ天界人達は飛べるからいいのか? そもそも、この下に大地はあるのだろうか? もしかしたら、この下が魔界だとか……? そう考えていると、ふとおかしな事に気がついたのだ。


 いい加減おかしい。そう、俺が飲まれ、送られたその後に……誰もこちらへと来ないのだ。


 少々不審に思っていると……近くの空間が歪み、虹色に輝く物体が、デロリと吐き出される。ようやく来たか。うえ、気持ち悪い。俺もこんな風になって出て来てたのか。


 しかしその”虹色の何か”は……随分と小さい様に思えた。サイズからして鶴千代あたりだろうか? もしアイツなら、我先にと飛び込みたがってゴネるだろう……いやでも、それにしてもあまりに小さい。


 暫く待つと、その輝きが薄れ……再び軽く空間が歪み、横たわるパッ君が現れ……て


 ──えっ!? パッ君!? 何でパッ君が!? 慌てた俺は、その小さな身体を揺すった。


「ちょ、おい! パッ君!? お前、何でこっち来てんの!? 他のみんなは!?」


 眠そうに口を開けるパッ君。そして俺の顔や周囲を不思議そうに見た彼は……恐ろしい事を口にしたのだ。


「まち・がえた?」


「──はぁ!? 間違えたって何を!?」


 猛烈に嫌な予感がする。まさか……


「……じぶん・くった・よ?」


 ──ジーザス!! 何をどうすれば、自分自身を食べられるというのだろう? 全く意味がわからない。いや、元来コイツの存在自体が意味のわからないものではあるのだが……そんな場合ではない。俺が一人で慌てていると、『うるさい、寝れないぞ太郎』と言いつつ、レアも起き上がってきた。


「おいレア! パッ君が自分自身を食べて、天界こっちへ来ちまった! これじゃ皆が来れないぞ! どーすんのこれ!?」


「パッ君はすごいな! 自分で自分を食べたのか!? ちょっと待て、凄い事を思いついた! お腹が空いたら自分を食べれば……永久機関だ!」


 このアホは何を言っているんだ!? んな事はどうでもいい! そうだ、もう一度パッ君に食われれば、再び日本へと戻れるんじゃないのか? そう思いついた俺は、慌ててパッ君へと問いただす。


「パッ君、ここでもう一回食われると……日本に戻れるんじゃないか?」


「くう・か?」


 あれ? 案外簡単にいけるっぽい? どうせ行先を聞いても明確な答えは得られまい。意を決して告げる。


「ああ、頼む」


 次の瞬間、暗転する俺の視界。そして、”行き先不明なまま食われる”というのも恐ろしいものだな……などと考えつつ、再び俺の意識は闇へと溶けていったのだった。






 


 頬を風が撫でてゆく……のと、何かでゴンゴンとつつかれている様な感触に目を覚ます。目の前には……金属バットの先で俺を揺するレア。意識がはっきりとしてきた。


「ここは……天界?」


「うむ! 太郎が虹色のキモい物体になって現れてな! 最初は太郎と気付かず、あまりのキモさにに外へと投げ棄てようかと思ったぞ! あ、ちなみにここは私の部屋だ。爆発で壁が無くなっているがな!」


 俺は外へと投棄される所だったのか、恐ろしい。それにここ、お前の部屋だったんかい……っとそんな事を考えている場合ではない。

 結局、パッ君の胃袋は……レアの部屋へと繋がっているだけで、日本へと戻る事は出来ないということか?


 これは困った、非常にまずい。今頃、日本の大家(しげる)さん宅のガレージは大騒ぎになっているだろう。


 一旦、天界側の移動用魔法門(ゲート)へと走り、日本への脱出を試みようか? 前回来た際の帰りに使ったので……場所は知っている。いや、それも望みが薄いか。


 神様(カミサマ)の話では『恐らく天界から外へ向けての通路も塞がれておるはずじゃ。そうでなければ、臨時通行手形を持った誰かが援軍を求め、日本や魔界、異世界(アタランテ)側へと脱出して来てもおかしくはない』との事だ。

 他にも罠だったりと、移動用魔法門(ゲート)付近に近づけない理由もあるのかも知れないな。


 俺は不安になり、隣で『かりばーっ!』とバットをブンブン振り、素振りをしているレアの顔を覗き込む。


「あのさレア……どうも援軍来ない状況っぽいんだけど。どーするよ、これ」


 しかし彼女は不思議そうな顔をしてこう言ったのだった。


「うん? 簡単だろう。そのロキとかいうのをブチのめせば良いのだろう? 心配ないぞ、私に任せておけ! ハッハッハッ」


 こうして……孤立無援の天界奪還作戦の幕が切って落とされたのだった。マジでどーすんの、これ!?

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