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トリックスター

 こんにちは! ワセリン太郎です! 先日、『小説における”真面目なうんこ”のお話』というエッセイを投稿させて頂いたのですが……皆様があまり読んでくれません! 

 その不満を友人へ漏らした所、有難い事に時間を掛けて一読してくれ、それから……『お前アタマ大丈夫か?』との感想を頂きました! 一体何がいけなかったのでしょう!? よくわかりません!!

「ふむ……これは随分と厄介な事になりおったわい」


 眉間に皺を寄せ、その長い白髭を撫でつけながら神様(カミサマ)が言う。その隣では奥様であるフリッグ様も、似たような表情で溜息を吐いていた。


「はぁ、まさか今頃になって”あの子達”がこんなことをしでかす(・・・・)とはねぇ。全くアタシゃ頭が痛いよ……」


 詳しく聞くと、事の真相はこうらしい。


 日本へ神様(カミサマ)率いる一軍、また別の世界へはフリッグ様の一団。そして異世界(アタランテ)へは俺達と……各々の世界へ出現した脅威に対抗する為、戦乙女ヴァルキリー隊が総出で出撃したわけだが、その為に天界からは殆どの戦力が出払ってしまった。


 そして出撃した皆は各地域にて、敵戦力と交戦するのだが……実はその全てが”陽動”であった、と。


 通常であれば、移動用魔法門ゲートを使用できるのは通行許可を得た神属のみ。それで神様(カミサマ)達もノーマークだった様で、ここに非常に大きな隙を見せてしまう。


 そしてその間に、敵の首謀者がどうにかして天界へと侵入。戦闘力を持たない文官達やロッタちゃんの様な戦乙女(ヴァルキリー)の訓練生を人質に取り、天界を制圧してしまったらしい。それからこちらの援軍を絶つ為に、天界への移動用魔法門ゲート自体を閉じてしまった。


 また、その首謀者が如何にして異形の怪物達と手を組むに至ったのかは……神様(カミサマ)にもわからないとの事である。


 これらの事実は……今朝早くに天界の研究室から”極めて短時間の通信”が入った事により発覚したらしいのだが、その後一切の連絡は途絶えているそうだ。


「その首謀者が誰か判明してるんですか?」


 俺の問いに、苦虫を噛みつぶしたような顔で答える神様(ジイサマ)


「うむ、ロキという。遥か昔に……追放された神属じゃ」


 ──! 北欧神話最大のトリックスターと名高い神……その名は俺でも知っている。冗談じゃない、今度の相手は悪戯好きの悪神かよ!?


 フリッグ様が大家(しげる)さんへと声を掛けた。


「これ、大家(しげる)や。白紙はあるかい? コピー用紙なんかでもいいよ」


「おう、バアサマ。うちにそんな上等なモンがあるわけねーだろ。スーパーのチラシの裏でもいいか?」


「まったくお前は……もう二十一世紀だよ? パソコンとプリンター位、置いてないのかね? 仕方のない子だねぇ、それでいいから持っといで!」


 ヘッ、と笑って頷いた大家(しげる)さんが、チラシを取りに奥へと引っ込んでいく。珍しく黙って話を聞いていたレアが、ミストへとボソボソと声を掛けた。


「ミスト……ロキって誰?」


「うーん、アタシも知らない。誰それ」


 人間の俺でも知ってるのに……どうなってんだ? 不思議そうな顔の俺にアイリスさんが苦笑した。


「神属でもね、最近生まれたレアちゃんやアリシアちゃん、それにミストちゃん達が知らない事も沢山あるの。その真偽はともかくとして、古くから神話としてお話が伝わってる人間達の方が余程物知りだったり……あっ、でも別にお姉ちゃんが年寄りって意味じゃないのよ! そこは間違えないでね!?」


 最近生まれた!? レアとアリシアさんが再会した際、『久しぶり~、百年ぶり~』とか言ってたのを思い出す。いや、年齢の件には触れずにそっとしておこう。きっとそれが俺の身の為だ。頷くと彼女は続ける。

 

「それとね、人間に伝わる神話大系っていうのは、過去に太郎ちゃん達みたいに”天界に関わった人達”がいて……その人達が伝えた話が断片的に積み重なって形成されていった物なの。伝言ゲームってあるでしょ? あんな感じで”最初の話”が正確に伝わる事は希で……十数人を挟んだだけで別のお話に変わっちゃう。そんな感じで時代と共に変化していくって言えばわかるかなぁ?」


「つまり、俺が本を読んだりして持ったイメージは……適用されないと?」


「うむ、まあそういう事じゃな。特にあやつを相手にする場合、固定観念は逆に仇となろう。何をしてくるかわからんし危険じゃ。しかしレアにミストや、お主等……ロキの件については訓練講習の”歴史教本”で習うはずじゃが?」


 ジト目で見る神様(カミサマ)から目を逸らし、下手くそな口笛を吹くアホの子二人。ふと隣を見ると、ヒルドがじっと黙ったまま床を見つめていた。きっと妹であるロッタちゃんの事が心配なのだろう。


「大丈夫だってヒルド。どうにかしてロッタちゃん達を助けだそうぜ? 俺も出来ることは手伝うからさ」


「太郎……そうですね、気落ちしていては駄目ですね。ありがとう、もう大丈夫です」


 気丈に振る舞う彼女だが、やはりその顔は暗い。わかってはいる。慰めてはみるが、現状では天界へ戻る術すら見つからないのだ。そうしていると、自宅の奥から大きめのチラシを手にした大家(しげる)さんが、のそりと顔を出した。


「おう、バアサマ。これでいいか? これよりデケえチラシは無かったぜ」


「ああ、それでいいよ。こっちへ持っといで」


 チラシを受け取ったフリッグ様は、それを二つ折りに切り裂いた。それから裏返した二枚の白紙部分へと、何やら魔法を掛ける。


 すると、極小サイズの黒いビーズの様な物が大量に散らばり……それが真っ白の紙面を汚し、精密に何かを描いてゆく。


「フリッグ様、これってもしかして……似顔絵っすか?」


「そうだよ太郎。ただ、ロキのヤツは頻繁に姿形を変えるからね。今は一体、どんな姿なのやら……これはあの子の本来の”顔”さね」


 そうこう言っている内に、二枚の似顔絵が出来上がった。それは随分と写実的で、まるで写真の様だ。……あれ、二枚? 


 俺がそれを手に、不思議そうな顔をしていると……疑問を察してくれたのか、ブリュンヒルデが教えてくれる。


「ああ、それかい? それは二人。別々の神属(じんぶつ)さ。その左手の方がロキ、もう一方がシギュン。ロキの妹だよ」


 妹? 昔、高校の図書室で読んだ神話の本との差分に、やはり頭が混乱する。


「ロキの妻……ではないんだ? それにロキ自体も……」


「ああ、人間の神話では”悪神ロキ”の妻……となっていたね。実際の”彼女達”は姉妹神だよ」


 俺は両手の似顔絵を見比べる。ロキと言われる方は……如何にも気が強そうで、目つきも鋭く不敵な笑みを浮かべている。対してシギュンと呼ばれる神は……整った顔立ちこそ似てはいるが、少々気の弱そうな雰囲気だ。


 大家(しげる)さんも後ろから覗き込む。


「おう太郎、デリ〇ルで引いたら”大当たり”なレベルだな、おい」


 女性陣の冷ややかな視線が”俺達二人”に投げかけられた。とんだとばっちりだ。


「ちょ、大家(しげる)さん!? 俺、そんな”素敵なサービス”を”宅配”して貰った事ないですから! 確かにちょっとやってみたいですけど……あっ……いえ……何でもないっす」


 ホントにこのオッサンは……つい乗ってしまった。


「騒ぎの全貌が見えてきたとはいえ……さてどうしたものかのう。ワシや婆さんが天界へ戻れさえすれば、すぐにでもとっ捕まえてケリが付くのじゃが」


 確かに天界に戻る手段がないのではどうしようもない。


 ……ん? 待てよ。


 少し考えていた俺は”ある事件”を思い出す。そう、”天界事件”、ヤ○ザの兄貴達と天界でチ〇コを丸出しにし、大騒ぎを起こしたあの事件だ。


 あの時、俺や兄貴達は……ノームのパッ君に丸呑みされて天界へと放り込まれた。もしかしてそれを利用すれば、簡単に天界へ侵入する事が可能なのではないだろうか?


「あの、神様(カミサマ)。パッ君に食われる……ってのはどうでしょうか?」


 目を見開く神様。やはりパッ君の胃袋の事は忘れていた様だ。


「──なんと! それじゃ太郎! すっかり忘れておったわい。それならロキ達に気付かれる事なく、安全ににあちら側へ戻れよう。恐らく移動用魔法門(ゲート)が向こうから操作されておる以上、こちらが何らかの手段を持って”強制的に門を突破した場合”の対策もしておるじゃろう。ロキは用意周到で狡猾な性分じゃからのう、間違いなく門へと罠を仕掛けておるはずじゃ」


 ニヤリと笑う神様。どうやらこれで半分は解決したようなものだ。流石にロキと言えども……神様カミサマを相手にするには分が悪いらしい。しかもこちらにはフリッグ様までいる。つまり、何事も無ければ間違いなく勝てるのだ。緊張の解ける室内。


 そういえば俺には、以前から少々気になっていた事がある。折角フリッグ様もいる事だし、この際聞いてみよう。


「そういえば、俺と兄貴達が天界で暴れてた時、フリッグ様は何方にいらっしゃったんですか? もし天界にいたのなら俺達全員、速攻でブチ転がされてハードなお仕置きをされてても……何ら不思議ではないなと思うんですけど」


 笑うフリッグ様。


「あの時かい? そりゃずっと天界で見てたさね。これがまた随分と面白かったもんでね? 茶菓子まで用意して、腹を抱えて笑いながら観戦してたのさ。いや、あれはここ数百年で一番面白かったね! お前が飛び跳ねながら、その”粗末なモノ”をピュンピュンと振り回してるところなんて……ああ、今思い出すだけでも吹き出しそうになるよ」


 何と俺は愚かなのだろう? 自ら地雷を踏みぬいてしまった。


「そうっすか……」


「よかったな太郎! バアちゃんに褒められたぞ! あと、”粗末なモノ”って何だ? どれ、私にも見せてみろ!」


 そう賞賛しながら、俺の肩をバシバシと叩くレア。傷口に塩塗り込むのやめて!!


 あの時を思い出したのか、再び顔をしかめる女性陣(ヒルドたち)。くそう、話を振らなきゃ良かったよ……穴があったら入りたい。


 とにかく、そうして天界奪還作戦が立案されたのだった。

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