三つの世界
こんにちは! ワセリン太郎です! 最近少し暖かくなってきた様な気がしますね! 季節の変わり目、皆様も体調を崩されない様に気をつけて下さいね!
「とまあ……そういった様な事が起きたワケで……」
そうして、これまでの経緯をミカへと話し終えたのだが……彼女は話を理解出来なかったのか、目を瞬かせて呆然としている。
「えっと……太郎君ゴメン。私ちょっと意味がわからないや。レアとミストの排泄物で城壁が倒壊して、それで敵がほぼ全滅……?」
「いや、そりゃそうだろうと思うよ。一部始終を見ていた俺でもワケがわかんないし」
俺の隣ではヒルドも目を瞑り、溜息を吐きながら首を横に振っている。そりゃミカの反応も当然のものだろう、当事者である俺達ですら未だに理解が追いついていないのだ。
「そういえば、そのレアとミストの姿が見えないようだけど……?」
「ああ、馬鹿共ね? ここだよ」
ミカの問いに応えながら、大家さんの自家用車のバックドアを開ける。
「「ぎぼぢわるい……」」
ごろんごろん……騒ぎを起こした罰として、全身を縄でグルグル巻きにされた大きな芋虫が二匹、トランクから転がり出た。レアとミストのアンポンタンズだ。絶賛車酔い中のアホの子二人が力のない声を発する。
「た、太郎! これは作戦の功労者である、私達に対する不当な扱いだ! 待遇の改善を要求する……うっ、ぎぼぢわるい……」
「う゛ぇぇぇぇ……トランクやばい……死ぬ……」
「お前らちょっとは反省したのかよ!? もうホントに毎度毎度……いい加減にしろよ!? 何が”作戦”だよ。いつもの如く行き当たりばったりで、街に汚れたパンツとウ○コを大量にブチ撒けただけだろーが!」
憤る俺を、アイリスさんが苦笑しながらなだめた。
「まあまあ、太郎ちゃん! 一応、あれで街は開放されたんだし……」
「それにしても、もうちょっと”やり方”ってモンがありますよ! アレ、一体どうするんですか!? もう”城塞の街ヴェストラ”じゃなくて、汚れパンツとウ○コが特産品みたいになっちゃってるんですよ!? ああ……絶対、後で神様に怒られる! 給料出なかったらどうしよう!?」
取り乱す俺を、大家さんが笑い飛ばした。
「あぁ? 別に見つからなけりゃいーんだよ! バレなきゃどうって事はねぇぜ!」
「何、無茶苦茶な事を言ってるんすか!? あんな派手にやらかしといて、バレないワケがないでしょーが!」
「うるせぇヤツだな! んな細けえこたぁ、どーでもいいんだよ!」
「うむ! 大家の言うとおり些末な事だ! 太郎、私は早く帰ってラーメンが食べたいのだ! この拘束を速やかに解くのだ! あほ!」
「あっ、アタシはピザが食いたいな! 四種のチーズ乗ったやつ! あれ? そーいやポテトの引換券ってまだ残ってたっけ……?」
騒ぎの元凶、レアとミストは全く反省の色を見せていない。しかしアレを”些細な事”扱いのできる、彼女達の図太い神経が羨ましい……項垂れる俺の肩にミカの手が、そっと優しく置かれた。
「えっと、後片付けに関しては他の駐在天使にも応援要請を出して……こっちで何とかしとくからさ。とりあえず、お疲れ様だったね」
「ごめんなミカ。とんでもない後片付けを押し付けちゃって……一緒に手伝うべきなんだろうけど、急いで日本へ戻って神様達の状況も確認しないと……」
ヒルドとアイリスさんも、ミカへと礼を言う。当然、汚れた街の状況を知る二人の表情は暗い。
「ミカ、本当に申し訳ないですが……宜しく頼みます」
「ミカちゃんホントにごめんね? 多分あなたが思ってるより……凄い事になってると思うの……」
一旦、手をひらひらさせて笑い、それから深々と頭を下げるミカ。
「いいっていいって! ヒルドも隊長さんも気にしないで! ヴェストラの街も救われたんだし、結果オーライだよ。それよりみんな、街の住民達を助けてくれて本当にありがとう。心から感謝します」
煙草へ火を付け、ガハハと豪快に笑う大家さん。
「おう! 俺様のお陰で一件落着だな! んじゃ帰るぞ、テメーら!!」
そうして俺達は……再び移動用魔法門を通り、神丘市へと戻って来たのである。
異空間のトンネルを抜け、自宅のガレージへと到着する大家さんの自家用車。庭へ続く扉を開けて外を見ると、日本もどうやら日暮れ時の様で、夕日がゆっくりと山の陰へ沈みつつあった。
こちらで怪物達を迎え撃つ神様達の状況は、現在どうなっているのだろう?俺達は急いでガレージのシャッターを開け、河川敷公園へと車を走らせた。
暫く行くと、河川敷公園の駐車場が見えて来る。どうせ”人払いの魔法”で周囲に人間はいない、本来は侵入禁止の土手へと車で乗り入れ……公園の広場へと急行する。
「おっ! 神様達の方も片付いたみてえだぜ!」
大家さんの言う通り、河川敷では神属、魔属の混成軍が現場の片付けへと取り掛かっているのが見えた。こちらに気付いた片付け中の数名が、笑顔で手を振って来た。
──パアアァァァッ! パパァァァァッ!!
品の無いヤンキーホーンの音に気付いた神様が、煙管を持つ手を上げてこちらに応える。その表情には余裕を感じられ……どうも、結果は悪くは無さそうだ。
車から降りて来たこちらの頭数を数え、安心したように笑みを見せる神様。
「皆、無事なようじゃな? こちらは先程、何とか片付いたところじゃよ。太郎、そっちはどうじゃった?」
一瞬、汚物まみれのヴェストラの街が頭をよぎり……しどろもどろになって応える俺。
「えっと……とりあえず……大丈夫です。いや、少し問題があるような、ないような……いえ、とにかく皆無事で……一応任務は完了です。いや、ちょっと余計な仕事を増やしてきたような気もしますが……」
「聞きたくないのう……まあそれは後で良い。しかし怪物達の目的は一体何じゃったんじゃろうな? 日本側へは確かに大軍が押し寄せはしたものの、これと言って気になる点は無かった。ただ、現れて交戦した……それ以外に目的の様なものは感じられんでのう。もしや異世界側へ行ったお主達か……もしくは”別の世界”に行かせた”フリッグばばあ”の方に何か起きたかと気が揉めておったんじゃよ」
「べ、別の世界?」
「本来は秘密なんじゃが、前に言ったじゃろ? ワシらは”幾つかの世界を管理しておる”と。文明が存在するのは地球とアタランテと、ババアが出向いた先の三つしかないがの。お主達をアタランテへ送り出した後、その”もう一つの世界”にも奴等が現れたと連絡が入ってのう。それで太郎、そっちはどうじゃったんじゃ?」
「えっとですね。人質に取られたヴェストラの街を、ヒルドとアイリスさんの奮闘で一時解放したんです。それから皆で街中にいたら……外から敵の大軍、数は約三千が現れて纏めて人質にされました。そんでレアとミストのアホが要らんことをしでかして……それでまあ、敵の一団がほぼ壊滅した……って流れです。最後の方は意味がわからないと思いますけど」
「三千!? それをたった数名で……一体、何をどうやったんじゃ!? いや、レアやミストのする事じゃ、どうせロクでもない事じゃろう……今は知りたくもないわい。それより話を聞くと……アタランテ側が本命じゃったんかのう? 先程、別の世界へ行っとるババアからも連絡が来たんじゃが、『こちらは問題なし。一匹残らずブチのめしてやったよ』との事じゃった」
そうして神様へと報告していると、隣で話を聞いていたアイリスさんが疑問を口にしたのだ。
「う~ん。でも何か引っかかるのよねぇ。ほぼ同時に怪物達の動きがあった三つの世界に対して、こちら側がどの程度の戦力を割り振るかは……あの時点じゃわからない筈だもの。もしかして、全部勝つつもりでいたのかしら? でもそれじゃちょっと、戦略性が感じられないかも?」
ヒルドも彼女へ同意する様に頷いた。
「ええ、知性を持たぬ生命体なら話は別ですが、彼等には言語を操る指揮官もいました……確かに疑問が残りますね。結局、何をしたかったのかが全く見えて来ません。三ヶ所へほぼ同時に攻撃を掛け、そのうち何れかでも勝利を挙げれば良いと考えていたというのでは余りにもお粗末な話でしょうし、それで実際に兵を動かしたとは……考えにくいですね」
難しい顔をして神様も腕を組む。
「う~む。最初から何も考えておらぬのなら、ヴェストラの街への第二陣……しかも大軍を、計ったようなタイミングで送り込んでは来ぬじゃろうしのう。まずは少数で陽動して、それから数に任せて制圧し、人質に取る。確実にこちらの行動を何処からか観察しておらぬと出来ぬ話じゃ」
「でも数名の敵に対して兵を三千とか普通だったらやり過ぎですし。やっぱ怪物達、何も考えてなかったんじゃないっすか? あ、でも街の人達も勘定に入れてたのかな? でも最初の時点で街の制圧は完了してたし……俺も良く解らなくなってきちゃいましたよ」
「しかし”人質”を用意するというなら……その後、ワシらと何らかの交渉をするつもりであったのじゃろうか?」
「どうでしょう? 街に閉じ込められた際も、特に何か接触してくる様子はなかったですし。まあ、レア達の”穢れ”のせいで……街に近付けなかったのかも知れませんけど」
そうして皆で悩んでいたのだが……俺達の議論はレアと姫様の大声で中断されたのだった。
「──太郎、私はお腹が空いた! ラーメン食べたい!」
「──そーですねっ!!」
一気に脱力する。そういえば少し気になる事があった、先程から神様の後ろに隠れる様にして、チラチラと顔を覗かせてはこちらを伺う小柄な少女。どうも戦乙女隊の一員には見えないし……誰だろう?
長い黒髪とクリクリと大きな瞳。少し西洋人を思わせる高い鼻、日本人なのだろうか?
しかしその恰好はというと……もうどこから突っ込めば良いかわからない様な服装をしている。山伏風とでも言えばよいのだろうか? 足元を見ると、随分と高い下駄まで履いていた。
ふと目が合った。再び隠れる。もしや人見知りか……? 何も話し掛けないのもアレなので、こちらから挨拶をしてみる。
「あ、はじめまして。俺は太郎、山田太郎。」
するとその少女は嬉しそうにずいっと前へ出て……その薄っぺらい胸を張り、堂々と喋り出した。どうも人見知りではなく、皆へ話し掛けるタイミングを伺っていた様子だ。
「うむ! ウチは鶴千代! 北のお山に住まう天狗じゃ! 其方は太郎と申すか、此より宜しく頼むぞ!」
「えっ……あっ、こちらこそ宜しくね……」
今、この娘何て言った? てんぐ? ”天狗”と聞こえた様な気がするが……んなワケがない、俺の聞き間違いだろう。
この時の俺はまだ知らない。この少女がレアとミストのアホに続き、俺の人生へと巨大な暗雲を呼び込む第三の存在になる事を……




