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巨神の鉄槌

 こんにちは! ワセリン太郎です! 週末から風邪を引いてしまいまして……ボーッとしておりました! ですが、なんとかもう少しで完治しそうです! しかし以前友人に、「絶対におまえは風邪を引かないはず」と言われていたので不思議でなりません!

 ブロロロ……ロビの街の宿屋の前へ、俺達を乗せた大家(しげる)さんの自家用車(バン)が停車する。

 そして皆でゾロゾロと車から降りようとしていると、宿屋の主人でもある駐在天使のミカが建物から飛び出してきた。


「みんな無事だったかい!?」


 彼女の顔色はあまり優れない。俺達がロビを出発してから……ずっとそわそわして帰りを待っていたのだろう、随分と心配を掛けてしまった様で申し訳なく思う。


「おう! 戻ったぜ! 茶ぁ用意しろやオラ! あ、酒でもいいな!」


 相変わらず空気を読まない大家(マッチョ)。しかし、それが逆にミカへと安心を与えた様だった。


「──良かった! みんな無事なんだね!?」


 ほっとした様な顔をする彼女に、俺も片手を上げて応える。


「ただいまミカ。 無事には無事なんだけど……もう散々だったよ。魔法で綺麗にしては貰ったんだけど……とにかく風呂に入りたい気分だわ。ああっ! まだ何か身体がベトベトしてる様な気がする!」


「ベトベト……する?」


 実際のところアイリスさんの浄化魔法によって、俺達の身体は清潔な状態へと戻されてはいるのだが。いや、それでも風呂に入らないと精神衛生上、良くない気がする。

 

 不思議そうな顔をするミカ。


「みんな随分と顔色が悪いけど……一体、何があったんだい?」


「うん……思い出したくもない。占拠されていたヴェストラの街も無事解放されて、結論から言うと任務達成(ミッションクリア)になったのは良かったんだけど。いやでも、あまり良くないというか……」


 歯切れの悪い俺の物言いに、怪訝な顔をして首を傾げるミカ。彼女は賢い人ではあるが、まさか”あんな事態”が起きたとは流石に想像できないだろう。いや、絶対に不可能だ。


「とにかく、想像を遙かに超える”恐ろしい事件”が起きたんだ……」


 そう言いつつ俺は、ヴェストラの市街地で数時間前に起きた”あの大惨事”を思い出した。



 

 

 ──ズドオォォォォォォォォォン!!


 先程までレアとミストが居たらしき、街の一番奥にそびえる見張塔から轟音が響いた。今度は一体何事か!? と、そちらの方を凝視した俺の目に……それはもうこの世のものとは思えない、現実離れした光景が飛び込んで来る。


 ──オオオォォォォン!! 風を切り、力強い音を立て、宙を舞いこちらへ迫り来る”なにか”。

 それは意思を持った巨大な大蛇の如く猛り狂い、茶色い飛沫(しぶき)を大通り、そして広場へとブチ撒けながら、一瞬で俺達の頭上を飛び越えていった。

 広場にいた者は例外なく、頭から足の先までずぶ濡れだ。皆、ただただ呆然とし、空を見上げる誰一人として言葉を発さない。

 

 ”なにか”……とは言ったものの、俺には”それ”が何なのかは理解出来ていた。

 そう、これまでのパンツ事件の流れで予測はしており、頭では理解は出来ているのだが……これがパニックというものなのだろうか? ”それ”が実際に目の前へ現れてみると……思考が停止し、身体が理解する事を拒絶してしまう。

 

 それはまるで下らない、馬鹿げた映画でも観ているかの様な気分だった。不思議と時の刻みが遅くなり、スローテンポに包まれた世界の中で、空を仰いだままの俺は考える。 


 あまりにも大きい──それは見事と賞賛するしかない程に太く(たくま)しい”一本”。見慣れぬスケール感にふと思う。もし、自身が地を這う一匹のアリとなり、頭上を歩く人間を見上げると……こんな気分になるのだろうか?


 巨人……そう、巨人だ。きっとアレを尻から捻り出したのは……空に浮かぶ白い雲より遙か高く、悠然と世界を見下ろしながら大地を闊歩する巨人に違いない。そうして現実から目を背けた俺は、未だ全貌を知らぬ広大な異世界(アタランテ)の大地へと思いを馳せた。

 そして頭上を通り過ぎて行く”それ”を見上げ、如何に人間とは矮小な存在なのであろうかと哲学する……そう、この世界は広く、どこまでも果てしないのだ。


「きゃぁぁぁぁ!?」


 突如、耳に飛び込むアイリちゃんの悲鳴で現実へと引き戻される俺。慌て、その”巨大な一本糞”の向かう先へと視線を移す。もう……嫌な予感しかしない。

 

 そう、その先には壁。悪名高いヴェストラの前領主が重税を課して築いた”この街の代名詞”とも言える、天高くそびえ立つ城壁。これからの事を考えると……もはや現実逃避している時間は無かった。


 ──ズドオォォォン!!


 刹那、人知を超えた無限の力を感じさせる”巨大な一本糞”が、恐るべき破壊の力を携え……これまでずっと住民達を苦しめてきた”悪政の象徴”へと激突したのだ。そう、まるで巨神の下す裁きの鉄槌の如く。

 

 それは……遊ぶのに飽きた子供が積木を粉砕するかの様に、いとも容易く積み上げられた石積みの壁を吹き飛ばす。

 そうして街の内側から粉砕された巨大な石塊は……まるで巨人が投石でもしたかのように、街の外部を包囲する異形の怪物達へと降り注いだのだ!


「「キ、キシャァァァァ!?」」


 突如降り注ぐ巨石の雨に逃げ惑う異形の怪物達。もはやその有りようは、軍としての体裁を為さない。


 一部が街の外に倒れた為か、引きずられる様にして連鎖的に倒壊し始めるヴェストラの城壁。それは一切の容赦なく、次々に怪物達へと襲い掛かかった。


「壁が……壁が崩壊していく……」

 

 誰の口からこぼれた言葉だったのだろう……? 俺達は、未だ始まってもいない(いくさ)の終結を肌で感じ取ったのだった。


 


 暫く経つと、濛々と立ちこめる土埃が多少おさまってくる。


 正門前広場で頭を抱えてうずくまっていた俺達は、恐る恐ると立ち上がり……先程まで敵の大軍が居たであろう、その場所へと視線を移した。


 それは……敵ながら凄惨な状況だった。ほとんどが冷たい骸と化し、動かなくなった異形の怪物達。生き残った者もいるようだが……軍の大半は完全に沈黙し、もはや散り散りに敗走するしか道は残されていないように見える。奴等を取り纏めていた指揮官の姿も……既にそこには無い。


 俺が状況を飲み込めないまま呆然としていると、瓦礫の上に登った大家(しげる)さんの大声が轟いた。


「おう! オメーら! 今だ、ブチのめすぞ!!」


 好機とばかりに高々と斧を掲げ、街の住人(オッサン)達を扇動する大家(しげる)さん。先程から、目の前の理解を超えた状況に魂を抜かれたようになっていた彼らだったが……

 元々()る気満々で集まってきていたオヤジ共だ、我へ返った彼らは盾と得物を打ち鳴らし、急激に暴徒の集団と化す。その姿は……言うまでもないが、皆糞まみれであった。


「うおぉぉぉぉ! やっちまえ!! 連中(ヤツラ)の急所はアタマだ! アタマをブッ潰せ!!」


「「──おおおおおおおおっ!!」」


 ──ズドドドドドドド!


 先端にパンツの引っ掛かった斧を振り上げ、先陣を切って駆け出す大家(しげる)さん。その雄叫びに呼応し、土煙を上げて雪崩のように我先にと走り出す、五百名からのウ○コまみれの親父達──!!

 その手には角材や斧、鉄鍋やクワ、ありとあらゆる生活用品(きょうき)が握られていた。


 「おるぁぁぁぁぁぁ!!」


 斧で怪物を真っ二つにする大家(しげる)さん。オッサン達もその後へと続く。


 鍋で頭を殴る者、斧を投げつける者、背後からクワで襲う者……日頃の労働で肉体を鍛え上げた親父達を止められる者など、ここにはもはや存在しない。そして一方的な攻勢が続く。


 

 こうして……ヴェストラ占領事件の幕は下りたのだった。そう、巨大なウ○コの一撃によって。


 倒壊した城壁、広場を占拠する山盛りのパンツ、そこかしこに大量に散らばる茶色い”アレ”。


「つーかこれ……一体どうやって片付けるんだよ……」


 俺はそう、人知れず呟いたのだった。……なにこれ!? もう嫌だ、お家に帰りたい!!

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