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続・祭囃子に誘われて

 こんにちは! ワセリン太郎です! 急にやきそばが食べたくなりました!!あとで買いにいこうと思います! たまーに食べたくなりますよね? インスタント食品!!

 すったかた~と鼻歌交じりにスキップし、楽しげに騒ぎの大元である、河川敷公園へと近付く天狗(てんぐ)鶴千代(つるちよ)。暫く行くと、ふとある事に気が付いて立ち止まった。

 それが何かと言うと……周囲に、見たこともない”術式”が展開されている気配がするのだ。


「はて……これは何じゃ? 妖術の類いじゃろうか? どうも一族に伝わる”人避(ひとよ)けの法”に似ておるようじゃの……まあよいか、こんなものは強い神通力を持つウチには通用せぬ! しかし”祭り”であるのに”人避け”とは……よくわからんの!」


 特に気にも留めずに先を急ぐ。そして二分程行くと……お目当ての”お祭り会場”が見えてきたのだった。

 

 ……産まれて初めて見る、圧倒的な人の数に驚嘆する鶴千代。そして彼女を驚かせたのはそれだけではない、河川敷(そこ)には武器(えもの)を手にした大勢の女性達が、そこかしこで大暴れしていたのだ。

 

 慌てて草むらに身を隠し、様子を伺う。


「ふおおぉぉぉ……あれは一体全体、何の騒ぎじゃ!? 合戦か!? 合戦なのか!? 見たところ暴れておるのは皆、異人のようじゃが……むっ!? あの相手の軍勢は……何とも禍々しい姿! 人には見えぬ、妖怪(あやかし)の類いか? いやしかし、あの様な妖怪は見たことも聞いたこともない。おや……あやつは?」


 鶴千代が向けた視線の先には、先程街中で挨拶を交わした長身の銀髪女の姿が。随分と派手に暴れているようで、他より取り分け目を引いた。

 日の光を受けて輝く、美しく長い銀糸(かみ)。その動きが勢いを増すたびに力強い躍動感を放ち……彼女の動きを一層際立たせる。


「だーいん・すれいぶっ──!!」


 ──ズドオォォォォォォン!! 


 銀髪の女が得物(ゴルフクラブ)を振り抜くと同時に時空が歪み、彼女の目の前に居た異形の怪物達がまとめて吹き飛び、それを見た鶴千代は感嘆の声をあげた。


「ふおおぉ!? 何ぞ奇っ怪な武具を使うが……あの異人女、なかなかやりおる! しかし敵の(あやかし)の数が随分と多いの……よし! 再び()うたも何かの縁、ここはウチが助太刀して進ぜよう!」


 膝をパン! と叩いた鶴千代は、荷物の麻袋からヤツデの葉の様な形をした団扇(うちわ)を取り出し、スルリと腰の帯へと差し込み、それから長く美しい濃紺の黒髪を一本だけ慣れた手付きで抜き取ると……ふうぅっ! と息を吹きかけたのだ。瞬く間に(それ)は、斬れ味鋭い一条の長槍と化す。

 

 それからまるで棒術の達人の様に、槍を”ひゅんひゅん”と身体に這わせて勢いよく振り回し、その感触を確かめた鶴千代は……


「よし! では参ろうか!」


 そう叫んで走り出したのだった。しかし何故だか急停止して荷物の場所へと戻る。


「いかんいかん、頭襟(ときん)を被るのを忘れておった!」


 そう言って荷物から小さな帽子を取り出し、顎下で紐をキュッキュと結ぶ。頭襟(ときん)とは山伏(やまぶし)がよく被っている、あの小さな帽子の事だ。

 

 頭襟の位置を正して『うむっ』と頷き、それから……恐るべき身体能力にまかせて再び駆けだした鶴千代は、瞬く間に戦場の真ん中へと踊り出した。


「ヤァヤァ! 遠からん者は音に聞け! 近くば寄って目にも見よ! 我こそは……えっと、この後は何じゃったかの? 名乗りをあげるのは初めてじゃ、すっかり文言(もんごん)を忘れてしもうた! 兎に角、この鶴千代が助太刀致す!」


 突然、長槍を持って戦場に現れた”山伏風の不審者”に、戦乙女(ヴァルキリー)隊や魔属軍、相対する異形の怪物達までもが”何事か?”と注目する。

 

 敵も味方も一様に、水を打った様に静まり返り……当の鶴千代だけが千両役者の如く、ドヤ顔で大見得を切る。後方で全軍の指揮を取っていた神様(カミサマ)が、それに気が付き、目を丸くした。


「うむ……何じゃあれは? あの(むすめ)、一体どこから入ってきおった? これ、衛生班! 人払いの魔法が切れとるんじゃないかのう? ちょっと行って見てきなさい。……これ!そこのお嬢さん、そこは危ないから急いでこっちへ来るんじゃ!」


 次の瞬間、思い出したかの様に、再び荒れ狂う戦場。しかしその中で、腰から団扇(うちわ)を抜いた鶴千代は……それを高々と天へと掲げ……襲い来る怪物達を槍でなぎ払いながら、まるで優雅に舞うように”祝詞(のりと)”を唱え出したのだ。


高天原(たかあまはら)()()して、天と地に御働(みはたら)きを(あらは)(たま)う龍王は、大宇宙根源の御祖(みおや)御使(みつか)いにして一切を産み、一切を育て、萬物(ばんぶつ)を御支配あらせ給う王神(おうじん)なれば、一二三四五六七八九十(ひふみよいむなやこと)十種(とくさ)御寶(みたから)(おの)がすがたと(へん)じ給いて……」


 快晴だったはずの青空へ、大きな雷を纏った黒い雲が集まり、一所(ひとところ)に渦巻き出す。彼女は……自然の化身をこの地へと召還しようとしているのだ。

 

 驚き、鶴千代の様子を見守る神様(カミサマ)。その隣へと水上美津波(みなかみみつは)──この地を守る土地神でもある水神が、スッと静かに歩み出た。


神様(かみさま)、あれは……天狗、天狗の娘に御座いますね。この数百年、久しく見ておりませんでしたが……北のお山に未だ健在とは聞き及んでおりました。ですが、まさか今となって自身の(まなこ)で見る事になりましょうとは……」


 美津波の言葉に目を丸くする神様(カミサマ)


「──何!? 天狗じゃと!? この二十一世紀に、まーだそんな(もん)がおったのか!? いやまあ、ワシらも人の事をどうこう言えた義理ではないが……いやはやカルチャーショックじゃのう……」


 背後より襲いかかる異形の怪物の首を一突きに伏した鶴千代は、再び団扇(うちわ)を天へと掲げ……最後の仕上げへと取りかかる。大気を震わす強い神通力。


「……六根(むね)の内に念じ申す大願(だいがん)を成就なさしめ(たま)へと……(かしこ)(かしこ)みも(まお)す ──此へ来たれ雷雲! 伊加土(いかづち)! 招来!!」


 ──そして次の瞬間!! 天より落ちた無数の落雷が、数百体の異形の怪物の脳天を、一瞬で貫いたのだった。

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