story-01
「ちょっと待て!俺は人間だぞ!もうすぐ高校1年生になる黒河 翔だ!」
混乱して訳も分からず、ご丁寧に名前まで紹介した。
いや、こんな事言ってる場合じゃない。何がどうなってる!?
「…人間?…あ、もしかして転生前は人間だったのですか?…でも今は…あっ…えっと…?」
「え?」
「自分の体…見てみましょう?」
そうシルヴィアスに言われて自分の体を見る。
見慣れたシャツにパンツ。手足も普通に人間の物だ…ってちょっと待て!
俺は今半裸状態か!全裸じゃないだけマシだけど、かなり恥ずかしいぞ!
見るとシルヴィアスも若干目を逸らしてるし!
「…ごめん。何か服貸してくれない?」
「いいですよ?」
数分後、シルヴィアスが持ってきた服を慌てて着た。
黒っぽい服の上下セットと古いマントだ。ややガサガサしてるけど、贅沢は言わない。
「…ありがとう。所で、ヴァンパイアって…」
「私もそうですけど、今の貴方もヴァンパイアですよ?鏡…は吸血鬼は映りませんか。…《指定投射》!」
シルヴィアスが何やら魔法の名前を叫んだ瞬間、俺の身体が青く光った。
次第にその光が分裂したかと思うと、俺の隣に光が形を作っていく。
間もなく、自分と全く同じ姿が模写された。…って、何か俺の背中から変なのが。
「…なあシルヴィアス。俺の顔とか体型は同じなんだけどさ。俺の背中から翼生えてない?」
「え?だってそれはヴァンパイアになったんですから。」
俺の背中には、シルヴィアスと同じような黒い翼が生えていた。
恐る恐る後ろに手をやると、少し堅い翼に触れた。しっかりとした感触が伝わった。
マジモンの翼か…じゃあ、俺はヴァンパイアとして転生したってのか…。
「シルヴィアス。もう俺は諦めた。空気の感触からして、多分夢じゃないと思うからさ」
「はい?」
「ヴァンパイアの事について教えてくれ。後、お前が俺を召喚した理由。」
それから1時間?くらい、俺はシルヴィアスからヴァンパイア講義を受けていた。
まずヴァンパイアには2種類いて、通常の 吸血鬼と、高等吸血鬼がいる。
ハイヴァンパイアになれば、様々な行動の制約が改善される上、戦闘能力も格段に上がるという。
そして、俺が知ってるヴァンパイアの弱点…日光や十字架、流水やニンニク…これらは効く物と効かない物があるらしい。
日光は一番の天敵らしく、ハイヴァンパイアですらまともに行動できないらしい。
十字架や聖水は、使用者によって効く、効かない、が分かれるらしい。どういう意味かはよく分からない。
そして俺が呼び出された理由…
「ええと…お名前はショウ、様ですか。」
「いや、ショウでいい。様付けはむず痒くなる。」
「いえ、さすがに呼び捨ては…。なら、ショウさん、で。」
さん付けに決まったようだ。
そして呼び出された理由は、魔族全体の危機らしいのだ。
魔族は俺のイメージと違って大人しい性格らしく、古くからヴァルガノ荒野という土地に住んでいたらしい。
ところが2年前くらいに、突然人間の大部隊が侵攻。魔族は立ち向かったが、あまりにも数の差になすすべも無く敗退。
現在生き残ってるのは、魔族の中でもトップクラスに強い、吸血鬼やデーモン、ドラゴンやその血を継ぐ 龍人族等しかいないらしい。
それらも人間を屠ってきたが、軍隊の前には焼け石に水。どうにもならないらしかった。
「そして、戦いに出向いた父上もまた…人間達によって殺されました。」
「…それはお気の毒に。」
そうした中、シルヴィアスの父親も戦死。
なんとか生き残った部下が、遺体を家まで運んできたのだそうだ。
「ん?ヴァンパイアでも死ぬのか?」
「日光に当たり続けるのもそうですけど、治癒能力が追いつけないほど身体が損傷したら死にますよ。」
ヴァンパイアは基本、どんな攻撃を受けてもちょっとやそっとじゃ死なない。
剣で刺そうが槍でつつこうが、1秒もせずに傷が治る。
だがそれは、身体に宿る魔力を消費している。当然魔力が無くなれば、治癒もできなくなる。
「そうして、父上の身体を魔力に還元…魔石にし、それをコアにして召喚したのがショウ様なのです。」
「…父親を、死体とはいえ魔石にしたのか…」
「父上なら、手厚く葬るよりも新たな領主様の手足になった方がお喜びになります。」
シルヴィアスはそう断言すると、そっと俺の背中に触れた。
少しくすぐったいが我慢する。…うわぁ、すごい甘い匂いがする。
って何考えてんだ俺は!
「……シルヴィアス?」
「ショウさんの身体には、父上の魔力がそのまま受け継がれています。そしてショウさんには、新たな 吸血鬼の首領として、活躍してもらいたいのです。」
…ヴァンパイアロード?
つまり、自分がこの世界に散らばってる吸血鬼を纏めて、人間達に立ち向かえと?
元は人間だぞ?
「いや、俺は元は人間だし。無理だ。」
第一、俺は魂も思考も、肉体の殆ども人間のままだ。
しかも、戦いなんてゲームの中でしかやった事がない。勿論、コントローラーで。
人の命を奪い合うような正真正銘の殺し合いなんて、現代の日本では考えられないのだから。
異世界に召喚される、なんて小説でしか読んだ事ないし、まさかそんな事が起こるなんて思わなかったけど。
「…確かに、ショウさんは純粋ではなく、どちらかと言えばハーフ…ですかね?」
「いや、そうじゃなくて。純粋なヴァンパイアのシルヴィアスが領主になればいいんじゃないのか?」
「…いえ、私は女性の身。領主や首領という役割は、男性にしかなれないのです。」
うぇ、そういう制約があるのか。
…ファンタジーに出てくる貴族って、跡継ぎは男って決まってて、世継ぎを生ませないと家庭がどうとか聞いた気がするな。それに近いものか?
だからわざわざ魔石を使って、別の世界から転生させてまでここに呼んだって事か。
魔族滅亡の危機か…うーん。
「…やれるかは分からないけど、一応はやってみる事にする。」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、どうせ身体は元に戻らないんだろ?なら、もう諦めるとする。だけど3つ程頼み、というかお願いがある。」
お願いがある、と聞いて少し表情を曇らせるシルヴィアス。
うーん。どんな表情してても可愛いなこの子。嫁に欲し…じゃない!ダメだ、ちょっと意識して見ると一瞬で彼女の虜になるぞこれ。
「まず1つは、俺には経験がない。だから魔族の事とか、戦闘とかを出来れば教えてほしい。」
「…分かりました。それくらいなら。」
「そして2つ目。仮に失敗しても恨まないでくれ。俺にはハッキリ言って、やれる自信がない。」
「…無理やり呼んだのはこちらです。失敗するのも、また運命でしょう。」
シルヴィアスは微笑みながらそう言った。
ここまではまあ普通のお願いだ。彼女の願いに取っても、ここまでは想定内のはずだ。
よし、ここで一番気になってるお願いを…
「そして3つ目。…俺が今さっきまでいた世界と、ここを繋げられないか?」
そして3つ目の願い。
俺は小説みたいに、異世界に召喚されて「はいそうですか」と簡単にこっちの世界の住人にはなれない。
確かにシルヴィアスは可愛いよ?できれば嫁に欲しいくらいだ!
だけどさ…残してきた母親もそうだし、結構楽しみにしてたんだぞ?高校生活。
「…できるか?」
「一応はできますけど…」
対して、シルヴィアスの反応はあまり良くはなかった。
何か、言いにくそうに口を開こうとしない。…嫌な予感がする。
出てきた技・スキルは、初見の場合はここに記載します。
《指定投射》(ターゲット・プロジェクション)
指定したターゲットを魔力で包み込み、付近に擬似体として投射する。
魔力の量を増やせば、仮にだが肉体を持たせることもできる。
本来は囮用だが、シルヴィアスは吸血鬼で鏡に映らない為、鏡替わりにしてたりする。