prologue-
…自分は何だ?
今日から高校1年生として、新しい学園生活に励もうとしている普通の生徒のはずだ!
なのに、ここはどこだ?
「…!!――!!!」
前にいるのは、ファンタジーに出てくる兵士の格好をした男が5人程。…いや、こいつらもう兵士だ。
それぞれに槍や剣を持って、俺に対して何か叫んでいる。
何を叫んでいるのかは分からないが、目が殺気を宿している。
いや、待て待て。ここはどこだ?しかも、お前らそれ何かの演劇の格好か?
その前に身体も動かない、声も出せない、視線も動かせないってこりゃまたどういう事だ!?
すると、5人の兵士がそれぞれの武器を手にこっちに走ってきた。
…おい!お前ら何なんだ!俺は普通の中学…いや、高校生だ!来るなって―
兵士の1人が槍を俺の身体に突き刺そうと槍を振り上げ…
「―――うわああぁぁぁぁっ!!!って…ゆ、夢か………」
俺はベッドから飛び起きると、頭を押さえて時計を見る。5時45分。…まだ早いな。
外を見ると、まだ若干薄暗い。スズメがチュンチュンと鳴いている。
「…それにしても、すげえ夢だな。変な男に槍で刺される夢なんて知らねえよ…」
もし頼んでも中々見れないだろう夢の内容を思い出してまた頭を抱えた。
何であんな夢を見たんだ…。今日から新高校生として高校生活を楽しむというのに…。
その記念すべき第1日目の朝から訳の分からん夢見させやがって…
俺の名前は黒河 翔と言う。今日から高校に通う、ピカピカの1年生だ。
本当なら6時50分くらいにゆっくり起きて、のんびり散歩しながら学校に行こうとしたのだが、まあ変な夢のせいで早く目覚めてしまった。
「…汗でべっとりだな。とりあえずシャワーでも浴びてから朝食の準備を…」
翔はまずシャワーを浴びに風呂場に行き、簡単に身体を洗う。
数分後に風呂から出て、制服を…ってまだいいか。シャツとパンツでいいや。
そして台所に向かい、簡単なものを作ろうと鍋でお湯を沸かす。
「…母さんが帰ってきてくれたら楽できるんだけどな。まあ贅沢は言えないよな。」
翔の両親は2人とも家に居ない。
父親は、まだ翔が中学1年生だった頃にガンで他界している。
母親は、今でも外国でキャリアウーマンとしてバリバリ働いていて、半年に1度帰ってくる。
たまに帰ってきたときは、凄まじい力で抱きしめられ…やめよう、恥ずかしい。
やっと日本に帰れて息子を見れるっていうのは、凄く嬉しいのは分かるんだけどな…。
「さて、お湯も湧いたからとりあえず……ん?」
翔は「ん?」と首を傾げた。
部屋全体が妙に明るい。何というか、全体をライトで照らしてるような…
「……っておい!?なんだこれ!?」
いつのまにか、翔の足元…いや、部屋の床に巨大な魔方陣が描かれていた。光というのはそこから来ていた。
全体的に青白く発光していて、ゲームで見るような魔方陣にそっくりだった。
わーお綺麗な魔方陣……じゃねえよ!ここは俺の家だぞ!こんな厨二病みたいなモン書かねえよ!?
回復するとかセーブするとかじゃないし!まずこの世界はそういう物必要ないからな!?
「これ…なんだ?」
翔は一応ガスコンロの火を止めて、魔方陣を凝視する。
綺麗な円形に描かれた魔方陣。外側には変な文字…ヒエログリフ文字に似てるけど。
こんな文字は見た事ない。
しばらく観察してた翔だが、突然周りの景色が歪んだ。
周りの風景がぐにゃりと歪んだかと思うと、身体全体が妙な浮遊感に包まれる。
(!?何だこりゃ―)
翔が何が起こったかを確認する前に、彼は気を失った。
ああ、ガスコンロの火止めといて良かった…と気を失う寸前に思ったのだった。
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「ぐぉっ!?」
突然の衝撃と痛みに間抜けな声をあげる翔。
どうやら自分は石の床に仰向けに倒れているようだ。
いや、衝撃を食らったってことは、空中から落ちて叩きつけられたと見るべきか。
(石…?あれ?俺の家に石畳なんてねえぞ?)
薄く目を開けると、そこはどこかの部屋のようだ。
壁にはロウソクがかけられ、床は石畳。目に見える範囲では、本棚が2つくらいあるだけだ。
「痛ぇ…さっきの夢といい、俺の高校生活は呪われてるな…」
と愚痴を言いながら立ち上がろうとした時。
「…あ。召喚成功…?いや、転生成功…?」
若くて、何か物静かな女の子の声が聞こえた。
あれ?うちに女の子なんていないぞ?と思いながら声のした方向へ目を向ける。
「あ、気が付いた。新たな領主様…?」
ふっと微笑みかける女の子がいた。
背は…少し距離があるので正確には分からないけど、自分より若干低い。自分が168cmだから、160ギリギリくらいか。
赤い瞳に銀色で腰まで届くロングヘアの髪。黒っぽい変な鎧を着ている。
(えっ…ちょっ…やばい、凄く可愛い。って、あれ?)
女の子が思いのほか翔の好みにストレートだった。だがそれを思う間もなく、少女のとある部分に目を向けた。
…黒い翼だ。鳥とか天使のような翼じゃなくて、こう、なんというか…コウモリっぽいような。
夢だとしたら、また変な夢だ。この子は可愛いけどさ。
「…えっと?ここは?」
翔が疑問を口に出すと、少女は翔の目の前まで歩いてきた。
そして、そっと片膝を地面に付けて頭を下げた。そして言った。
「…申し遅れました領主様。私の名前はシルヴィアス・ブラッディロード。…高等吸血鬼にして、先代『吸血鬼の領主』の娘です。以後、お見知りおきを。」
…は?何これ。
こうして、翔は謎の世界に召喚されたのだった。