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妖冶刀伝 黎明記  作者: ばし。
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 時はむかーし昔。新しいモノと古いモノが混在していた時代。






「ねぇ~待ってよぉー、待ってーーったら」

 少女が呼びかけて立ち止まるが、少年は気にかける様子もなくその背中は更に遠くなっていく。

「待ってって言ってんのにぃ~」

 彼女は漸くというかやっと彼に追い縋った。

「伯為っ!あたしともう一回勝負してよっ!」

 彼女の剣幕に伯為(ともなり)と呼ばれた彼はヤレヤレという表情を浮かべた。そういう性分なのは彼には充分以上に理解っていた、実力も伴っていた。だから結果として首を横に振った。

「どうしてっ?!どうして伯為はいつもそうなのっ?!」

 彼女は彼の胸座を掴み問いつめる。が、彼は首を横に振るばかり。


「由聖お嬢様、母上様がお呼びですぞ」

 家の下男が玄関の土間に現れて彼女を呼んだ。

「…分かったわよ。…もうっ」

 由聖(ゆきよ)と呼ばれた彼女は胸座を掴んでいた手を恨めしそうに離して、家の中に入っていった。家の下男も彼女の後ろ姿を見送るとヤレヤレといった表情で彼と見合わせた。

「あ、それから伯為殿もお呼びですぞ」








「由聖、もう何ですかっ。はしたないじゃありませんか!伯為に失礼な事をして恥ずかしいと思いなさいっ」

 そのやりとりを見ていた由聖の母・乙妃ときは二人を稽古の終わって人の気配がなくなった道場へと呼びつけたのであった。

「だって、母上っ…!」

「だって、じゃありませんっ。由聖が伯為にいつも負けるのはあなた自身の問題、油断という隙を突かれているんですよ。ということは、伯為に見抜かれているんですよ。他の者には強くてもそれじゃあねぇ‥」

「………」

 母の穏やかな口調ではあるが厳しい指摘に娘である彼女はただ閉口するしかなかった。

「実力だったら由聖の方が上かもしれないわ、けどね…」


乙妃はチラッと奥の棚に置いてある偃月刀に目をやった。その視線には若干の複雑な動揺と感情が含まれていたようだが、元々感情の分かりづらい人な故に由聖と伯為にはそこまでは理解してないだろう。

「…うぅん、こういうのは叱ってしまうのはダメね。自分で克服してこそ意味の成すものだわ。ところで…」

 突然二人の方に向き直ってニコッと微笑んだ。

「あなた達に用があったから呼んだの」

「…?」

「まぁ用というか、あなた達の気持ちを確かめたくて、ね?」

「な、何の事ですか?」

 妙に意味深な言い回しするその上に更に微妙な発言。

「秘密にすればするほど、燃え上がるってものよねぇ。私もそんな頃、あったわねぇ…」

 遠くを見つめウンウン頷きながら何か思い巡らしている様だが、この時何回も娘が呼んでも反応が無かったのは泉龍寺乙妃(せんりゅうじ とき)、なかなかの大物かも知れない。


「…っ!母上っ!もうっ、何が言いたいんですかっ」

「由聖、まずあなたから訊くわ」

 意識が向こうから戻ってきた乙妃は改めて居住まいを正し由聖に問い掛けた、明らかに何かが違う雰囲気を漂わせて。

「あなたはこの家…龍雅山城の業を継いでくれるわよね?」

「…そ、それは…」

 その話を持ち出されては流石に周囲にお転婆と言わしめる由聖でも沈黙せざるを得なかった。いつもその話が出てくる度はぐらかしては逃げて乙妃を困らせてきたのだ。由聖も十七歳になる乙女だ、やりたいことだってまだまだある。だが、それが他の何事よりも違うのは由聖にだって重々承知の上なのだ。

(あたしには荷が重過ぎる)

 継ぐという事はこの家、ひいては龍雅山城流を背負う事。それに躊躇いを感じていたが故にはぐらかしては逃げて延ばし延ばししていた。そう言う事もできずに。


「私は‘そのつもりで’あなたに教えてきたのよ、他の門下生達よりもここに居る伯為よりも遥かに多くの事をね。龍雅山城流の真の姿も。…この偃月刀(かたな)と共にある事も」

 立ち上がった乙妃は奥の棚に飾ってあるこの道場…いや流派を象徴するとも言える偃月刀を持ってきて由聖の前に置いた。

「………」

 物心ついた時から見慣れてきた、それ。相変わらず鈍く光る銀色の偃月刀。それが彼女の目の前に置かれている。三人ともそれを見つめしばし沈黙した。


「これを受け継いだのは…あなたと同じ十七の時だったわね。もうそんなになるのかしら…」

「…え?…」

 偃月刀を見つめ溜息混じりに何気にぼそりと呟いたその言葉に由聖は母の苦労してきた人生の一端をほんの一瞬だけ、垣間見たような気がした。

「…でもあなたが何と言おうとこれは宿命。これは龍雅山城流の正統なる後継者に----つまり、あなたしか使えないのよ。うぅん、これはあなたを選んだ…と言った方がいいかしらね」

「あたし…?」

 刀があたしを選ぶ?

 どっからどう見てもタダの偃月刀でしょう?

 そんな面妖な事あるわけないでしょ?

 と色々文句ブチまけようと言おうとした矢先。

 突然、由聖の前に置かれていた偃月刀が前触れも無くふわりと宙へ浮いたかと思うと光を発し始めたのだ!

「さぁ由聖、その刀を手に取りなさいっ!」

 彼女は言われるままに刀の柄を手にした。すると刀は目も開けられないくらいの閃光を発し一瞬のうちに周囲を真っ白く染められていった-----


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