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学園の神鳴り殺し  作者: 片岡 雅
-梅雨の修行旅:合宿編-
97/110

◇11-5◇

 茂みのほうから突然投擲されたナイフ。だが、それは優や遥を狙ったものではなかった。

 優のすぐ後ろを通っていったそれは、彼らのさらに奥にあった《なにか》に命中した。その《なにか》はナイフが命中するとごとっと鈍い音を立てながら地面を転がる。球体で真っ白な金属に覆われた機械だった。しかしそれよりも、優は飛んできたナイフのほうに意識がいっている。

 そのナイフから感じた振動――いや、わずかな空気の歪みと言った方が正しいだろうか――を優は感じ取っていたのだ。それは以前にも感じた、あの歪みだ。

 1日目、エイプモデルらを相手にしての戦闘。その中で斉藤が投擲したナイフから一瞬わずかに感じられたものだ。あの時は単なる気の所為かと思い過ごしていたのだが、これで確信できた。彼女は、れっきとした能力者だったのだ。今思えば、そのおかげであの時はただのナイフが電獣のコアを破壊したのだろう。質量を持つ物質でありながら、この世のあらゆる物質を受け付けないコア。それをただの金属ナイフで破壊するなどということは不可能なのだから。

 そしてそれが今とこの場に現れたということは――


「斉藤さん、そこにいるのか?」


 少しばかり低めの声で威圧するように言う。だがしかし、常に無表情で感情の有無すら疑わしいあの少女には、そんなもの通用するはずないのだろう。そんなことは優にもわかっている。だが、ここは気の持ちようというものだろう。ある意味では、先ほどの声色は優の斉藤に対する意思表示のようなものだ。

 そうして、優が声をかけてから1・2分、沈黙が続く。すると、斉藤のほうも意味のない行動と察したのか、あっさりと木陰から姿を見せた。水色のワンピースに学校指定のショートベスト。銀色の髪は短めに切りそろえられていて、その中の青色のメッシュは不思議な輝きを魅せた。その透き通ったような銀色の瞳は、何を見据えているのか、どこか底知れないものを感じさせた。


「斉藤さん、いったい、どうしてここに……?」


 事情がまったく飲み込めないのは優も同じだが、彼以上に、遥は動揺を見せていた。なにせ、斉藤がどういった人物なのかを遥は知らないからだ。要するに、彼女経由で最終的に優がこの地域を離れてしまうのではないかと、ずいぶんと遠い発想をしたわけである。おかげで現在、遥の脳みそは優でいっぱいだ。

 そんな感じであわあわしている遥に一度優が落ち着くよう釘をさすと、斉藤が口を開いた。


「……あなた、思ったより面白いわね。いま、私の剣に気づいたでしょ?」


 これまたいつもと違い、少しばかり楽しそうに言葉を並べる斉藤。その様子に、遥も優も少しばかり驚いていた。

 そんな2人はまったく気にせず、斉藤はさらに続ける。


「……あの日は、ただの人間だと思ってたけど、あなた、持ってるわね?」


 斉藤はまたいつもの淡々とした調子に戻り言葉を並べた。無表情で語るその様子は、まるで機械仕掛けのようだ。


「あんたの剣って、さっきのナイフのことか? それなら、気付いたぞ。微かに電磁エネルギーが残留していたからな。――それと、持っているかと聞かれても、何のことだかわからないな」


 答える間ももらえず2問訊かれた所為で2つのことについて答える羽目になってしまった優。とりあえず答えるだけ答えたが、優には正直斉藤の意図がまったくつかめなかった。それに、先ほどの機械も気になる。

 だが、


「……そう。わからないの。……あなた、本物なんでしょう? それなら、わかるわよね」


「なっ!?」


 本物。それはつまり本職ということか。まさか、今来たわけではなくずっと尾行していたというのか? しかし、今までまったく気配を感じなかった。もし尾行していたとしたら、先ほどの組み手もずっと見ていたということか。ようするに、斉藤さんは俺の正体を知っている……?


(だが、いったいどこで……?)


 優の表情が曇っていく。斉藤は相変わらず無表情のままだ。

 優は先ほどからずっと斉藤の意図を勘ぐろうとしているが、なかなか答えにはたどり着かない。いや、おそらくはたどり着かないだろう。それはわかっている。だが、ここで引き下がるわけには行かないのだ。


「斉藤さん、あなたはいったい何者ですか……?」


 単刀直入に訊いてみる。これが一番手っ取り早い方法だ。

 そんな優の質問に、一度俯く斉藤。答えは出ないかと諦めかけたその時、再び顔を上げ、斉藤は話し始めてた。


「……そうね、私は斉藤幸美。あなたの知る人物の妹よ」


(俺の知る人物?)


 そんなの山ほどいる。ABNの中には本名を使っていない人間もいるし――そこから正体がばれていかない為だ――、そんなのわかりっこない。そもそも斉藤なんて名前よく聞くし、きっと俺の知人にも少なくとも5・6人はいるはずだ。

 考えても、答えはやはり導き出せない。そんな優の渋顔を見やって、斉藤は再び口を開いた。


「……やはりわからないわね。なら、言い換えるわ。……私は――」


 しばしの間が続く。優はごくりと乾いた音を立てると、額に汗を流しじっと斉藤を見た。


「私は――……御影美月の妹よ」


「――なっ……!?」


 その聞き覚えのある名に、優は衝撃を受けた。

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