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学園の神鳴り殺し  作者: 片岡 雅
-梅雨の修行旅:合宿編-
95/110

◇11-3◇

 体長約4メートルに体高約1メートル弱。バチバチと音を弾かせながらうねうねと近づいてくるさまは、まるで獲物を品定めしているかのようだった。

 巨大スネークモデル。今現在優たちの目の前に現れた電獣だ。

 しばらく何も起こることなく歩みを進めていた優たち2人だったが、思わぬ強敵に出くわした。


「これはずいぶんな大物だな……。この辺の電獣からエネルギーを吸い取って巨大化でもしたんだろうが、まぁおかげで色が濁ってぜんぜんコアが見えないけど……大方、この辺の主って所かな」


 目の前から発せられる強烈な威圧感とは裏腹に、優は楽しげに口元を緩ませる。そしてすでに利き腕である右手をベスト裏の銃に回しており、いつでも応戦できるといった体勢だ。ある意味で、優はこの状況を楽しんでいた。

 しかし遥はそれとは逆で、優がいて心強いというのもあるが、やはり実戦闘は少しばかり気迫に押されがちなようで、支給されたELLゴーグルのレンズ越しに見た巨大蛇からの迫力にすでに一歩後ずさっていた。人一人などは丸々飲み込めそうなその体躯は、まさに森の主たる風格がある。


「遥、それじゃあ蛇退治だ。――サポート頼む……!」


 そう言って優は走り出した。行く先は真っ直ぐとスネークモデルの方向へ。近距離から一瞬にして資格へと離脱するという寸法だ。幸いまだスネークモデルのほうもこちらを甘く認識しているようだし、動きは鈍いはずだ。


「了解! 誘導段撃つよ!」


「頼む!」


 遥はスカートのポケットから一発の弾丸を取り出し、支給された簡易銃に装填、射出した。その弾道は真っ直ぐとスネークモデル横の樹木に命中し、一瞬スネークモデルの視線がそちらに集中した。その隙に、優は逆方向へと回る。


(この異常なまでのエネルギーといい、他の固体を取り込んだならコアが複数個ある可能性もある。一撃で仕留めるのは無理だと考えるべきか……)


 優はすばやく走行の勢いを殺し右手を前へ構える。そして、質量のない弾丸を一発撃ち放った。その弾丸は美しい軌道を描き、バチバチと光る巨大な電磁の塊に吸い込まれていく。急所をはずす結果とはなったが、どうやらかなりのダメージがあったらしく、スネークモデルは一瞬気を取られた樹木のほうに自ら体を叩きつけた。そしてその樹木の崩れる音と共に、じたばたともだえる音が地響きとなって続く。

 そしてこのとき、優にはスネークモデルのコアの位置がよく見えていた。ダメージの所為かコアにより固定されたエネルギーが弱まったようだ。これは都合がいい。


(コア3つ。遥に協力してもらうか……)


 優は一度その場を離脱すると、すぐさま簡易銃のスライドを引く。これで次の弾を撃つ準備は整った。

 次なる手に移すため優はそこから再びスネークモデルの死角へと回り込もうとする。それと共に、遥に声をかけた。


「遥、《ロープ》を使う。あいつの気を引いといてくれ!」


「わかった!」


 スネークモデルを横目に優に返事を返す。そのまま流れるように遥は電磁弾を装填しなおすと、すぐさま牽制射撃を開始した。立て続けに撃ち放たれる弾丸が次々とスネークモデルへと命中し、注意が遥へと向いた。すると遥はすぐさま弾丸を誘導弾へと換装し、周辺の樹木に向けて撃ち放つ。狙いは注意の撹乱だ。

 すると遥の狙い通り、スネークモデルは一度動きを止め、一度に数多出現した標的に戸惑っているようだった。


「――遥、いまだ!」


 刹那、優が声を響かせる。それを聞いた遥はすぐさまその場からバッグステップで移動すると、銃をしまって体を丸めた。

 それを確認した優はいつの間にかはめたグローブに1つのキューブを握り締め、反対の手に構えた銃をスネークモデルへと向けた。そして鈍い音と共にその銃口から光の弾がはじけ飛ぶ。そしてそれはスネークモデル手前の樹木に命中し、そこから1本の糸のようなものが銃口にむけて伸びる。優は木の裏をとおりの糸を木で断ち切ると、すぐさま次の弾丸を打ち込んだ。それを繰り返す。

 この粘性の電磁の糸こそが、《ロープ》だ。優の発動させたコアの潜在能力。それは、粘性への形質変化だったのだ。

 この能力を使い変形させた電磁の糸が、次々とスネークモデルの行動範囲を狭めていく。そして――


「これでもう、チェックメイトだな」


 動きは完全に停止した。動きたくとも、糸に絡まって思うように体を動かすことができないのだ。

 そんな様子のスネークモデルは、見ていて滑稽だ。意思を持たない電磁の塊は、おそらく身の危険などは感じないのだろうな。

 優は能力を発動させたまま口で銃のスライドを引くと、1発ずつコアに向けて銃弾を撃ち込んだ。1つ壊すごとに、スネークモデルの体躯がゆれる。そして最期の1つ。それを撃ち抜いた。それはもう粉々に。

 すると例のごとく、それはポリゴンのような光る欠片となって形を崩していった。その光景は、いつ見ても儚いものだ。


「さて、それじゃあ先を急ごう。時間がもったいない」


 コアをしまいグローブをはずし、銃をベストの裏側に戻す。遥も同様に武器をしまっていた。


「うん、そうだね」


 目的地の廃校まではもうずいぶんと距離をつめている。おそらくはあと十数分も歩けばたどり着くだろう。

 1戦闘終えて軽い運動もできたことだし、思う存分修行に励むことができそうだ。


「あぁそうだ、遥、廃校に着いたら組み手をしようと思うが、大丈夫か?」


 一応女子だし、そこらへんは注意しておくべきだろうという優の考えだ。妙に意識してしまっている分、毎度毎度しつこいこともあるかもしれないが、ないよりはましだろう。


「大丈夫だよ。精一杯頑張る!」


 遥は小さくガッツポーズをしてみせる。


「そっか、よかった……」


 このとき、遥は久しぶりに優の笑顔を見た気がしていた。最近妙に気まずい雰囲気もあったし、何より遥自身が面倒ごとを増やしてしまったから、その笑顔はおおいに彼女の心を落ち着かせた。遥が優と出会ってもう1カ月経つが、大した進展がないのが彼女の密かな悩みでもあったからというのもある。

 がしかし、実際はそうでもない。優の心はだんだん傾き始めていたのも事実だ。これが吉とでるか凶と出るかは定かではないが――。


 そしてしばらく、あの骨組み丸出しの校舎にたどり着いた。この光景はいつ見ても衝撃的だ。まるであの日にいるような錯覚さえ覚える。――だが、それに負けてはいけない。

 優は一歩、その足を前に進めた。かつて仲間と約束した目標のためにも、現実を見つめるのだ。

 しかし、我ながらよくこんな場所をチョイスした。優はしみじみとそう思う。わざわざ自らの記憶を掻き乱すような場所を選んでしまったのだから、そう思うのも仕方ないかもしれない。


(やっぱり、重いな……)


 心のどこかではまだ八年前の災害に怯えているようで、その痕跡を濃く残したこの校舎に入るのにはとても足が重かった。

 だが――


(遥のためだ。我慢しろ……!)


 そう割り切って、優は真っ直ぐと廃校内へと足を踏み入れた。

 足元には数え切れないほどの瓦礫が転がっている。おそらくは現在も町外にあることだし清掃などするものもいなかったのだろう。死臭こそ漂ってこないが、埃の匂いや泥水の匂いなどが優の鼻腔を弱弱しくもはっきりと刺激していた。足を踏み入れたのは1階部分で、2階への階段は少し奥のほうに見受けられるが、2階の床はすでにほとんど抜けていて、ずいぶんと危険なものと化していた。さらに3階にいたってはもう床といえるもの自体がなく、2階の残った床の一部や1階部分にその破片と思わしく瓦礫が堆積している。

 見れば見るほど、酷い惨状だ。ペンキが塗ってあったような痕跡などまったくないし、8年の間に風化してしまった木材なんかはスカスカになって見る陰もない。


(ここで修行か。まぁ、足場が悪い分、立ち回りの練習にはなるかもしれないな――)


 一度うんと頷き、優は振り返り声を出した。


「遥、ここで組み手をしよう。遥は銃も使ってくれて構わない。あと、そうだな……これ、一応持ってきたから、履いてくれるか……?」


 やや顔を赤らめながら優がいう。

 彼が持っているのは長めのズボンだ。基本遥はスカートを履いているから、あまり激しい動きはできない。というか、優としてはして欲しくなかったのだ。なにせ、蹴りをするとパンツが見えてしまうから……。

 そんな優の提案に、遥も一瞬戸惑ったが、すぐさま意味を理解し顔を赤くして頷いた。……なんというか、なぜかまた微妙な雰囲気に陥ってしまった2人であった。

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