◇11-1◇
合宿2日目。
この日は朝食から湖畔でバーベキューと言う、随分とまた思い切ったものだった。おまけに午後は自由行動だというのだから、正直驚かされる。
宿舎にいるうちに優が見たぶんには、今日はどうやら1日中晴天なようだし、すばらしい合宿日和だといえる。
バーベキューのほうも、ねぎやピーマン、ほかにもソーセージだとかにんじんだとか、いろいろなものがあって、なかなか飽きない。みな好きなものを手にとって、にぎやかに朝を満喫していた。その光景からは、昨日の騒々しい夕食は思い浮かびもしない。
「さてと、静かなところ静かなところ……っと」
優は両手にくしを持ちながら、あたりを見渡す。どこも人がいて、なかなか空いているところがない。幸一とも途中ではぐれたし、他に見知った顔も見あたら……いや、1人見つけた。斉藤幸美だ。
「斉藤さん!」
「ん……」
どうやら彼女も優に気づいたようで、そちらを向いた。だが、またすぐに視線を戻す。
(なんだろう、俺嫌われてんのかな?)
「ねぇ、斉藤さんはルームメイトたちとは食べないの?」
聞いてはいけない話題の気は彼もしていたが、苦笑いであえてそこを突く。それには明確な理由があって、ちょっとした反抗心だ。
「別に。私はこの方が落ち着く」
「へぇ。そうなんだ」
やはり一言で話題が途切れてしまったか。
そう優は内心ため息を吐く。一体どうしたら話が続くのだろうか……。
(あっ、そうだ)
「斉藤さんって、どうして電磁科に入ったの?」
――優のその質問に、斉藤の方がビクッと震える。そして、顔を優に向けることなく立ち上がり、
「あなたに話す義理はない」
「あっ、ちょっ……」
ガチャガチャと小石を踏みつけながら、すたすたと斉藤はその場を立ち去ってしまった。追いかけようにも人が多すぎて、それはかなわない。
(怒らせちまったな、これは……)
ますます状況がややこしくなっていく優。本当に彼の周りでは、というか、彼と女子の間では気まずい雰囲気が築かれていく。まったく彼も困ったものだろう。
「はぁ……」
彼は湖畔で1人、両手に串を持ちため息を吐いた。
――一方そのころ。
「ちょっと、なんかあたしに文句でもあるの!」
「文句があるのはあなたのほうでしょう井上ツカサ!」
優のいる場所とはまったく違ったところで、涼子とツカサがまたいがみ合っていた。それの中立位置にいるのが遥だ。
2人はどっちのもっている串が一番おいしいかと言うことで言い争っていて、お互いに負けを譲らない。正直ギャラリーとしても、もちろん遥としても、そんなものはどっちでもいいのではと思うのだが、それを認めないのがこの2人なのである。
「ピーマンよりも葱のほうがおいしいに決まってるでしょ? バーベキューといえばこの長葱よ!」
右手に握った串を前に突き出す形で、ツカサが主張する。
「いいえ、メジャーな長葱よりも、隠れた主役たるピーマンのほうがおいしいに決まってるわ!」
今度は涼子が串を突き出して主張する。
マジでどうでもいい言い争いだ。
「遥、あなたはどっちがおいしいと思う!?」
「そうよ、相沢遥はどうなのよ!?」
そしていつもどおりのこの無茶振りである。
これには遥もどうしようもないといった様子で、苦笑いで固まってしまう。そして何かを思いついたように口を開く。
「そうだ、また、優くんに決めてもらえばいいんじゃない?」
これまた彼からしたら無茶振りであるが、この状況からすればこうするほかないだろう。ある意味では、ナイスバッティングだ。
「それもそうね」
「ええ、ついでにこの間の決着もつけられるし、一石二鳥じゃない」
結局、騒ぎはここで収まった。驚くくらいあっさりした結末だ。
神田優1人を犠牲に、生徒みな若干の苦笑いを浮かべて気まずそうに散っていった。遥はそれ以上のきまずさと罪悪感で押しつぶされそうになりながら、心の中で必死に優に謝罪した。




