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学園の神鳴り殺し  作者: 片岡 雅
-梅雨の修行旅:合宿編-
92/110

◇10-8◇

 優たちが宿舎に帰還したのは、日がもう完全に降りてしまってからのことだった。ガイドの白石とは、ロビーについたころにはすでに別れていて、というよりかはいなくなっていて、挨拶もなしに別れてしまった事にすこし不満を覚える優たちだったが、おそらく次の仕事に向かったのだろうと納得していた。

 とにかく今はお腹が空いていた。みな帰り道でもちょくちょく腹の虫の音に羞恥を感じながら、森の中を歩いていたのだ。

 夕食の時間は現時刻より約30分後となっていて、朝食とは違い食堂貸切で一年生全員で食べることになっている。メンバーも席もすべて自由といったところで、教師勢も随分と思い切ったものである。


「ねぇ、神田君は今日もいつものメンバーで食べるつもりなの?」


 加賀美が思いついたように質問を投げてきた。そのあまりの突然さに、一瞬優も足を止める。


(いきなりだな)

「まぁ、そうかな。たぶん俺が1人でいても勝手に集まってくるだろうし」


 自分で言うのはどうだろうかと思わせる台詞だが、実際そうなのだから仕方がない。優の周りには、今なぜか人がやってくる。遥をはじめ、ツカサに幸一、涼子や生徒バ会長。こうして考えると、優には不思議な魅力があるのかもしれない。普通の人間にはない、何かが。

 いや、実際優にいくつか普通の人間とは違うところがあるが、そういったことではなく、不思議なオーラを発しているのだ。


「いいことだね」


「結構困ることもあるぞ?」


「それでも、僕にはうらやましいですよ」


「ふぅん」


 他愛もない会話を続けているうちに、部屋の前まだたどり着いた。

 ロビーにいるときに、どうせ30分間暇だろうと言うことで、一度みなそれぞれの部屋に戻ることにしたのだ。優たちの部屋にはもう田中たちもいて、最後の到着と言った様子だった。また涼子たちも同じような感じで、どうやらグループとして最後に宿舎に到着したらしい。

 部屋に戻った優たちは早々に武勇伝を語らせられ、30分という時は、気付けばあっという間に過ぎ去ってしまった。


 部屋の扉を少しでも開けば、夕食の香ばしいかおりが漂ってくる。数種類ものスパイスの香りに、薄っすらと煮詰めた野菜の匂い。これはおそらくカレーだろうか。

 これは優の希望の夕食で、思いのほかうれしい優。


「神田、よかったじゃんか。お前御希望のカレーだぞ?」


「からかうなよ。別になんとも思わないよ」


「素直じゃないな~」


「…………」


 優は素直に幸一にジト目で視線を送った。

 するとその2人の間に、加賀美が割って入る。


「まぁまぁ、神田君だって年頃の男の子だし、恥ずかしいことだってあるんですから」


 しかしその台詞は、優がうれしくて喜んでいると言う事実を肯定する言葉でしかなかった。

 そんな言葉に優はため息を吐きながら、


「おい……」


 まったく勘弁してもらいたいものだ。


「ほら、早く食堂行こうよ。急がないとなくなるぞ?」


「おっと、そうだったな。今はまず、飯だ飯!」


 優が扉を開けたにもかかわらず、先に部屋を出ようとしてその場から駆け出す幸一。しかし部屋はそんなに狭くないので、扉の前で勢いを殺しきれず、廊下の壁に両手をついて衝撃を壁に与える。そして聞こえる、「うるせー」の声。これは向かいの部屋からだ。まぁそりゃ壁に人がぶつかったらうるさいだろう。

 幸一にはもう少し落ち着いてもらいたいと本気で思う優である。



 さて、それからしばらく。

 とりあえずは食堂に到着した優たち5人。それぞれバラバラになって自分の席と食料を求めていった。……だがこれはなんだろうか、みな我先にと、おぼんを持って料理の前へと向かっていく。並ぶと言う発想はないのだろうか。おもに運動部の連中には困ったものだ。

 呆れ顔で空いているあたりを歩いていた優は、見知った顔を見つけた。


「おーい涼子ー」


 軽く呼んでみる。すると涼子は一瞬びくっと震えて、すっと振り返った。


「なんだ、神田優か」


「俺で悪かったな」


 あくまで皮肉じみた言い方で返す。


「ていうか、一体いつまでフルネームで呼ぶつもりだ? 面倒じゃないのかよ?」


「い、いいのよ。私はこの方がいいの」


「ふぅん。まぁ、ならいいけど」


「え……いいの?」


「ん? ああ」


「そ、そう……」


 涼子はすこし不服そうな顔をして、目の前のポテトサラダを皿に取る作業を再開した。優もそれに倣い隣のマカロニサラダを皿に取り始める。


「あのさ、今日はなにかと喋らなかったけど、体調でも悪いの?」


「え? いや、別にそういうわけじゃないわよ」


「そうか。よかった。んでも、じゃあなんで?」


「別に、何だっていいでしょ? ただたんに、喋りたくなかっただけよ……」


「うん、それならいいんだ。でも、何かあったら言ってくれよ? 会長にも頼まれてるし、なにより俺の所為で他人が傷つくのは見たくないからさ」


「う、うん。……わかった」


 涼子はベストを一度握ってそう言った。


「さて、いつまでもマカロニサラダばっかり取ってるわけにも行かないしな、次行こうか」


「……うん」


 2人は、夕食を集めに歩き出した。

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