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学園の神鳴り殺し  作者: 片岡 雅
-梅雨の修行旅:合宿編-
91/110

◇10-7◇

 現在時刻は午後4時ほど。いまだにどのグループもまだ守野丘というそこそこの広さを持つ自然地区をめぐっていた。おそらくそのうちの30パーセントほどのグループは電獣と遭遇しているであろうが、いまの所負傷者はいない。これは喜ばしい状態だ。なにせまだ学生であるにもかかわらず冷静に対処しているのだから、素晴らしいことだ。

 つい30分ほど前に湖をたった優たちも、難なく電獣を撃破していた。今現在も交戦中である。

 敵はエイプモデル。体格、性能、特徴としてはサルのようなもので、随分とすばしっこく木々の間を移動し、遥の銃弾はほとんど回避されていた。優も銃の性能があまり良くない所為か狙いが定まらないことがあり、撃っても弾速が遅く思うように当たってくれない。


(これはまた、厄介な相手だな……)


 少々苦戦気味である。

 それからも優と遥が次々と電磁弾を撃ち込むが、その全てをエイプモデルは軽やかな身のこなしでいなし、また優たちもエイプモデルの近接攻撃をステップを踏んでうまくかわしていた。

 これでは埒が明かない。

 敵がすばしっこい為同士討ちなんかを避けるためにあまり大人数で戦闘することは好ましくないと、2人で戦闘をしてはいるが、優としても遥としても、正直なところ斉藤にも協力してもらいたいところだ。

 一瞬目を向ければ、彼女はいつでも動けそうなのだが、なぜ何も行動を起こさないのか。スタートラインで言ってしまえば、斉藤のほうが遥よりも上なのに。


(斉藤は一体なにを考えているんだ?)


 彼女の持つ武器は投擲用の小型ナイフで、電獣にたいしては攻撃的効果がない。むしろアレはサポート用のアイテムで、あまり使われることはないのだが、斉藤は遥同様サポーター志望なのだろうか。


 余談ではあるが、神鳴り殺しが1つの地区に1人なのにたいして、国の認めた職としての対電磁師(アンチキラー)は、複数人で任につくことがあるという。そのため、ABNにはないサポーターというものも存在する。

 電磁科では、そんなサポーターを目指すというのもアリなのだ。……まぁ、優には関係のない話だと思うが。


(くそ、なかなか当たらないな)


 いつもなら、自分の銃なら目の前を跳び続けるエイプモデルなど敵ではないだろうに、さらには能力を思う存分使えれば、瞬殺であろうに。

 涼子や白石、加賀美にはできるだけ後ろに下がってもらって、優たち同様被害がないが、それはエイプモデルが、遥が身に着けているレスビアンカに気を取られているだけであって、時間が掛かればかかるほど効果も薄れていき、危険も多くなってしまうのだ。早いところけりをつけたい。

 それに何かおかしいのだ。

 この日にあった電獣というもの、どの個体もどこか動きがおかしいのだ。具体的にどうなのかと訊かれてしまうと答えづらいが、それでも何かが狂っている。例えるならば、まるで何かに行動を強いられているかのように。


(だが……)


 攻撃が当たらない事とそれとはまた別だ。現在のこの状況は敵が特殊なのではなく優たちの方に原因があるのだから。


(くそっ……)


 こうなったら、角なる上は誘導弾を……。

――そう、優が思ったときだった。


「っ!?」


 空気を切り裂き、一筋の銀色がまっすぐと獲物めがけて飛んでいく。それはまるで獲物に吸い込まれていくように。

 大気が微かに揺れる。それも、優がなんとか感じ取れるほどの小さな揺れだが、確かに。

 それとは別に、この場にいる人間すべての認識できる事象も1つ……いや、細かくすれば2つになるだろうか。

 優の背後から投擲された銀色のナイフがエイプモデルの小振りなコアを貫き、粉々に粉砕したのだ。それによりエイプモデルもその輪郭を崩し、キラキラと空へ塵になって消えていった。

 いったい何が起きたのか、と、本職でも唖然として立ち尽くす優。考えれば簡単なことだ。ナイフを持っていたのは斉藤だけだから、彼女が狙って投げたのだろう。もしくは偶然か……。いや、すばしっこく逃げ回るエイプモデルに命中したのは運かもしれないが、それでも、ただのナイフが電獣に届くわけがない。金属が届くわけがないのだ。


「いったい、何が……」


 優には理解の及ばない事象だった。

 それに優の感じた揺れ。あれは電獣を構成するレミック電磁波の引き起こすそれによく似ているが、それとは少し違うものだった。どこか親近感を覚える不思議な揺れだったのだ。

 それからしばらく、沈黙が続く。静まり返った森のなか、砕けたコアが光るだけだった。ニヤリと笑う、1人を除いて……。




――一方その頃――空がだんだんと夕日色に染まりつつある頃、しばらくまえに廃校を出発したツカサたちが森の中を歩いていた。

 現在はもう時間的にも帰路を歩いているといった具合で、薄暗くなってきた森の中は早く出て行きたかった。数本奥の木々はもう黒っぽく瞳に映り、数人で踏む足音は、どれが誰のものかなどわからない。考えれば考えるほど、不気味なものだ。


「なんか、なにもなかったわね」


「そうだなぁ。もうすこしこう、何かないかなとか思ったけど、まさかここまで何もないと、なんだか遠足にでも来た気分になるな」


「そうですねぇ~」


 ツカサの言葉に幸一が反応し、そこへ更に宮野が反応する。ガイドは振り向きもしないまま先頭を歩き続ける。どうやらこっちのガイドは随分とそっけないようだ。ちょくちょく後を気にかける素振りこそ見せるが、基本的には相手にしない。だがまぁそれはそれで班の中の親睦も深まるということでいいことにしよう。


「ほんと、他の班もこんな感じなのかな~」


「でも、ちょくちょく銃声が聞こえますよね」


 確かに、彼女達は知らない事だが、実際は頻繁に戦闘は起きていた。

 ある意味、四方八方から銃声の響く自然観光なんてどうかと思われるが、それもまぁこの行事の面白いところであろう。流れ弾が当たっても大丈夫なように、生徒やガイドはみな絶縁素材の服を着用していることだし、電獣に遭遇して物理攻撃を仕掛けられでもしなければ、大方問題はない。


「そろそろ宿舎だ。カードキーを用意しとけよ」


 しばらくぶりにガイドの男が口を開いた。といっても、また随分とそっけない言葉だが。

 その言葉を聞いて、ツカサたちは腰のポーチからそれぞれ自分のカードキーを取り出す。カードキーとは宿舎に入る際に身分を証明するもので、まぁ言ってしまえば駅の切符のようなものである。


 こうして、何も起きないまま彼女達は宿舎へ戻る。

 四方八方からは今も尚、銃声が響いている。優たちもまた、その中のひとつだった。

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