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学園の神鳴り殺し  作者: 片岡 雅
-梅雨の修行旅:合宿編-
90/110

◇10-6◇

 湖というのは地区間を移動する際なんかにたまに立ち寄る事がある。そしてそのたび、自然の美しさと広大さを実感させられる。8年前の災害で荒れたはずの世界なのに、自然だけは、その色を変えずに美しいままあり続けているのだ。

 少しずつ空気にしめる水気が多くなってきた。それにより、優たちは湖がもう近いことを知る。

 そして、白石が指をさした方向を見ると、また驚いた。

 湖面に太陽が映り、ギラギラと眩い光を放ち、今にも何かが舞い降りてきそうな、そんな神秘的な雰囲気をかもし出していたのだ。ここにいたら、きっと何もかも忘れてしまいそうな、そんな場所。なにがなんだか分からなくなってしまいそうな場所だ。


「ここが目的地。ここ守野丘地区名物の《シエル湖》です」


 白石が眼鏡をくいっと軽く上げ、インテリジェンスオーラをむわむわと放ちながら、解説を始める。


「ここは日中は太陽を映し、夜間は月を映す、古代の宗教ではココを《白金の泉》と読んでいたそうですよ。なんでも、ここでは生贄の儀式をしていたようで、年に1回、流星群が降る夜に若い娘を祭壇に捧げていたのだとか」


 少し角度を変えてまた白石が眼鏡をくいと上げる。今回のは角度的に光の反射でレンズの奥の瞳が見えないようになっていて、いじらしい調子になっていた。

 にしても、古代の祭壇とは、神秘的な雰囲気とは裏腹になんとも物騒な感じである。できることなら、今すぐにでもこの場から出て行きたい。そんな気分になっていたのはこの場にいる何人ほどであろうか。


「ガイドさん、その流星が降るのって、一体いつごろなんですか?」


 加賀美が手をスッと挙げ質問をする。


「そうですねぇ、大体、明後日の夕暮れごろ、ですかねぇ」


「え、明後日なんですか!? すごい偶然ですね。それなら僕達も見ることができますよねきっと。だって明後日帰るのは午後からですから、バスの中からみれますよ!」


 ぐっと詰め寄ってくる加賀美。そんな勢いに、白石もおされる。


「そ、そうですね……。そうだといいですね」


 はははと、白石は瞳を無駄に輝かせた加賀美に苦笑いをする。

 まったくふざけた状況だ。つい先程電獣の攻撃を受けたというのに、のん気なものである。これが噂に聞いた平和ボケというのもだろうか。いや、それとは少し違うか。今はけして平和というわけでもないし、そもそもこんな状況が昔からあったわけでもない。だとしたらこれは一体何なのか。

 それはきっと、今を楽観視しすぎているのだろう。自分達が保護されている事に、守られていることになれすぎて、きっと恐れをどこか忘れてしまっているのだろう。

 別に、だれもそれが悪いことだというつもりは毛頭ない。だが、優はそれがどこか心配だったのだ。


「ん?」


 ふと、優の視線が湖のほとりへ向く。そこに1人座っていたのは、斉藤幸美だ。

 彼女は他のメンバーとは打って変わって、道中もまったく会話らしい会話をしなかった。せいぜい彼女は返事をよこしてくるくらいで、はい、か、いや、としか言わなかった。

 また随分と個性的な子だと優は思う。

 それにしても、なぜ彼女はいつもああして1人でいるのだろうか。他のメンバーは休憩であるにも関わらず賑やかだと言うのに。

 そこでふと優は思った。

 そうだ、彼女に声をかけてみようと。なにしろ、実は優は彼女をどこかで見たことがあるような気がしていて、なんとなく興味がわいていたのだ。


「ねぇ、斉藤さん、だよね。斉藤さんは、他のやつらと違って落ち着いてるけど、自然をみてどう思うの?」


 なにを言おうかと迷った結果なんか変な質問になってしまったが、これならYESNOで答えられないから結果オーライだろう。

 声を掛けられた斉藤のほうはこれまた顔色ひとつ変えずに、優の顔をみて一度視線を逸らしながら考える素振りを見せると、ゆっくりと口を開いていった。


「悪いですが、興味ないです」


「…………」


 予想の遥か斜め上を行くその返答に、優は反応ができなかった。まさか興味ないとくるとは、確かにそれならかなりの質問に使える。


「そ、そうなんだ」


 他の話題、他の話題。そう考えた結果、常識外れの優は、他人からしてみれば随分とおかしなことを言ってしまった。


「あのさ、俺達って、どっかで一度会ったことあるかな? なんかさ、斉藤さんの髪の色、どこかでみた事がある気がするんだよね」


「……え?」


 しかし、そんな優のおかしな質問に、今までとは違った反応を斉藤は見せた。ずっと半開きのようだった銀色の瞳をパッチリと見開き、ずっとつぐんでいるようだった口はその驚きのあまり開きっぱなしになってしまっている。

 そんな彼女の反応に、またも優は反応できず固まった。


「あっ……。――あなた、一体どこでみたの?」


 しばらく口を開けたままだった斉藤はそれに気づいていつもの表情に戻ると、それよりか少しばかり強い調子で、優の目を直視して訊いてきた。だが、その答えを優は聞いていたわけなのだから、勿論知るはずはない。


「いや、ごめん。人違いなら良いんだ。悪い、変なこと言って」


「……いえ、私こそ、ごめんなさい」


 また随分とき不味い空気になる。なんだろうか、優は女子と話すとき不味くなる呪いでも掛けられているのだろうか。だとしたならば、それを掛けたのは相当の否リア充だったのだろうな。


「そ、そろそろ、出発するっぽいから、行こうか」


「……うん」


 しばらく沈黙は続いたが、思ったよりも早く休憩が終わってくれて助かった。これ以上沈黙が続いたら、優がプレッシャーに押しつぶされるところだった。


 またなんとも言いがたい空気で、優たちは歩き出す。

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