◇10-4◇
30分というのは意外な事にすぐ過ぎ去ってしまうもので、取るに足らないような雑談をしているうちに過ぎ去ってしまった。女子っぽく賑やかに騒ぐ部屋と、大人しげに且つ上品にしている部屋。そのどちらもがまだらに配置されていて、宿泊施設3階の廊下は温度差が様々だった。昼食を運ぶ施設の人も、きっと通りづらかったことだろう。
とたっとたと、少しばかり不安定な感覚で発せられる足音。それが扉の近くまで来ると、1度ドスッという音が響き、そしてノックが聞こえてくる。
「はーい」
部屋の中からは軽快な応答が返ってくる。それを聞いて、
「失礼します」
敬語でかるく軽く礼をして、扉を開けた。
「お昼を持ってきました。こちらお絞りになりますので、よろしければお使いください」
「はーい」
「それでは、失礼しました」
また軽い会釈と共に敬語で去る。
彼はこの仕事に慣れているようでどうにも挙動不審に見えてしまい、実は新人なのでは、と彼女たちは要らない詮索をしてしまう。
彼女たち、というのは勿論今現在昼食を運んでもらった部屋の女子たちのことで、まぁ言ってしまえば遥たちである。
即席で自由に組んだため、新しい仲間と親睦を深めるという意味ではあまり機能しないが、それでも組めただけましだろうか。
メンバーとしては、遥とツかさと、その他女子3名だ。
「ねぇ遥、あんたもう今日のグループ分け見た?」
「うん。見たよ?」
「うわ早っ――で、どうだったの?」
えーとっと遥があごに指を添える。
グループは現在ロビーに掲示されて、担任に話しをまったく聞かされていない1-D生徒は、その掲示を見るほかない。それを見るのも自由なため、まだ見ていなかったツカサはもしやと思い遥に訊いたのだ。
「確かツカサちゃんは佐藤君と一緒だったと思うよ? あとは違うクラスの加藤さんって言う人と、うーん、芸術科の子は覚えてないかな?」
「ほーん。あたしは馬鹿と一緒なのねー」
なかなかに興味なさげ名表情で答えた。口の中には料理が詰まっているからか、随分聞き取りづらかったが、その所為か随分適当に聞こえる。
「あんたはどうなの?」
「私はね、涼子ちゃんと優くんと、あとは同じクラスの加賀美くんと、斉藤さんって人」
「そっちはちゃんと覚えてるのね」
そうかそうかと言う顔で、ツカサは遥をじっとりと見つめる。そんな様子に、遥は苦笑いしか浮かべられない。
「まぁいいわ。どうせ明日は自由だし。この班も今日限りだしね」
「う、うん……」
遥はまだ苦笑いのままだ。そりゃあ、気になる彼がいるのだから、忘れたくてもなかなか忘れられないだろう。これが以外と難しいものだ。
――そして、それからしばらく、遥たちは昼食を食べ終わり残った食器なんかをきれいにまとめて扉の近くにおいておく。主には遥が。
「あんた随分きれいにやるわね……」
「うん、家とかでよくこういうことするから」
その言葉に、普通に感心する一同。だが、彼女たちは知らない、遥の言う家というのが、主に優の家であるということを――。
「……あたしも頑張ってみようかな……」
ツカサが明後日の方向を向いてボソッと呟いた。
「え? なにかいった?」
「い、いや、なんでも」
そんな彼女に声をかけた遥にたいし、ツカサはまさか聞こえるなんてというような視線を送る。
「そうなんだ」
それに気づかない遥は、にっこりと笑顔を浮かべる。なんなのだろうか、遥のこれが天然だとしたら、なかなかに恐ろしい。
(このこの前で変なこと言えないな……)
内心で固唾を飲むツカサ。
「さ、さて、そろそろ行かない?」
「うん、そうだね」
「そうだぬ〜」
なんとも言えない微妙な雰囲気になったところで、ツカサの提案で自然観照の集合に向かうことにした。
すこし早くはあるが、まぁ遅れるよりはましだろう。
1人ずつ扉を出ていく。こちらの鍵係りはツカサと言うことで、最後に彼女が出て鍵をかける。電子ロックのため、鍵となるものをかざすだけだが。
「さすがに騒がしいわね……」
「そ、そうだね」
廊下の両サイド、つまりは左右に並ぶ部屋からは、絶え間なく話し声やら笑い声が響いてくる。
これは結構鬱陶しい。
それを足早に抜けていき、廊下端の階段にたどり着く。
そしてそこでばったりすれ違ったのが、優たちだった。
「あ、偶然だね。そっちねも今からロビー行くの?」
「ああ、しばらく前に昼食食べ終わって、暇だったからね」
「へぇー、こっちもだよぉ」
いつもの調子でいち早く彼らに声を掛けたのはツカサだ。
「でも、時間もあるし、丁度同じグループの人も結構揃ってるし、少し話しながら歩かない? ね、遥?」
「え!?」
ツカサが遥の肩にぽんと手を置く。
いきなり話を振られて足を止め戸惑う遥。どぎまぎしていて実に滑稽なのだが、ずっと眺めているのはきつそうだ。この状況に苦笑いしか優は浮かべられない。
「えーと、その、あ、じゃあ、確かガイドの人が1人いるはずだけどどんな人かな、なんて」
じゃあって……という雰囲気に1度包まれる。そんな空気に遥も参ってしまったようで、もはや泣きそうになる始末。無言の苦笑いに包まれるのは新手の拷問だな。
なんとか話題を挙げたのはいいが、これはきつい。
「ま、まぁ、確かにどんな人かは気になるよね」
あはははと、やはり苦笑いでツカサがフォローに入る。
「あでも、ガイドって正直いても足手まといだと思うんだ。きっとこの環境にも慣れているとは思うんだけど、それでもきっと戦闘になったら戦ってくれないでしょ? 戦ってくれるんなら、こんなグループ構成にしなくてもいいはずだしさ。だから、あたし絶対足手まといだと思うんだよね」
「お、おぅ」
もう1度なんとも言えない空気になる。なんだか随分とひどいことを言っているようだが、それがどこか正論のように思えて何も言えないのだ。これは苦笑いも浮かべられない。
現在は1階階段上。ロビーまではあとわずかだ。
とことこと歩いてい行く。
グループごとに位置につき、並び、結局、それからまた会話が生まれることはなかった。




