◇10-3◇
宿泊施設。自然地区だからか、最近建てられたにしては電磁機械があまり組み込まれてなく、せいぜいそれも扉のロックくらいのものだった。いや、これなら前の時代にもある程度出来上がったものがあったから、実質ないのかもしれない。
全体的には石材をベースに木材で補強しているといった感じで、内装はとても和風だった。旅館といってしまっても差支えがない程度に。若干洋風な外装に対してこの内装は、違和感を覚えざるを得ない。なかなかに不思議な感覚だ。
生徒が泊まるのは4階建てのうち主に男子が2階女子が3階となっていて、特に不思議なことはない。
1つの部屋には生徒が6人ではいる事になっていて、優たちの班だけ人数の関係上5人となっている。メンバーとしては、優、幸一、田中、そしておまけの加賀見と磯島だ。幸一以外はある程度落ち着いた雰囲気を持っているので、優も少しはリラックスできそうだ。田中にいたっては逆に落ち着きすぎていて怖いときはあるが……。
とにかく、そこそこ楽しい合宿ができそうな雰囲気ではあったのだ。
「さぁて、さっさと荷物置いてロビーに行こうぜ?」
「ああ、そうだな。まずは第1点呼だっけか」
「そうそう、予定じゃもうすぐだからな」
何故だかやれやれという表情で言う孝一。きっとその行動は秒刻みで表記されたしおりのことを指しているのだろうが、そんなこと普通じゃないかと優は思う。……いや、実際は秒刻みなんていきなり言われたら普通なら孝一のような反応になるわけで、この場合は優のほうが例外かも知れない。
それでも、とりあえず部屋に荷物をおいてから点呼だなんて、普通にあるだろうに、いったい何を孝一は騒いでいるのだろうか。
「いつもならこの時間に放送している番組が見れそうだったのになー」
おい。
これはもう突っ込みざるを得ない。たしかに部屋にはテレビこそあるが(電波は届いてるのだろうか)、あくまでそれは休憩用であってただ好きなときに見れるわけではない。
ため息をつかざるを得ない優である。
「いいから行くぞ」
優は最後の孝一の腕を引っ張り、部屋の鍵を閉めた。
――1階の入り口前にあるロビーには鹿威しがあり、音を介して四方八方から和を感じさせる。
ちょろちょろと水の流れる音も耳に響き、場を落ち着かせる。
「それではこれより、合宿を始めます。親睦を深めることと、実力を図ることが今回の目的であり、これはどの生徒にも当てはまります」
「普通科は適応力を、芸術科は想像力を、電磁科は実戦力を磨いてください」
それからまたしばらく、司会の話が続き、結果点呼から20分が経つ。
ようやく終わった開会式っぽいもの。現在時刻は午後1時。予定では、あと約30分後には昼食である。
しおりによれば、1日目の予定はグループごとの自然観照らしい。これは余談だが、担任である大文字が合宿の事を言うのが遅かったため優たちがしおりを手に取ったのもまた遅く、優はまだその全てを把握し切れていない。
そのうえ、まるで当たり前のようにグループは決められており、別にしっかりしろというわけではないが(もうすでに諦めているが)、せめてもう少しまともな指示を出してもいいと優は思う。
(投げ出しかよ……)
だろうな、としかいえない現状が怖い。まったく勘弁してもらいたい。そして優は本日何回目かもうわからないため息をそっと吐いた。
グループは各科合同で組まれており、1つのグループには必ず電磁科の生徒がいる形になっている。これは自然地区といっても電獣の出現率は壁内に比べ高いために取られる形で、教員が少ないのをカバーするための策だ。
30分後の昼食まではフリータイムになっていて、各自自室にて昼食の到着を待てとのこと。てっきり食事係でもあるのかと思いきやそうでも、その辺りの仕事は全て施設の人がやってくれるそうだ。なんだか申し訳なくなる。
「なあなあ、今日の昼食なんだと思う?」
孝一が声をかけた。どうしようもない沈黙の時こそ、こういうタイプの人間は役立つ。
「そうですね。やっぱ旅館といえばお鍋とかじゃないですかね?」
加賀美が応答した。すこし高めの声に敬語で、若干の個性を感じる。
「俺はどうでも……」
例のごとく無表情を決め込む田仲。これはこれでずいぶんと個性的だ。
「俺はそうだな、昼食なら無難にカレーライスとかでいいんだけどな」
今度は優が答える。
「お前それ予想じゃなくて希望じゃんかよ」
ハハハと軽快な笑いで孝一が返した。
そしてまた、優が「そうだな」と笑って返す。
中学の頃まではなかった温度が、そこには確かにあった。そしてそれが、とても微笑ましかった。




