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学園の神鳴り殺し  作者: 片岡 雅
-梅雨の修行旅:合宿編-
85/110

◇10-1◇

 出席確認の点呼は、実に単純なものだった。ただたんに、出席番号順に名前を読んでいくだけ。なのになぜか、その点呼はかなりの信用を得ていた。――なぜなら点呼をとっていたのが担任ではないから。

 さてそんな当たり前の話をするのはやめにして、さっさと話に移るとしようか。

 普通科から電磁科すべてあわせて1年生総勢360名。さすがにはじめの遠出だからか、欠席はあっても遅刻はいなかった。これは喜ばしいものだろう、変に遅れられても困るだけだ。

 と、ここまでは割りといい。普通の学校生活だ。日常的な風景だ。

 だが、その2つであることに変わりはないのだが、優はバスのとなりの席に孝一がいるのが、なんとも言えなかった。

 別に彼のことが嫌いな訳じゃない。まぁ好きでもないが、それでも友人レベルだ。……しかし、彼はたまに、というか頻繁にふざけたことを言う。こればかりは毎度勘弁してもらいたいものだ。


「なぁ神田、俺さ、トランプ持ってきたんだけどさ、この辺でやらない?」


 確かに、昔はこのような遠出の際はよくバスのなかでトランプをしたなんてことを、優は聞いたことがある。


「……いいよ。やろうか」


 優は久しぶりに回りに微笑みを見せた気がする。だがこれは自然と出てきたもので、仕方ない。


――――…………。


 あれ?

 ふと見れば、そこにはジョーカー♪


(――じゃねー!! なにこれデジャブ? オカシイナーさっきもこんな景色を見たような)


 もうこんな状況じゃ無理にでも苦笑いを浮かべることしかできそうにない。

 何周かしてようやくなくなってくれたはずのジョーカーが、また優の手元にやって来たのだ。これは運がないなんてレベルではない。

 目の前で繰り広げられる惨状に、孝一たちも苦笑いを浮かべていることしかできない。

 さて、いったいどうしたことか。


「なぁ、いい加減にゲーム変えない?」


 ふらふらとした優の提案に、同情した一同。結果種目を変えてババ抜きから大富豪になった、のだが……


(アレー、ナニコレデジャブ?)


 もう言葉も出てこない。

 心なしか回りからの視線に哀れみのようなものが混じっていた。

 もう本当、穴があったら入りたい。

 そんなことを思いながら、優は手札ごと体を倒した。


「すみません勝てる気がしません」


「アハハハ……ハ……」


 行きのバスのなかで精神を削っていては、世話ないだろう。

挿絵(By みてみん)

 気が付けば、すでに地区外に出たようで、ふと見ると外の景色が一変していた。

 バスのなかでは皆感嘆の声を上げている。8年前に破壊され、5年前に切り捨てられた外の世界。酷く荒廃しきっているはずなのに、どこか美しく、そして豊かなのだ。それにきっと懐かしいという感情もあっただろう。テレビなんかの映像で見ることがあっても、実物の自然を見るのは、実に8年ぶりになるのだから。

 組織に入り、よく地区外に出る機会があった優からしてみれば、1カ月ぶりの外なんてなにも感じるものはない。

 だが、そんなとき思ってしまう。


(……子供のままでいられるのは、良いことだよな)


 少し羨ましく思う。もし優がごく普通の高校生だったら、きっと彼らと同じような感情を抱くのだろう。

 それができない彼は、少し可哀想だ。


(まぁ、そんなこと言っても何も変らないんだけどね)


 彼はまたいつものように納得してみる。だが、やっぱり少し、心が痛む。


――いつだったろうか、彼が『普通』という通路から足を踏み外したのは。自ら足を前に出したとはいえ、やはりきっかけとしてはあの災害の所為だろう。……そう、すべてはあそこから始まったのだ。

 あの時間さえなかったものならば、きっといまの景色もまったく違うものだったろう。だけど、これこそありえない、いったってしょうがない事だ。

 だが、きっと他のみなも時々そんなことを思うのだろうか。優はそういう、自分とは違う生き方をした人間の意見も少し気になった。

 今度聞いてみることにしよう。


 ふと、隣の幸一に肩をたたかれた。なんだろうかと思い振り向く優。


「神田さ、そういえば前にこっちには越してきたっ的なこと言ってたけど、どっからきたの?」


「え? ……えっと、清水町、かな?」


 優は少し困った顔で答えた。この回答は少しばかりリスクを伴う。なにせ、タイミング的に考えてみれば優が神鳴り殺しだとばれるかもしれないのに、しばらく前まで滞在していた土地さえ知られて、そこの状況まで知られれば、簡単に推測される。なのに、優はついつい答えてしまった。合宿ということで少し気が抜けていたのか……。


「ほぉ、結構遠いな。やっぱり、この学校に入るために来たのか?」


「ま、まぁ。一応は」


「なんだ、変な反応だな。あぁまぁそれはいつものことか」


「おい?」


「じょ、冗談だって、んな怖い顔すんなよー」


 まったくふざけたヤツだ。きっとこいつに先ほどの質問をするとしたらそれは見当違いだろう。そう優は呆れて思う。


「まったく……」


「ははは……」


 こんな状況が少し面倒になってきた優。だが、バスの中、その中だけでも、『普通』の高校生でいられる。それは、彼にとって少しだけど、幸福なものだった。


 どうせなら、ここらで普通の高校生(?)らしく、フラグというものを立てておこう。それはどのようなものか、分かったものではないが。なにより、彼には分かる由もないのだが。

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