◇9-10◇
翌日5月13日金曜日。
思えば、気が付けばもう合宿だ。と言っても差し支えないような準備期間だった。
知らせを受けてからの2日間はあっと言う間に過ぎ去ってしまった。実際にこの2日間で優が何度あっと言うような機会にであったかわからない。まったく勘弁してもらいたいものだ。こんな台詞も、幾度使ったものか……。
「あーくそ、眠いなぁ」
ほぼ半開き状態の瞼を右手で擦りながら、私服姿の優は学校を目指していた。私服と言っても、優の場合はただベストを脱いだだけなのだが。
時刻にして7時ジャスト。集合が7時30分と設定されているため、サトシとの会話のためやむを得なくこんな時間に家を出たのだ。
遥の家によるついでに千尋に話を――というのでもよかったのだが、しかしそれではきっと彼女に要らぬ心配をかけてしまうだろう。優はそれは避けるべきだと判断したのだ。
「それでこの状態じゃ世話ないよな」
誰に言うわけでもなく、自分に言う。別にこれは彼がボッチだとかそういう話で、ただたんに嫌気が指して自分に嫌みを言っただけだ。決しておかしな意味ではない。
しかし本当に、人の心配してこの状態では世話がない。
すでに校門の前についているとは言っても、それが閉まっているのだから。
「これは、入っても別にいいよな……」
いや、入る。うん、考えるだけ無駄だろう。
これは自暴自棄とでも言うのだろうか、優はその眠気のあまり考える事を止め、強硬手段にでた。正門から少しはなれたところのフェンスを飛び越えて、そのまま校内へと侵入したのだ。普通の人間なら通れるはずのなら高さでも、優なら難なく飛び越えられてしまうのだから仕方ない。
「よし、アイツの部屋は確か4階か」
実際全然よくないのだが、今の優にはそんなことどうでもいい事だ。
とりあえず適当な茂みに身を隠し、そのまま質量変化のコアを使って屋上までひとっとび。そこから今度は電磁弾で電子ロックの強制解除し、校舎内へと進入した。
よい子は真似してはいけない犯罪進入方法だ。
「ふぁ~」
仕事(?)がひと段落した所為か、1つ大きな欠伸がでる。無意識のうちに口元に手をやり、目元に雫が溜まった。
優は目元をシャツの裾でこすりながら、目的の部屋――公務室である402号室へと向かう。
「やっと着いたか」
家をでてからはや20分弱。なにやら微妙な時間になってしまった。早急に話を済ませなければならないだろう。
優は施錠された扉を例の如く電磁弾で無理やりこじ開けると、速攻で仲へと進入し適当に機械に電源を入れはじめた。3つ目くらいになるだろうか、それの電源を入れるとゴウゴウとモーター音が聞こえ始め、その音は次第にチャイムの音へと変わって行った。優はその機械の、呼び出しと書かれた赤いボタンを押していたのだ。それはまさに目的のボタンで、今まさにサトシを呼び出しているといった状態だ。
それからしばらくして、チャイムの音が切れる。それと共に、部屋のそこらに置かれたスピーカーのような装置から、サトシの姿をかたどる高感度立体映像が映写される。
『ああ、なんだ神田君か。なんだいこんな時間に珍しいね。君はまだ夢のせかいで楽しんでいるものだとおもっていたよ』
なんとも嫌味な言い方をしてくる人物こそまさに吉田サトシだ。
「……そうですね。物凄く寝ていたいです。でも、今日からこっちは合宿でしてね、朝が早いんですよ」
同じく嫌味な口調で返答する優。だがその中には明らかに眠そうなものがあり、逆になんとも間抜けなものになっていた。
『そうかい。――でも、ただおしゃべりをするためにココに来たんじゃないんだろ? 君はあまり僕と話すのが好きじゃないみたいだからね』
「そういうことを自分でいうもんじゃありませんよ」
『ははは。そうだね、自虐ネタは控えようかな。――それで、なにが訊きたいんだい?』
ようやく本題。といっても残り時間はもう5分と少ししかないのだから、もうここらで本題に移ってもらわないと困るか。
「実は、先日またなにものかが攻撃してきたんですが、取り逃してしまいましてね」
『ほう。君が、珍しいね』
「まぁもったいぶらずに言ってしまうと、何者かに攻撃を阻害されましてね。……単刀直入に訊きます。電磁波を一瞬にしてかき消すような能力を持った人間を、知っていますか?」
『それは、ジャミングじゃなくて?』
「いえ、ジャミングだったら電磁弾を撃つ前に阻害されます。阻害されたの着弾寸前のときですよ」
『なるほど……』
立体映像のサトシはいかにも考えている顔になって、顎に手を添えた。
『それはきっと、中止能力者だね』
「中止能力者?」
『そうだよ。最近噂になっていてね、なんでも、君と同様にして特殊な体質――これはもう能力といってしまったほうがいいかな、を、持っていてね、どうやらとある組織のトップにいるみたいなんだよ』
「とある組織?」
『そう。これは君もよく知っている組織だ』
「……影鴉、ですか」
『そうだ』
なるほど、それならあのときのことも説明できる。ただたんに、自分の部下を回収して行ったのだ。おそらくあのときの黒い光も、何かしらのエネルギー衝突による発光現象と捉えるのが一番か。
「なるほど、わかりました。ありがとうございます、そっちはまだ日も昇ってないでしょうに」
『いや、いいさ。コレもサポーターの仕事だ』
「はい。それでは」
『うむ、合宿楽しんでおいで――』
ぷつり。
高感度立体映像は動くを止めゆらゆらと歪んでいき、そして崩れ去った。いくつかある機会の電源は外部から自動的に切られており、それで消えたのだ。どうかんがえてもサトシの仕業だから、変に調べる必要もないだろう。
さて、時刻は7時26分。
もうじき出席確認が始まる。




