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学園の神鳴り殺し  作者: 片岡 雅
-梅雨の修行旅:合宿編-
83/110

◇9-9◇

 太陽はすでに真上を通り過ぎて西へと傾いていた。空の色こそまだ明るいが、それでもじき茜色に包まれていくのだろう。

 交差点に立つ大時計を見ると、時針は5の数字に被っていた。


「さて、これから買い物か……」


 放課後、通学路途中の商店街。

 優はそこへ遥にツカサ、涼子と共に合宿のための荷物を買いに来ていた。

 しかし一体なぜこのような組み合わせになっているのか。今朝方は涼子に花束を届けはしたが、その後に会うようなことはまったくなかったはずだ。ツカサこそ、最近はいつも気だるそうにしていてなかなか自分から動こうとする様子はなかった。……遥の場合は、言うまでもなかろう。

 まったくおかしなこともあるものだ。優には皆目検討つかないが。


「なぁ、なんでみんな集まってるんだっけ?」


 少しばかり呆れた口調で、何となく言ってみる。

 そしてそれに始めに答えたのは涼子だった。


「ばったり会ったからに決まってるじゃない」


 いや、会ってもそのまま同行って言うのはおかしくないか?

 優は即行でそんなことを考えるが、おそらく口にしてしまえば面倒は免れないだろう。だからあえて、心のうちにしまっておく。


「そ、そうか」


 このままの流れで話をつないでも、墓穴を掘るだけだろう。優はここで会話を止め、話題の転換を試みる。


「ところで、俺はいったいどんなものを買えばいいのかな?」


 わざとらしく視線を明後日の方向に向けて、訊いてみた。誰にというわけではなく、基本的に全員にだ。

 そして次に我先にと答えたのは、ツカサだった。


「とりあえずないものから買うべきじゃない? 服はあるだろうしバッグもあるだろうし……あっ、じゃあレジャーシートとかそういう感じの小物とかはどう?」


「あー。確かにそれは持ってきてないかな」


 以外に普通な案を出したツカサに失礼ながら驚きつつ、優はまた明後日の方向に向く。

 まだこの土見ヶ丘に来て日が浅い優は、必要最低限の物資があるだけで細かい道具など持ち合わせておらず、それらはすべて現地で調達するしかないのだ。

 さて、目的も何となく決まったところで、さっさと商品を探すことにしよう。

 優は遥たちにつれられて、どんどん商店街の奥へと進んでいった。食器屋からぬいぐるみ屋まで、細かい区分けで様々だった。

 途中で遥がネズミのぬいぐるみを購入した話は……する必要はないか。


「――それにしても、こんなに色々あるのに、キャンプ用品店だけないとか……そんなのありかよ……」


 そう。もうすでに空は茜を通り越してすみれ色に染まるというのに、いまだに屋台は見つからない。奥に進むにつれ屋根がついている商店街。電気がついているにも関わらず、どこか薄暗く不気味な雰囲気を醸し出していた。


「おかしいわねぇ……、キャンプ用品店ならもっと手前にあるはずだったんだけどなぁ」


「あんたに賛成するのは癪だけど、私もそう思うわ」


 何かがおかしい……らしい。ツカサや涼子が言うには、店はもっと前にあるはずだそうだ。なのにそれがひとつもない、確かにそれはおかしい。


(なにかあるな……)


 これは少し周囲を警戒する必要がありそうだ。

 優はおかしく見えないよう、軽く辺りを見回す。

 優は基本的に常時ELLエレクトリックルックレンズをつけているから、なにか電磁的な力があれば視覚的にとらえることができるのだ。まぁ、彼の場合はそれがなくとも感知できるのだが、ある意味では保険といった感じだ。


(さて、どうかな……)


 いまの所、電磁的なエネルギーは感じ取れていない。普通に考えれば敵はいないのだろうが、しかし、以前には感知する事のできなかった電磁波もあった。もしかしたらということもあり得る。

 優1人でのときなら大した問題でもないのだが、今は他にも人がいる。とくに、優の正体を知らないツカサまでいるのだから尚更だ。

 右、左――と、いくつかの方向を確認する。

 すると優が辺りを確認していることに気付き、遥も辺りを見回し始めた。そして、


「優くん……」


 何かを見つけたのか、遥が優に目配せをした。

 場所は後方の建物の屋上。位置からして狙撃でもする気だろうか……。だが、向こう側が何も仕掛けてこない限り、こちらとしても下手に手を出すわけにはいかない。


(念のため、風障壁を展開しておくか)


 ポケットから半透明のキューブ――コアを取り出すと、優はグローブをはめた右手で強く握り締めた。効果は風による障壁の生成、実弾を打たれた場合の対策だ。基本的に使用者意外にはその障壁を認識することはできないから他人に不審におもわれる事もないし、敵からの攻撃も誘うことができるはずだ。

 優は遥に目配せを返してから、再び普通に歩き出す。

 何気ない会話を挟みながら、時折背後を確認する。――そして、敵と優との一直線上になにも障害物がなくなったときだ。障壁を認識している優の耳に、鈍い重低音が届いた。これは紛れもない銃声だ。


「――!!」


 建物屋上から撃ち放たれた銃弾は風の障壁のなかで減速し、そして優のすぐ前まで到達する。優は音を耳にした瞬間から背後に振り向き、そして銃を構える。


(悪いなツカサ)


 ツカサにはこの情景を見られては不味いため、風の障壁を利用して砂埃を起こし、彼女の視界を埋める。これで下準備は完了だ。

――バンッ!

 まずは1発目。質量を持たない電磁の弾で実弾を弾く。というよりは、エネルギーでしりぞける、だろうか。弾かれた弾丸は、地面へとおち、どこかへと転がって行く。

 一呼吸遅れて弾丸に気付いた遥は、その光景に絶句した。彼はここまでできるのか、と。だがそれも無理もないことだ。なにせ実弾を電磁のエネルギーではじくなど、相当の命中精度で中心にぶつけない限りありえないことなのだから。


「遥、涼子とツカサと下がっていてくれ」


「うん」


 そして、


「さぁ、始めようか……」


 今頃優は完全に悪い顔になっている事だろう。まぁ誰に見られるわけでもないから気にはしないが。なるほどこういうところできっと彼は性格が悪いのだろう。

 優は銃口をそっと敵方へと向け、引き金を引いた。こちらもまた重低音を響かせ、弾を放つ。しかしこちらの弾は鉛玉ではなく、凝縮された電磁波の弾だ。触れれば体が痺れて麻痺する事だろう。


(これで後は、確保するだけかな)


 屋上のほうを眺めながら優は銃をベストの内側にしまう。


――刹那、パチンと言う音と共に、屋上の辺りが黒く発光した。それはどこか歪んだものを感じるもので、エスコード電磁波の衝突時――電磁弾の着弾時などに見える緑色の光とは正反対のものだった。

 あまりに突然の出来事で、なにが起きたのかということを頭のなかで処理する事すらできない。いや、たとえできたとしても、きっと答えを導き出すことは難しいだろう。なにせ、優はこんな光景を目にしたことも耳にしたこともなかったのだから。

 それから数秒たつと、謎の黒光は綺麗さっぱり無くなり、また、屋上にいたはずの人影もなくなっていた。


(いったい、アレはなんだったんだ……)


 それからはもう、なにも起ころうとはしない。

 風の障壁はいつの間にかなくなっていて、遥はツカサの目を洗うのを手伝い、涼子は優の元まで駆け寄ってきた。


「なんかあったの?」


 しかし優は答えない。というより、涼子の声が聞こえていないのかもしれない。


「ちょっと、神田優!」


「え、あ、いや別に、なんでもない」


「そう……ならいいけど。む、無理はしないでよね……」


「あ、ああ。わかった、ありがとう」


「う、うん」


 これはきっと涼子のほうが相当無理をしている事だろうが、おそらく優はそんなこと気付いてすらいないことだろう。そんなことよりも今までに起きた現象のほうが重大だ。

 今度サトシか千尋に聞いてみる必要があるだろう。ただ、明日から合宿ということを考えると、時間もそうない。明日は朝が早くなりそうだ。そう考えると、今から眠くなってきそうだ。


「あ、レジャーシート見つけたよ!」


 遥の嬉しそうな声が聞こえてきたのは、それからすぐのことだった。

 右手に青いレジャーシートを握って手を振る彼女に、優は手を振り返す。涼子と共に彼女のもとへ向かうと、会計を済ませた。余談だが、レジャーシート1つ2100円だった。なんとなく高い気がするが、まぁどうせ経費として支払えばいいのだから問題はないだろう。

 翌日金曜日から、いつの間にか訪れる合宿。これはこれで突然すぎてあまり準備できていないが、その辺は貸してもらうもしくは現地調達ということで我慢だ。


(また、何か起こりそうだな……)


 そうとわかっていて合宿に参加しては何かしらの被害がでるかも分からない。しかし、敵の狙いが分からない以上、遥たちと離れることは避けたほうがいいだろう。

 結論としては、合宿に参加する事になるわけだ。

 生徒会長とは、妹を守ると約束した。それを守るためにも、この結論は必要だ。


(合宿は3日間だったかな)


 まったく、先が思いやられる。

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