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学園の神鳴り殺し  作者: 片岡 雅
-梅雨の修行旅:合宿編-
80/110

◇9-6◇

 疲れたと言わんばかりの顔で、優はため息を吐いた。遥と共に一仕事終え、現在は帰路をゆっくりと歩行中である。

 彼女の、少しゆっくり話したい、という要望でこういう手段を使っているのだが、なかなか、会話に繋がらない。壁付近から家まで歩きというのはいささか辛いため、途中までは飛んで移動したのだが……その所為か、優はどっと来る疲労感にフラフラしていた。修行なんかは積んでいるのだが、それでも基本的にコアの使用を制限されている所為か、いきなり複数回使用するとなるとさすがに辛い。

 そしてそんな彼の様子を後から苦笑いでついている遥。

 これでは会話というのは難しいだろう。

 しばらく前に1度話すことはできたのだが、思いのほかすぐに会話が終了してしまい、それからはずっとだんまりという感じだ。


「あのね優くん、今日私のお姉ちゃんが久しぶりに帰ってくるんだ!」


「ほぉ、そうなのか。って、それを俺に言ってどうしろと?」


「だって、今日は優くんにうちに来てもらおうと思ってるから!」


「…………」



 とまぁこんな感じで、なぜだかぷっつりと会話が途切れてしまったのだ。これは本当に遥には理解できず、ここからの困惑も、彼女の苦笑いには含まれていたりする。

 さて、話は帰路に戻る。

 現在はすでに桜並木坂ふもとの交差点まで来ている。遥の家までは少しのんびり歩いたペースで時間にして約10分程度。遥は刻々と近づくその時に胸を躍らせていた。(それに打って変わって、優は刻々と近づく処刑タイムに顔が若干引きつっていた。)

 2人の歩みに少しずつ差が生まれ始める。

 優が先頭ですこし間が開いて遥、という形で歩いていたはずなのだが、いつの間にか遥は優の隣で歩いていた。これはけして遥が優の隣に意図的に行ったわけではなく、優の速度低下に伴い遥が優に追いついたのだ。


――と、ここでようやく会話。


「……なぁ遥、俺は本当にお前に家に行くのか? こんな事を言うのはどうかと思うが、正直言って俺はお前の母親が苦手なんだ」


「そっか。じゃあ諦めるよ」


 遥は笑顔でそう言って…………――――



 なんて都合のいい展開にはなる筈も無く、実際の会話は、


「……なぁ遥、……お、お前のお姉さんって、どんな人かな、なんて……」


 本当は彼女の家に行きたくないといいたい優だが、さすがにそこまでは言えない。となれば、まずは極僅かな安全確保だ。

 彼女の母親についてはもう諦める。ならば、彼女の姉ならどうだ? これでもし姉のほうも母親みたいな脳みそしてたら……優は耐える自信がない。


「そうだな……強い人だよ? お姉ちゃん違う地区で働いてて、たしか、えっと、結構すごい仕事だったような……」



「ふぅん。それでさ、問題なのは性格(・・)なわけなんだが」


「性格かぁ。うぅん、たまに怒るけど、優しいお姉ちゃんだよ?」


「なるほど……」


 少し心配だが、優の考えすぎということもある。きっと何も起こりはしないだろう。最悪、何かしらの理由をつけて帰るという手段をとれば問題は無いはずだ。

 …………。

 ここで優の頭のなかで何かが引っかかる。


(あれ? そういえば先輩で確か……。まぁ、気の所為だよな……)



――――――。


「あ゛……」


 それから数刻、唖然とした表情で優は立ち尽くしていた。

 結果から言ってしまうと、優の悪い予感が的中したのだ。

 彼の前にたつ遥の姉/相沢千尋あいさわちひろ。彼女は、優の指導を手伝っていた彼の先輩だったのだ。


挿絵(By みてみん)



 さて、という形で、明らかに歓迎しているわけではない顔の先輩。

 その先輩の部屋にて、現在絶賛説教中だ。途中途中身に覚えのないことまで混じっているが、それをいちいち指摘していたら身がもたない。


「――第一、なんであんたは思いっきりばれてんのよ! 民間人まで巻き込んで! いくら神桜高校だとしても、いくら敵の責任でも、それを阻止するのがあんたの役目でしょ!!」


 なんかもう、色々間違っている。偉そうにふんぞりがえっているが、実際に神鳴り殺しと民間人との交流はNGではないし、神鳴り殺しは電獣を倒す組織であって、民間人を犯罪から守る組織ではない。

 まぁその辺りは人によって考えは違うが、それでも現在の状況はあまりにも理不尽だ。

 まったくどうしてこんなことになってしまったのか。防音効果まで発動させられて。ただでさえヘロヘロだというのに。


(第一だ、いるなら俺より先に電獣の処理くらいしてくれてもいいだろうに。先輩ならいいところ見せるとかしろよな)


 こんな具合で、口には出さない優の内心裏事情は疲労の所為か展開していた。

 基本的に顔にはなんの表情もださずポーカーフェイスを決め込んでいるので、相沢姉は気づくよしもないのだが……。


――コンコン。

 その時、扉をノックする音が響いた。

 優の発動させている防音効果の所為で音となる空気振動は、外からうちへの一方通行のみ。呼ぶ声からして遥だとわかるのだが、優たちが返事をしても彼女に聞こえることはない。


「招き入れますがいいですか?」


 コアを握った右手を軽く見せつけるようにあげ、優は千尋に訪ねた。


「いや、遥は部外者だ。そういうわけには――」


 と千尋がここまで言ったところで、優は俯きながら彼女の言葉を左手で制した。


「……あのですね、実は妹さん、俺のこと知ってるんです」


「当たり前だろ。実際ここに来ているわけだし」


「いやそうじゃなくて……俺の正体を知ってるんです」


 沈黙。

 優は嫌な汗をかき、千尋は状況理解が追い付かずポカンとしていた。

 そして、


「はああぁぁぁ?!」


 これである。

 ちいさな机に思いきり手を叩きつけ立ち上がった千尋に、優は少しばかり後ずさる。


「なんで! あんたがこんな短期間でばれるとは思えないんだけど?」


「いや、その……遥がレスビアンカを髪に飾ってましてね……」


 そこまでいうと、千尋はしまったと言わんばかりの顔になり、目を泳がせた。


「あ、あれ? 先輩?」


「あー、その、あの花は私が植えたのよ。絶対に見つからないと思ったんだけど、まさか見つけるとは……」


 レスビアンカは使い方によっては電獣を避ける結界のような役割を果たす。

 おそらくは千尋もそれを狙っていたのだろうが、どうやら遥の手によって失敗に終わりそうだ。


「あ、でも、最近はサポートもしてもらってるし、わるいことばかりじゃないですよ?」


 自分のミスに、顔に影を落としている千尋に、優は軽くフォローをいれる。


「そ、そうなの?」


 若干涙目で顔を上げる千尋。その表情は色々な意味で破壊力抜群だ。


「はいっ。実際、つい先程の電獣も、遥のおかげで早急に対処できました」


 さすがに優もこればかりは全力でフォローする。

 そしてここで忘れられているが、遥は扉の外で現在もスタンバイ中だ。なにせ一方通行なだけに、内側の声は聞こえていない。

 それに気づかない2人もどうかと思うが――。


「そう。それはよかったわ。……って、電獣? 出現したの?」

――――え?

 千尋の思わぬ台詞に、優は一瞬硬直した。


「いや、さっきかなりでかい波が来ましたよね? 遥ですら気づきましたよ?」


 優の言葉に今度は千尋が硬直する。

 それもそのはず、切欠は違えど千尋は優と同じように適正を持っている。にもかかわらず、気付かないわけがないのだ。


「おかしいわね……。神田くん、最近なにか変わったことはあった?」


 最近――――変わったことなど1つしかない。

 謎だらけの組織、影鴉(レイヴン)だ。


「ありました。学園に干渉してきたので一応は俺が対処しましたが、まだ完全に尻尾をつかめていない組織が1つ」


 4月にあった新入生歓迎会にて現れ、実力テストを操作して生徒に被害を与えた。首謀者は自害し情報は得られず、それからなんの進展もないのだ。


「そうなの……。もしかしたらその組織、まだなにかしてくるかもしれないわね。――でも、たしかあなたたちは週末から合宿よね? こっちの件は私が調べておくわ」


「は、はぁ、ありがとうございます」


 気の抜けた返事はいったいなんの所為か、おそらくは千尋が合宿のことを知っていた所為か、あまりにさっぱりしていた所為だろう。


「ただし、遥のことは、あなたがなにがなんでも守り抜きなさい! 火をあびようが、水に沈もうが、木に潰されようが何があってもよ!」


「は、はい」


 どんどう詰め寄る千尋に、優は気付けば天井を見上げていた。


――そしてようやく、


「あ、遥のこと忘れてた」


「あっ!」


 いつからか忘れてしまっていた人物を思いだし、2人は声をあげて立ち上がった。

 そしてその拍子にお互いの頭をぶつけ、再び倒れる。さらにさらにその拍子に、優の右手からコアが転げ落ち空気の障壁が強制的に消滅し、そこから来る微量の電磁波が、部屋のロックを解除した。

 倒れて仰向けになった優に、彼を押し倒したような形で千尋がまたがっている。

 そしてゆっくりと開かれる運命の扉。

 その光景を見た遥は目を丸くして、絶句した。


 それからまた遥の長い長い説教が始まり、緊迫した環境が一転、いつもの日常的な空気に変わっていった。

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