◇9-4◇
いま学校中に鳴り響くのは、本日9回目となる予鈴だ。4時限目の終わりを告げるその鐘は、目覚ましのごとく体育で疲れ授業2時間で疲れダウンしていた幾多の生徒の意識を、現実に引き戻した。
「起立、礼!」
そのお決まりの合図と共に、生徒が声を揃えて挨拶を放った。
「「ありがとうございました!」」
軽く手をあげて笑顔をつくり、英語の先生は教室を出ていく。
そして残された生徒たちだが、まだこのあとに学活が残されていて下校はできないため、担任が来るのを待つばかりである。
「あー、今日も1日終わったなー」
遥の机にぐったりしながら、ツカサがぼやいた。
「おいおいなに言ってんだよ。今日はこれからだぞ? なんせ、まだ午前中だからな」
優の机に手をつきながら、幸一がさらっと述べる。
そしてこの辺りで、優がとあることに気づく。
「あっ」
どうやら声の主、ツカサも思い出したようだ。
そう――そういえば彼女がまだ来ていないと。
だが、もうじき学活も始まるだろうし、さすがに来ないであろう……と、高を括っていたのが、そもそもの間違いだったのかもしれない。後々考えても、優には悩ましい状況だった。
廊下の向こうから、ノシノシとやってくる凉子の姿が見えたのだ。
(ヤバい!)
優は本能的にそう察知する。
ずかずかと教室に入ってくる涼子は、明らかに今朝のことできている。そのうえツカサもその事を意識しているようだ。
このままこの場所にいるのは、なにかと面倒だ。
(逃げるに限るな……)
帰りの学活をサボると言うことは少々しのばれるが、この際仕方ないと言えよう。
「アイタタタタ」
たいして周りに聞こえないほどの音量で、腹痛を訴えはじめる優。その演技に見事反応し、遥ツカサ、あとおまけに幸一の視線は彼に集まった。
「悪いけど、ちょっとお腹の調子がよくないから、保健室にいってくるよ。佐藤、付き添い頼んでもいいか?」
「あ、あぁ、オレは構わないけど……なんでオレ?」
突然の提案に戸惑っているのか、幸一は疑惑の表情で返した。
「いやぁ……うん。佐藤のほうが楽かなと思って」
なんとか答えを出すが、それでも優の目は完全に泳いでいる。それも仕方なかろう。いくら技術を持っていようとも所詮は子供、なれない状況には弱いのだ。
幸一はそんな彼の心情を察してか、なにも言わずにに頷いた。
「わかった。じゃあ、ちょっくら神田を送ってくるか。ほら行くぞ神田、途中色々と聞かせてもらうぜ?」
幸一はガラガラと音を当たり前のように発て椅子から立ち上がる。そして、あたしもと言わんばかりの顔で立ち上がったツカサを制した。
「送るのなんて1人で十分だと思うぜ? なにも起きやしないんだからオレだげで大丈夫だろ。井上はお客様の相手でもしてな」
お客様の部分に反応し、ツカサは廊下奥からやって来た涼子に気づく。
「ちぇっわかったわよ。勝負が終わんないのは嫌だけど、お腹痛いんじゃ仕方ないもんね。また今度にするわよ」
この瞬間優のからだがビクッと震えた。内心では、
(もう諦めてくれぇぇぇ!!)
と叫んでいる。
全く面倒な関係を築き上げてしまったようだ。本当に。
教室後ろ側の扉からでて、保健室へ向かうため幸一と優の2人は階段を下っていく。3階から1階へ、急ぐ気配もない。このままだと、幸一も学活に参加できないが、おそらくは彼自身分かっててやっているのだろう。大して気にすることでもないようだ。
「なぁ佐藤」
「なんだ?」
ポケッとした表情で幸一は素っ気無い台詞を返す。その様子に半ば呆れながらも、優は言葉をつなげた。
「俺は現状をどのように潜り抜けたらいいものだろうか……」
頭のうしろで腕を組みながら「おぉ」などとうなり声を上げる幸一。話を一応聞いてはいるが、聞き流しているといった感じだ。
「なぁ、俺は本気で困ってるんだよ」
「……はぁ。まったく、贅沢な悩みだこった。そんなのは人に聞くもんじゃないぜ? ――ほら、そろそろ保健室だ。この時間は担当の先生もいないからな。証拠というわけで休憩証だけもらってその辺ブラブラしてようぜ?」
幸一はまた随分と敵等で勝ってな提案を投げかけてきた。だが、優も2人から逃げえるがためだけにココまで来たわけだから、そうしてもさして問題はないだろう。ただ、教室棟の1階には昇降口もある。後々の事も考えるとこの階にいるのは少々面倒だろう。
「じゃあ、特科棟の屋上でも行くか?」
「んー……そうだなぁ。あっちなら屋上まで行くのに誰にも会わないかもしれないしなぁ」
変らずして素っ気無い。だが、幸一の適当なところはなおりそうにもないだろうな。
やはり優の周りでは、どうやら面倒な関係が築き上げられているようだ。




