◇8-10◇
それから何度か同じ作戦を繰り返したが、たったの3人ではどうにもやり切れそうになかった。もうじき、幸一と遥の銃の弾が切れてしまうのだ。望むなら舞台付近に固まっている他の生徒の力も借りたいところではあるが、どうにも優の言葉には耳を貸しそうになかった。
「――っ!」
突然優の体に激痛が走る。おそらく数刻前に七日を相手にしたときのダメージだろう。まさかこんなところで響いてくるとは、完全に予想外である。
あまりの衝撃にひざを着く優。すると、その後から、1つのホーネットモデルが攻撃を仕掛けてきた。背後への侵入を許してしまったのは、完全な優のミスだ。遥も幸一も突然の事に驚いていた。あまりに至近距離のため、これから銃を撃って阻止しようとしても間に合わない。
遥は幸一と違って優に電流が効かない事を知っているが、それも完全ではない。以前旧式電磁流兵器を受けた後、彼の体が思うように動いていない事を、遥も気付いていたのだ。だから知っている、彼にも相当なダメージがあることを。
遥には一体なぜ優がいきなりひざをついたのかは想像もできないが、それでもなんとなく優が疲労していることは分かった。
(間に合わない……!)
視線は優のほうをから離れず、左手は間に合わないと分かりながらもスライドを引いていた。
そして次の瞬間、遥の視界で赤い閃光がほとばしる。
(――なに?)
かたりと床に転がる壊れたキューブ。そこに、優の元にもうホーネットモデルの姿はなかった。そこにあったのは――休みなはずの七日の姿だった。
「わ、悪い。助かった。……来てくれたんだな」
そう言って、優は七日から差しのべられた手を掴んで立ち上がる。
「ええ。ちょっと癪だけど、あなたに気付かされたわ。……その、ごめんなさい、私の所為で……」
「いや、大丈夫だ。問題ない。ただ、まだ敵の数が多くて困る。せめて他のやつらも加担してくれればな……なんて。無理そうだけどな」
はははと、苦笑いを浮かべる優。しかし、半分冗談でいったつもりの台詞だったのだが、コレを七日はどうやら本気で受けたようだ。マジの顔で舞台周辺を眺めている。こころなしか旧式電磁流兵器を握る右腕も強く握られているように見える。
「優くん!」
「神田!」
優がいやな予感に顔を引きつらせていると、先程まで優の状況に焦りに焦っていた遥と幸一が走ってきた。
「今度は七日さんまで、どうしたん?」
「いったいどうなってるの?」
ゴチャゴチャになりつつある現状に、優に詰め寄る2人。
「悪い、説明は後にさせてくれ。まずはココのあれらを全滅させてからじゃないと」
「お、おう、そうだな」
「ご、ごめん」
なんて、日常的な平和な会話を繰り広げている場合でもなく、また気付かぬうちに優たちの背後に迫っていたホーネットモデルを七日が斬りおとす。
「気が抜けてるわよ?」
「すみません……」
全く……と、そんな顔をして七日は観客席の1番前に立つ。そして、右手に握った旧式電磁流兵器のリミッターを解除して、天井に向かってエネルギーを放出した。それに驚き当然のように全生徒の視線がそちらにいく。そしてエネルギーに魅せられるようにしてホーネットモデルの注意も全てそちらを向く。
勿論優たちの視線もそちらに行ったわけで、優はこれから七日がなにをしでかすのか不安でたまらなかった。
七日は開いた左手を口元に添える。そして、
「そこのあなた達! こんな3人だけに戦わせるつもり!? コレも試験なのよ!? ちゃんと頭を使えば傷つくこともないわ! ずっと逃げてるだけで、あなた達はそれでいいの!」
大声を体育館中に響かせて訴えた。
(言ったああぁぁぁ!!!)
優は目が点になり、尚且つ口はポカンと開いた。あまりの衝撃に、フリーズしてしまった。優の目に映ってこそいないが、遥と幸一も同じ状況だった。3人の視線はいま、七日の背中に集中している。
「な、なによ……? 別にいいでしょ? 実際困ってたんだし……」
「ま、まぁ、な……」
「な……」
さらっと視線をそらされて、それでようやく恥ずかしくなってきたようで、七日の顔が赤くなった。
「でも、ありがとう。おかげでどうにかなりそうだよ。――ほら」
優の視線が舞台に向いた。それに釣られるようにして、七日も視線もそちらへ向く。
するとそこでは、なんと先ほどまでは話を聞きもしなかった集団が、ざわざわと動き出していた。行動に映し出しのもそう遠くはないはずだ。
そうして、1発の銃弾を筆頭に、次々と動き出す生徒達。優の作戦を聞いて2階まで上がるものや、フロアで何人組みかを作り慎重に狙っていくものなど様々だ。
幾つもの光と音が空中を飛び交う。それと比例して壊れたキューブがフロアに転がる。
無機質な緑が、結束を表していた。
こうして、1時間にもわたる戦いは幕を下ろしていったのだ。




