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学園の神鳴り殺し  作者: 片岡 雅
-侵略者の使い:入学編-
69/110

◇8-9◇

 いくつもの銃声がこだまする第二体育館、そこではいまだに電磁科生とホーネットモデルの激しい攻防が繰り広げられていた。質量を持たない電磁弾、しかし威力のない電磁弾、そのうえ敵の動きが素早く、命中精度もまだあまり高くない生徒達にはこの戦いは困難を極めていた。

 軽くスライドを引いて、引き金を引く。高い銃声と共に少しばかりの淡い光を放つ銃口。そんな光景が絶え間なく伺えた。ホーネットモデルが現れた当初と比べると、戦闘に参加する生徒も比較的増えていたが、なかなか戦況には変化が見えないといった状況だった。


(こんなときに優くんがいてくれれば……)


 遥はまた、同じ事を考える。考えるのを止めようとしても、どうしても止められなかった。


――そんな体育館の外では、逸る気持ちに急く呼吸が1つ。力強く地面を駆けるそれは、今にも倒れてしまうのではというほど、前を向いていた。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 第一体育館からでは大した距離はないはずなのだが、彼は今とても疲労を感じていた。それはこれまでの経緯を考えてみればおそらく当然といえる代物なのだろうが、そのほかにも、今の彼からしたら理由は考えられる。焦りと不安の所為、という理由だ。

 その2つを解消すればきっとその疲労感も緩和されるのだろう。そのためにも、彼は今第二体育館を目指して走っているのだ。

 そして、しばらく走ってたどり着いた第二体育館。硬く閉ざされた鉄の門に手を伸ばすが、どうやら開きそうにはない。だが、扉越しでも、内側の音はよく聞こえる。苛立ちを覚えさせる羽音と、そして銃声に悲鳴。

 彼はここへは何かが起きているのではないかと考えてやってきた。そしてそれを今、確信した。


「くそっ!」


 思い切り扉を叩く。

 しかしまだ第二体育館への入り口は残されている。すべて隈なく調べればいい。正面の門が駄目なら、裏口と、それと第二体育館なら2階への道が外側からもある。そちらに行こう。

 まずは裏口。こちらのほうが中の様子を簡単に知る事ができるし、試験はフロアで行われているだろうから、こちらからのほうが対処は早い。

 が、急いで確認に行ったがどうやらこちらも完全に封鎖させれているようだ。


「駄目か……」


 残るは階段を登った2階のみ、最悪窓ガラスを割ってでも侵入を試みるつもりだが、あまり損害を出したくはない。願わくば扉が開いていてほしい。そう思う。

 駆け足で錆び付いた鉄階段を上り、扉の正面に立つ。そして、固唾を飲み扉に手を伸ばした。恐る恐る伸ばした右手、すると扉のセンサーがそれに見事反応し、開いて見せた。どういうわけか、こちらの扉は閉められることなく開いていたようだ。駄目もとでの行動だったのでかなり驚いた。

 しかし、これで無事中に入ることができる。そこまでは、素直に喜ぶべきことだろう。


「よし」


 彼は、そのまま真っ直ぐと体育館内に進入した。


――ちょうどその頃体育館内では、いまだ攻防が繰り広げられる。しばらく前と変った事といえば、いきなりの状況に戸惑い混乱しているものを舞台上に集めている事くらいだろう。やはりと言うべきか、戦況は不利なままだ。


「相沢、まだかなり残ってるが、もつと思うか?」


「わからない……」


 珍しく後ろ向きな顔を見せる遥。彼女は今、その命中精度から幸一や田中と共に、最前線にでている。しかし、それでも百発百中というわけにも行かず、まだ数は相当残っているのだ。敵が全滅するか、こちらの弾がすべてきれるか、どちらが先かはまったく見えてこない。

 またスライドを引きトリガーを引く。しかしまた、外してしまった。しばらく前に使い始めた強化電磁弾のカートリッジも、底をつきつつある中、これはいささかに不味い結果であった。


――するとその時、遥には思いもよらぬ事が起きる。彼女はその現実に驚愕して目を丸くした。


「――遥!!」


「――!?」


 なんと、勢いよく2階の観覧席の扉が開かれると共に、薄暗い部屋の中から優が現れたのだ。心から待ち望んでいたにしても、いないと伝えられていた人物がいきなり現れては驚くしかないだろう。――だが、それでも、遥の心は今、喜びで満ちていた。


「神田! お前今日学校休みじゃなかったのかよ! 来るの遅ぇっつーの!」


 幸一も彼が来た事で何か光が見えてきたのか、その顔には喜びと共に期待が浮かんで見えた。


「そんなことより、武器はあるか!」


「あるぜ!」


「投げろ!」


「おまっ、滅茶苦茶言いやがって!!」


 そうは言っても、幸一は結局試験用銃を思い切り2階に向けて投げる。野球部ではないにしろ、運動部で力には自身のある幸一、随分と高く飛び、おまけにホーネットモデルは攻撃と勘違いしてそれを避けたので、首尾よく武器は優の元に届いた。


「弾は弱いけど、何とかなるか……」


 だが、いくら優であれど、1度に全てを破壊する事はできない。それに、仮にそれができても、正体がばれるか強い反感を買うかしてしまう。偶然を装うにしても、それにしては手が込みすぎる。

――というわけで、優は遥の即席武器を再び使う事にした。勿論使うのは優だ。即席武器を作るときに試作品やら何やらとして作ったのを持っていたのだ。

 遥に使わせるのも悪いことではない。だが、それではうまくいかない可能性もあるのだ。

 少々注目を浴びる事になるが、この状況では仕方がない。優はポケットからちぎった花びらをつめた薬莢を取り出すと、観覧席より思い切り天井へ向けて投げた。

 すると、馬鹿みたいなスピードでホーネットモデルは薬莢に向かっていく。そしてそうやって大量に集まったところで、優はそっとトリガーを引いた。見事なまでに薬莢に集中していたホーネットモデルは、埃が叩き落とされるように次々と撃ち落されていった。


「なっ、アレなんだよ? あんな事できるならもっと早く来てくれりゃよかったのにな!」


 フロアで歓喜の声を上げるのは幸一か、どうやら随分と興奮しているようだ。残りのホーネットモデルの数も、目測でだいたい20というところだろうか、それでも多いことに変わりはないが。

 そのうえ残念ながら、どうやら優の目の前に飛び続けるホーネットモデルには少なからず学習能力もあるようで、先ほどから優を警戒して近づこうとしない。この様子ではおそらくもう1度罠にかけるのは難しいだろう。何より今は、まず非戦闘員の安全の確保だ。

 いまだ目を丸くしているものを我に返すように、優が叫ぶ。


「皆さん! 敵の注意がこちらに向いているうちに、戦えない人は急いで舞台裏に隠れてください! 射撃の腕がいい人は、急いで上に上ってきてください! ここと下の両方から追い込みます!」


 いくら学習能力があれど、いくら回避能力が高くとも、所詮はまだプロトタイプの人工電獣であることには変わりない。薬莢に集まったホーネットモデルが攻撃を避けなかった事から、2方向からの攻撃には対処できないと優は踏んだのだ。いままでにココにいる生徒に足りなかったものは、連携なのだ。まだあまり見知らぬ顔で連携しづらいというのも分かるが、おそらく敵の所為もあるだろう。

 それが分かれば、あとはこっちのものだ。


「みんな、行くぞ!」


 優に続いて呼びかける幸一。しかし――


「行くかお前?」


「嫌だな、纏まってた方が安全だろ」


 ざわつき始める生徒集。その中には、再び不安な空気が漂い始めていた。お互いに顔をうかがい、小声でどうするか話しているのだ。

 それは優には聞こえないが、幸一や遥にはしっかりと聞こえていた。


「おいおい、何言ってんだよ? このままじゃ埒が明かないだろ?」


「だったら、お前が言ってこいよ……」


 再度行動を催す幸一だが、あっさりと断られてしまった。その声に、いくつか別の声も続いている。


「仕方ねぇな、相沢、俺達だけでも行こう」


「う、うん……」


 幸一は他の生徒には愛想を尽かした様子で、遥にだけ声を掛ける。だが、遥はどうしても他の生徒が気になった。

 できればみんなに協力してもらいたい。だけどそれは、どうやら難しそうだった。


「優くん!」


「神田!」


 それからしばらくして、階段を登って2人がやってくる。


「悪い神田、あいつらつれて来れなかった……」


「……仕方ない。じゃあココから3人で1匹を狙おう。まずはオレが撃つから、それに続いて順番に不意を撃ってくれ」


「わかった」


「了解」


 1人ずつ、別の位置にずれていく。そして、まずはターゲット1つ目。優の正面を飛び攻撃を仕掛けてこようと接近する個体だ。狙いを定めるその時のサポートは他の2人が黙って引き受けている。

 バンッと鈍い銃声が1つなる。しかしその弾はすらりとかわされてしまった。――だが、これは勿論作戦通りだ。それに続いて、少し離れた位置の幸一が狙いを定め、そして撃つ。最後にそれを避けようと少し位置がずれたところを、遥がすかさず狙い撃ち落とす。

 これで、1つを破壊した。だが、まだ数はある。

 戦況はいまだ変化を見せようとしない。

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