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学園の神鳴り殺し  作者: 片岡 雅
-侵略者の使い:入学編-
68/110

◇8-8◇

 教室棟と特科棟を挟むようにして、第一体育館と第二体育館は位置している。第一体育館の門をでた先には特科棟の非常口があり、特科棟1階の非常口前009号室は、今のところは使われていなかった。時期も時期もためしばらくはそこに近づくものすらおらず、身を隠すなどにはうってつけと言っていい。

 西岡修平が素早く身を隠すのも、優にはそこ以外考えられなかった。


(西岡は影鴉(レイヴン)のメンバーだ。なにをしてくるか分からない、慎重にだ)


 優はそう自分に言い聞かせて、非常口の扉のとってを握った。009号室は前面ガラス張りの部屋だ。そんな部屋の前では、おそらく覚悟を決める時間もないだろう。戦いはこれからだ。

 金属性のドアノブの冷たさが、緊張感を漂わせる。そしてそれを越えた先、そこにはやはり、西岡が待ち受けていた。


「やはり来ましたか。少々信じがたいですが、本当に来てしまいましたね。どうしたんですか? 七日さんは」


 眼鏡を軽く上げ不敵な笑みを浮かべる白衣の男西岡。しかし彼の質問には、少々余裕がないようにも思えた。


「七日さんにはわかってもらったよ。コレが間違いだってことをさ。――それと、あんたさ、七日さんの弟君の手紙、隠したでしょ? 地下の教室で」


「はて、何の事でしょう? ……というわけにもいきませんか。よく私だと分かりましたね?」


「あの教室はあんたと七日しかどうせ知らないんだろう? 彼女が知らなかった以上、あんたしかいない」


「まぁ、そうなりますか。それにしても、教師を《あんた》呼ばわりですか? 教育者としては参ってしまいますね」


 両手を挙げてやれやれと首を左右に振る西岡、そこにはいつもどおりの余裕の色があった。


「教師だったら普通こんな馬鹿な真似はしないさ。それに、オレはあんたの事を教師だとは初めから思ってなかった。初めから1人の社会人としてみていたからな。勿論他の先生も。本人の前ではただ生徒を装ってるだけだ。あんたなら知ってるだろ? オレはここには学生である以前にABNの一員としてきているんだ。もともと勉強も苦手だし、これから就職なんてありえないし、真面目に生徒をやっている義理もない……。すべてはABNの為なんだよ」


「なるほど。神田くんは結構冷めた人かもしれませんね?」


「さて、どうだか?」


 西岡と優の間に、緊張の風が吹き続けている。どちらも前にはでず、また下がりもしない。


「でも、あなたはどうやって私の――いや、私たちの計画を阻止するつもりですか? あなたの武器もこちらにあります。ただ電気再燃で電気が効かないってだけでしょう? それなら、あなたに私たちは止められませんよ?」


「そうですね。武器がなければ無理ですね」


 西岡の余裕もさることながら、優もまた、先程から不敵な笑みを浮かべていた。その笑みに西岡も気づき出していて、少々気にしているようだ。

 そして、いち早く動き出したのは西岡だった。


「勿論覚悟ができてココに来たのでしょう。しかし、それが失敗だった事を思い知らせて上げますよ!!」


 西岡が両手を広げる。すると、白衣の裾から大量のキューブが放り出された。そしてそれはみるみる光を集めていき、やがてすべて1つの形を作り上げた。人の頭ほどの蜂の形体――ホーネットモデルである。


「私は組織の研究者でねぇ、このくらいは常備しているんだよ! しかもこれは爆薬入りで触れたら即ドカンだ! 逃げ場はない。死ねぇ!!」


 勢いよく優に向かって西岡のもとから飛び立つホーネットモデル。優のもとに大量の爆弾が迫っているのだ。西岡は常に計算し尽くされた位置につき、いつ爆発が起きても問題ない態勢に入っている。巻き沿いを狙うのは無理だということは誰の目から見ても明確だろう。

 優は今絶体絶命だ、そう思われる。だがしかし、彼には彼にしかない、ある秘策があった。

 西岡の見るなか、しばらくすると優にまで届いたホーネットモデルが爆発し始めた。そしてそれに連なるようにして次々と爆発が起きる。想像しい爆音が、校舎中に響き渡った。衝撃で硝子も粉々に割れ、そこら中に散らばる。

 それから、西岡は爆発で起こった白煙の中を眺めた。彼からしたらあり得ないことだが、優が生存していないかどうか確かめるためだ。

 なかなか晴れることなくもくもくと立ち上る煙が、すこしずつ割れた窓から外へと逃げていく。


「…………」


 しばらくして、ようやく物陰が見えてきた。――とその時、西岡は目を丸くして仰天した。おぼろげに見えてきた人影、それはまさしく、激しい爆発にも耐え直立する優だったのだ。


「どうした西岡さん? そんなに驚いた顔して、別に驚くほどのことでもないだろ?」


「てめぇ、なんで生きてやがる……しかも傷ひとつもなく……。ただの電気再燃じゃなかったのか?」


 目の前の現実に驚きを隠せず動揺する西岡。その顔に浮かぶ汗には、もう彼の余裕の色は見られない。


「だれがオレがただの電気再燃だなんて言いました? オレはただの電気再燃じゃなくて、超伝導皮質なんですよ」


「超伝導皮質? それでどうやってあの爆発を回避したってんだ? あんなのただ体中をよく電磁波が流れるってだけだろ?」


「まぁ、一般的にはそうですね」


「なんだと?」


「これ、なんだか分かります?」


 そう言って優は右手にはめたグローブを西岡に見せ付けた。


「そ、それがなんなんだ?」


「オレはこのグローブを介して、電獣のコアに眠る特殊な力を引き出すことができるんです。それが、今分かっている超伝導皮質の最大の力です」


「な、なんだと……そんなの、聞いた事がない!」


 両手を床に叩きつける西岡。そんな彼に、優は次に左手のグローブに握っていた四角い結晶を見せ付けた。


「このコアは、一時的ですが風の障壁を作り出す力があります。さっきの爆発はこの力で回避しました。どうですか? コアはまだ他にもあります、コレでもまだ戦いますか?」


「くっ……」


 特科棟1階、現在地より階段まではまだ距離がある。硝子を破ろうにも強化ガラスである窓ガラスは先程の爆発でも起こさないかぎり破れそうにはない。勿論西岡自らが爆発に乗じて逃げ出すことも考えられるが、かなりのリスクを負ってすぐに追いつかれる。唯一の抜け道である非常口も、優によって塞がれている。そして優には爆弾ホーネットモデルの強襲は効かない。――そしてなにより、今だ名の知られていない組織の情報を外に漏らすわけには行かない。

 西岡の行動理由は、それだけで十分だった。


「はは、俺もどうやらココまでのようだな……。あとは精々試験を楽しむんだな!!」


 そう言って西岡は1つのカプセルを取り出す。赤と青のカプセルだ。


「――まさか!? 待て、やめろ!」


「さらばだ!」


 西岡は一思いに口の中にカプセルを放り込む。そして、数秒もしないうちに西岡の体は力を失いその場に倒れた。彼の摂取したカプセルには猛毒が入っていたのだ。おそらくは外部に情報を流さないためだろう。そんなことは分かっている。反政府組織なら、テロリストならよくある話だ。だが、もうすでに2人の死人がでている。おまけにもうこれで優に影鴉(レイヴン)の尻尾を掴む事はできないだろう。

 優は、ただひざを突いてうな垂れた。


(いったい、さっきの言葉の意味は何だったんだろう……)


 空っぽになった優の頭のなかで、西岡の最後の言葉がこだまする。試験、それは今尚第二体育館で続いている。そして、もともと彼らの目的は無理やり電磁科生徒に適正を与える事だった。

 ならつまり……


「――!? そうか!」


 叫ぶと共に勢いよく立ち上がり、優は特科棟をでた。できる事なら極力破損箇所を修復していきたいところだが、今は時間がない。緊急事態なのだ。

 焦りながら第二体育館目指して掛けていく優を、七日はひそかにやぶから眺めていた。

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