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学園の神鳴り殺し  作者: 片岡 雅
-侵略者の使い:入学編-
67/110

◇8-7◇

 復讐に囚われていても、得られるものは何もない。そんなことは、自分でも分かっているつもりだった。でも、それでも、なにかを傷つけるまで失うまでは、見て見ぬふりを続けるしかなかったのは、今更言い訳の仕様もない、どうしようもない事なのだ。


 七日は右手に旧式の兵器を悠然として構え、そして優を見つめていた。


「七日さん、悪いけど、オレはあんたの復讐のためにこんな事をするのは間違っていると思う。復讐からは何も生まれないってなんで分からない!」


 人が自分と同じ轍を踏むのは見ていて楽しいものだろうか? おそらくそれは人によって異なるだろう。見ていて愉快に思えるものと、見ていて不憫に思えるもの。優は、この場合どちらかといえば後者だった。彼はクラスメイトに、自らの犯した過ちを繰り返してほしくはないのだ。


「そんなこと分かりたくもないわ! 私にはもう、コレしか残されていないのよ……、こうする他ないの。だからここは絶対に私が通さないわ。幸いあなたも武器を持っていない。通ることはできないでしょう?」


 舞台上とその裏との間に隔てていた壁を崩すほどの破壊力。確かに、いくら電気再燃で電磁エネルギーに強い優であっても、それほどの一撃をくらえばただでは済まないだろう。だが、武器はなくとも、実際優はこの場をやり過ごす術を持っていた。グローブとコアさえあれば、それは簡単だ。――だが、それでは意味がないのだ。

 優には、七日を切り捨てていくことはできない。


「そうだな、通れない。でも、オレはそこを通らないといけないんだ。だから、そこを退いてくれ」


「なにを馬鹿なことを言っているの? 通さないと言っているでしょう?」


「あんたがそんなことをしてて、弟さんが喜ぶと思うのか?」


 極力冷めた口調で、一言言う。


「……なにが言いたいのよ」


「あんたが復讐をすることなんて、弟さんは望んでいないってことだよ。あんたの弟さんはきっと姉に自分のために戦ってほしいだなんて思っていない。けして姉が傷ついていく姿なんて見たくない。きっとそう思っていたと思うよ」


「……っ、知ったような事言ってんじゃないわよ!!」


 涙交じりの声が、耳に響いた。優が七日の叫びを聞いたのはコレが初めてかもしれない。


「何も知らないくせに、わかったような事言わないで。そんな哀れむようなこと言ったって、私の思いは変らないわ!」


「――ああ知らないさ分からないさ! でもな、あんたの弟さんが優しい人だった事だけはわかる。……見ろ、コレがなんだか分かるか?」


 そう言って優が七日に見せ付けたのは、地下で見つけた1通の家族への手紙だった。


「これはな、ある少年が命を削って書いた最後の手紙だ。ここに少年の思いが書き綴ってあった……」


「それがどうしたのよ……?」


 七日は優に疑いのまなざしを向ける。


「まだ分からないのか? その少年こそが、あんたの弟だったんだよ! この手紙は、あんたの弟があんたにために書き綴った最後の手紙なんだ。ここにはあんたとの辛い思い出や楽しい思い出はもちろん、言いたくても言えなかったことも書いてあった。だがな、どこにもあんたに自分の復讐をしてほしいなんて思いはなかったぞ? それよりかむしろ、字分の姉のことを心配した文章が多かった。自分が死んでも思い悩まないでほしいって、いつまでも元気でいてほしいって、あんたの事を本当によく思ってた。――そんな人間が、あんたにこんなことしてほしいだなんて思うわけがない。そんなこと、考えられない……」


 手紙の差出人は、七日の弟だった。姉の思いの詰まった、心の詰まった手紙だった。

 それを聞かされた七日は、涙が止まらないで武器を握る腕がより一層強く握られていた。


「……うるさい……うるさい! 私にはもう、どうする事もできないのよ! 手紙を読んだから何なの? ついさっきまで何も知らなかった人に言われたくないわよ!!」


 七日が叫ぶ。その時、旧式電磁流兵器の赤いプラズマが優の体を斬りつけた。物理的なダメージとともに、優の体中に超高圧電流が流れる。

 七日の体は、気付けば走り出していた。勿論優がそれに気付かなかったわけではない。だが、優はあえてその攻撃を受けたのだ。

 強い衝撃と共に散った鮮やかな赤が、肌色の下地によく映えた。


「なんで……避けなかったのよ……?」


 初めて生き物を切る感覚を覚えたからか、七日の顔には動揺が浮かんでいた。優の狭い傷口から少し血が流れるのを見て、血の気が引いていく。


「あなただって、ただじゃ済まないのに……」


 優の呼吸が少しずつ荒くなっていく。


「……これで、満足か?」


「え?」


「……復讐するんだろう? その手始めに俺を攻撃した。それで満足か?」


「あなた、何をいってるの?」


 七日の顔に疑問の色が浮かぶ。

 優は全身が痺れる中、小さな傷口を押さえながら話を始めた。


「……オレも、あんたと同じなんだ。オレも8年前、災害で家族を亡くした。どこにも光を見出せなかった。そして電獣相手にきりのない復讐を誓ったんだ。だが、それは間違っていた。復讐は何も生まない。それを気付かされたんだ。……ある日、オレは仲間を傷つけてしまった。それもすべてあのときの心が原因だったんだ。――だから、オレは新たに誓った。もう自分の所為で誰かが傷つくのを見たくない。もう、目の前で誰が倒れていくのを見たくない。だから! これからは復讐のために生きるのではなく、自分のためではなく誰かのために生きようと、そう誓ったんだ……。――あんたがまだ光を見出せないというならば、それが見えてくるまでオレを攻撃すればいい。オレは絶対に逃げない。復讐は、復讐で洗い流してしまえ! 来い! オレは必ずあんたを止める。きっと、あんたの弟さんもそう願っているはずだから……」


 2人の視線が交錯する。そこに他人が入り込む事はもはや難しいだろう。

 そしてしばらくすると、七日の右手から武器が地面に転がり落ちた。それとともに、崩れるように七日は舞台に座り込んだ。その目には大粒の涙が浮かんでいて、今にも声を出して泣き出しそうだった。

 そんな七日に、優はゆっくりと前へ進み、彼女に手紙を渡した。するとそれを読むや否や、思った通り大声で泣きだしたのだ。そんなところをいきなり話しかける度胸は、優にはない。

 そのまま何も言わずに、その場を去ろうとした。おそらくもう七日には戦意はないだろう。そう思っての行動だ。

 思った通り、彼女はもう優に構う事もなく、すうっと通り過ぎる事ができた。

 すると、七日が優に声を掛けた。


「神田君、ひとつだけ訊くわ。どうしてあなたは神鳴り殺しなんてやってるの?」


「……そうだな。憧れと、恩返しの為……かな?」


「……そう」


 まだ西岡もそう遠くへはいっていないはずだ。涙をながしてなく七日に背を向けながら、優は第一体育館をでた。

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