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学園の神鳴り殺し  作者: 片岡 雅
-侵略者の使い:入学編-
66/110

◇8-6◇

 カツカツと、金属階段を踏みしめる音が耳に届いた。そしてそれが敵が現れる合図だと言うことを、優は理解していた。

 2階から降りてくる足音は2つ。だが、舞台裏から顔を出すのは、そのうち片方だけだった。


「まさか、黒幕があんただったなんてな」


 優の視線が向く先、そこには白衣を着こなし不適な笑みと共に眼鏡をくいと上げる西岡がいた。彼は生物を担当していた。それならいままでの人工の電獣もある程度なら頷ける。


「いやいや、黒幕なんてとんでもない。私はまだまだしたっぱですからね。――あなたこそ、あんまり来るのが早いから驚いてしまいましたよ? これは称賛に値します」


「そりゃどうも。…………」


 優の視線が壁一枚隔てた先の舞台裏に集中する。今優には、そこから出て姿を露にしないもう一人が気になっていた。声から女だということはわかるのだが、それ以上の情報はない。どう動くかわからない以上、警戒するしかない。


(誘い出してみるか)


 西岡を攻撃すれば出てくるかもしれない。そう考えたのだ。

 靴裏に隠してあった小型ナイフを、気付かれないように足を降って飛ばす。――しかし、それはまるでわかっていたかのようにかわされてしまった。

 まさかの結果に驚きを隠せない優に苦笑した西岡は、ネタばらしをすることにしたらしい。それはだな、と切り出してきた。


「俺はな、電磁波が見えすぎるんだよ。電獣が裸眼で見えるくらいな? お前のあのナイフ、微量に電磁波が放出されてたからな、すぐわかった。おっといけないつい口調が」


 完全に遊ばれている。優がその正しい認識をするまで、時間はかからなかった。

 舞台裏に何が潜んでいるかわからない以上、迂闊に近づきすぎることはできない。


「ライター使って応援でも呼べばよかったじゃないか? あっでもあれ業務用じゃなかったんだな。ハハハ! おっとまた口調が」


 ライターには発信器もあって、迂闊には手を出せなかったのだろうか、お陰で脱出することはできたが、その代わり応援は来ない。全く皮肉なものだ。


「それじゃあそろそろ時間ですので。追いかけてこないでくださいね? それではお元気で~」


 ハハハと陽気に笑いながら、西岡は優に背を向けた。これはチャンスだ。後ろから攻撃する場当たるかもしれない。……何て言う考え無駄だった。すべてきれいに避けられてしまったのだ。

 だが、ここでみすみす逃すわけにはいかない。不本意だが、まっすぐ追いかけさせてもらおう。


「待てっ!」


 叫ぶと共に舞台を強く蹴り駆け出す優。――だが、敵もそう易々と通してくれそうにもなかった。

 優が西岡に近づくより早く、舞台裏より赤い光線が降りかかった。そしてそれはもともと当てる気がなかったかのように引いていく。優の視線の先にあるのは、黙々と立ち上る土煙と崩れた板クズだった。


「なんだ、今の……?」


 そんな今までにない現象に、優は驚きを隠せないでいた。額を嫌な汗が通う。

 白々とした煙に映った人影は、ちいさく、そして華奢なものだった。片手には武器――ELLアプリを通して赤色に見えるところから旧式の電磁流兵器だろうか。50センチほどの棒状の武器だ。

 視線を次に煙の奥へ向ける。しかしそこにはもう、西岡の姿はない。舞台裏からの攻撃に注意が向いているうちに逃げられてしまったようだ。優も今すぐ追いかけたいところだが、どうもそれ吐かないそうにない。煙が晴れていき、もう1人が姿を表したのだ。

 聞き覚えのある声と一致したその容姿に、優は絶句する。


「まさかとは思ったけど、本当に……!?」


 ゆらゆらと揺れる肩まである黒髪に、どこまでも見据えていそうな黒い瞳。そんな普通そうで真面目な面構えの少女、七日由利。影鴉(レイヴン)の西岡とともに動いていたのは、彼女だったのだ。

 ちなみに優のまさかとは思っていたというのは、地下教室で見つけた手紙に書いてある内容がそう考えさせたのだ。


「さぞ驚いたでしょう? 私もつい先日あなたが神鳴り殺しだと聞かされたときすごく驚きました。それと共に、ショックもね」


 七日の黒い瞳が、優を冷めた眼差しで睨む。


「くっ、七日さん、なんであなたはこんな事を! 一体なにをしようとしているんですか!」


「そうねぇ、さすがにもういっても怒られないわよね。――私たちはね、この学園の電磁科生徒全員に、むりやり適正を与えようとしているのよ? 本職のあなたなら、適正って分かるわよね?」


 適正――電獣を相手にするに当たって、使用する電磁流兵器に対応できるかできないか。討伐に直接参加するものか間接的に参加するものか。というあたりを定めるものである。それを持つのは生まれつきの体質である場合と、電磁的な何かに影響を受ける場合と2つある。主に8年前の被災者は全員が適性を持っていることとなり、生まれつきとそれ以外で適正を与えるとなると、かなりの危険が伴う。度合いによっては命の危険すらありうるのだ。

 優もまたその適性を持っているが、それは被災したからであって、なにか特別な実験をして得たわけでも生まれつきでもない。


「そんなことしたら、とんでもないことになるだろ! あんた自分が何してるか分かってんのか!?」


「――わかってるわよ! そんなこと自分が一番分かってるのよ……。でもね、こうでもしないと、私が適性を持つことなんて無理でしょう? 私は被災者でもなければ生まれつき適正があるわけでもないんだからね。きっと私と同じ悩みを持っている人だって彼らの中に入るはずだわ? よかったじゃないの、別に命をとろうってわけじゃないんだから!」


「……あんた、狂ってるよ」


「仕方ないでしょ? 私は復讐を成し遂げるためにココに来たんだからね。あいつらと出会ったあの日から、私はずっとこの時のために生きてきた!――私は、私は電獣を狩って狩って狩りまくって、思いを成し遂げられずに死んでいった弟の復讐を必ずするのよ!!」


 七日の涙に優が気づいたのは、この辺りからだろうか。彼女の瞳からは、眼鏡越しだが確かに涙があった。興奮の所為か真っ赤に染まった彼女を頬を伝うそれは、かみ合わない感情をうまく象っていた。


「あなたがいた場所、あそこはね、もともとここの付属校だった小学校の教室よ。8年前の災害時に崩壊して、1階層だけが地下に埋まったの。あそこは私と弟との思い出の場所よ? 哀しいときや辛いとき、よくあそこにいって2人で遊んでいたわ。ちょっとした秘密基地気分でね。でも、弟は生まれつき体が弱かった。とくに弟は被災してしまった所為で余計に弱くなっていたの。半年もしないうちに衰弱していったわ。そしてそれから1ヵ月もしないうちに両親も死んだ。あれも被災の所為でからだが弱っていたのよ。私は弟に付きっきりで毎日話していた。そんなあるときに、あの子が言ったのよ。もし自分がもっと強かったら、これ以上電獣の被害がでることも無くなるかもしれないのに、ってね。それからしばらくして、あの子もこの世を去ったわ……。――だからわたしは、あの子のためにも適正を得てさらに強くならなければいけない! これは復讐なのよ、電獣に対するね!」


 七日の瞳は本気だった。そして優は、その瞳を昔見たことがある。

 この時優が七日を切り捨てていかなかったのは、過去の自分をと重なったからかもしれない。

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