◇8-4◇
遥の銃から第一声が発せられた。質量を持たない弾丸が、青白い光と共に天井目掛けて閃く。それと共に、他の生徒達の視線が一瞬にして遥に向けられた。しかしこれはけして、彼女が目立つとかそういう理由ではない。混乱のなかで変化を見出したからこそ、注目されたのだ。
そしてそれとともに、60あるホーネットモデルの注意も、すべて遥に……いや、遥の持つ銃に集まっていた。どうやらあれらには電磁波の反応を追尾するようプログラムがされているようだ。まったく厄介だ。
餓死寸前で獲物を見つけた獣のように、ホーネットモデルが遥目掛けて動き始めた。
――刹那、遥のとなりで、幸一がどこを狙うわけでもなく天井目掛けて電磁弾を打ち放った。蒼白の光が再び閃く。するとそれにつられて、遥へと向かっていたホーネットモデルも動きを止めた。どうやらシステム上でどちらへ攻撃を与えるべきかと処理をしているようだ。完全に静止している。
しかも、この時はなった幸一の弾丸は、思いもよらぬ事態を引き起こしていた。彼の弾丸が、偶然ながらひとつのホーネットモデルの人工のキューブを貫いていた。そして形を維持できなくなったホーネットモデルは、ゆらゆらと光を放ちながら崩れ散った。
正直、幸一自身も狙ったわけではなかったので驚いていた。その驚きのあまりぽかんとしている。だが、これはチャンスだ。ココを逃す手はない。
「皆、武器を取って! 適当に撃っていればいつかは当たる、数撃ちゃ当たるよ! だからお願い!」
遥は、幸一の行動によってざわついているのに便乗したのだ。目の前に偶然が転がっていれば、道が開けそうなら、そこに向かうはず。そう考えたのだ。
そんな彼女の読みはあながち間違っていなかったようで、大勢というわけにはいかないが、数名の生徒が舞台上に武器を取りに来ていた。
「そうだ! あいつらにできて俺たちにできないわけがない!」
「そうよ、劣科生なんかに負けてたまるもんですか!」
……その理由に言動はあまりいいものではなさそうだが。
なんにせよ、これで的の注意が一方に集中することはなくなるだろう。いずれ戦況も変る。そう思う。
それから、いくつもの弾丸が空中を飛び交った。ホーネットモデルも、1つほどは破壊できたろうか。いや、1つでも破壊できればいいほうだ。なにせ、ホーネットモデルがすばしっこく弾丸を回避するのだから。
苦い表情をしている遥の袖を、幸一が引っ張った。
「相沢、なかなか当たらないんだが、どうしたもんかな? 俺は途中参加だから実技しかできないし、相沢、なにか良い手はないのか?」
「……ごめん。今は、撃つしかないと思う……」
「そうだよな……」
こういうときこそ、優がいてくれれば……。つくづくそう思わせる。
負傷者がでづらくなったまではいいのだが、ここまで進まないのでは埒が明かない。いずれ弾丸もそこをつき、自分の身を守るだけでも精一杯というふうになってしまう。
(優くん……どこにいるの?)
現在、優は学校の敷地内にいる。それだけは涼子の話を聞いて知っている。考えづらい話だが、遥には信じられる。
だが、優が来るにはまだ早い。
――土埃が舞った。ボコッという音と共に、天井に開いた隙間にうまいことはまっていたタイルが外れた。
現在、優は手紙に書いてあったとおり地下に埋まった教室の天井から地上への抜け道を進んでいた。あの天井を登るのにはかなり悩まされたが、ライターの光りで照らしたらロープが見つかり、渋々それを使った。驚くことにあの奥にはまた1つ教室が半分ほど埋もれた形で存在したのだ。体を軽く縮めなければいけない状態だが、それでも不思議と安定していて、崩れる気配はない。
だが……
「狭! なんだ横の狭さ、可笑しいだろ! ココどうやってオレを連れ込んだんだよ器用なヤツだな! 体柔らかいヤツだな! だからさっきちょっと体痛かったのか?!」
優はお怒りのご様子だ。
身体能力が高くとも、柔軟性が高いわけではけしてない。優は、正直言って体は硬いほうなのだ。
「ったく、ココでたら絶対に仕返ししてやる。……誰の仕業かわからないけど……とにかく絶対影鴉のやつらだ。赦さねぇ!」
そう言ってピリピリとした雰囲気をかもし出す優。
すると、ぽろぽろと土が崩れかけているところを見つけた。優はそれを見逃さなかった。もしかしたらでられるかもしれない。そう思ったのだ。
優の予想通り、更に進むと小さな穴を見つけた。そしてその上には薄く土が固めてあった。軽く叩けばすぐにでも崩れるだろう。
「ふっ」
軽く叩いた。ボロボロと崩れる土の塊。その奥には、少し急だが地上へと続く道が確かにあった。
出口も見え、後は進むだけだ。




