◇8-1◇
第2体育館、そこにはもうすでに、多くの生徒が集合していた。電磁科1年生の総勢110名である。
そんななか辺りを見回して遥が見つけたのは、同じクラスの佐藤幸一と田中蓮だった。2人はどうやらこの会場には一緒に来たみたいで、なにやら噛み合わない会話を繰り広げていた。遥は女子の友達がいないわけではないのだが、まだ出会って日も浅く彼らといるほうが落ち着ける。
なにげなく声を掛けながら駆け寄っていった。
「佐藤君に田中君、2人とも早いね」
そんな遥に気付いて、幸一が手を振ってきた。
「よぉ相沢。ってか、全然早くねぇぞ? むしろ相沢が遅いんだって」
そう言って、幸一は左腕に付けられている時計を遥に見せてきた。するとそこには、10時25分、テスト開始のたった5分前の時刻が表示されていたのだ。遥が驚きのあまり声を上げると、幸一が笑っていた。
しかし、驚いた。大文字先生と話しているときに時間が過ぎ去ったのかもしれないが……いや、なんにせよどうにか間に合ったようだからいいだろう。
問題はこれからなのだ。遥のポケットには、大文字先生から受け取った強化弾カートリッジが入っている。それはいざというときに使えと、彼は言っていた。
――いざというとき――
それはおそらく危険時を意味するのだろう。そのくらいは遥でもわかる。要するに彼の話では、これから何かが起ころうというのだ。ココでやっと遥はそれに気付く。
だが、騒ぐ事は許されない。それをしてしまえば、最悪優がココを離れる結末すら有り得るのだから。
遥は自らの心で葛藤しながら、ひたすら他の選択肢を探した。どうやら見つかりそうにはないのだが。そんな彼女の様子をおかしく思ったのか、幸一が声を掛けてきた。
「んどうしたんだ相沢? 絶望的なすごく深刻そうな顔して」
いまそんな顔をしているのか? と幸一に返事を返すよりまず難しげな落ち込んだ表情を作った。するとそれに合わせて幸一も困った顔になり、そこで遥もへんな表情を止める。
「いや、なんでもないよ。――そ、それより、テストってどんなかな?」
焦るように両手をばたばたさせて遥は訊く。そんな様子に苦笑いで更にため息を吐いて、幸一は返事を返した。その様子にはどこか諦めた感じのものがある。
「さぁ、きっと受験と同じじゃないのか? 会場だって同じだしさ。索敵したり、ポインター撃ったりさ」
「そ、そっかぁ。そんな感じかなぁ」
明らかに挙動不審になっている遥。しかし、コレ、実は本人は気づいていないので、
「本当にどうしたよ、そんなにキョドって……」
「え、なんのこと?」
と、こんな感じでそのことについて振られると対処しきれずに無理やり話を逸らす。さすがにこれは疲れるのか、幸一も諦めた感じではははと笑っていた。
実際、遥はこの先のことで頭が一杯で周りが見えなくなっている。そのうえそれを口外してはいけない。ゆえに挙動不審になっているのだ。
「まぁなんにせよ、もうそろそろテストが始まるし、クラス順に並ぶみたいだから行こうぜ?」
「う、うん」
その後、幸一の言ったとおり遥たちが並び終えた後すぐにテストが始まった。体育館の扉から担当と思われる先生が何人か入ってきた。が、不思議なことにどれも遥が始めてみる顔だった。入学式にあんな先生がはたしていただろうか? あまりその日のことを思い出せないからなんともいえないが、まぁおそらくは専門の先生なのだろう。気にしないでおく。
遥の前にいる幸一も同じように思っていたようで、度々首を傾げていたが、彼もどうやら無理やり納得したらしい。
「――それでは、これから電磁科実技テストを開始します。ではそれぞれチームを作ってください。実技テストは時間も掛かるため3人チームを編成して行います。それではどうぞ」
3人チーム。
遥の場合は近場にいる幸一と田中と合わせて3人、これでばっちりだ。田中はどうか分からないが、幸一の実力は遥自身目で見ているのでよく分かっている。組んでも申し分ない実力だ。あれで普通化の生徒だったのだからびっくりだ。
それから、他の生徒同様、遥たちもやはりチームを組み、腰を下ろした。少しばかりのあまり生徒はでたが、それらもあまり同士でチームを組み、無事全員がチームを組み終えた。
「さて、それではまず索敵の試験を行います。3チームずつ行いますので、列の先頭から3チームでてきてください」
はい、という返事と共に、9人の生徒がまえにでた。並び順的には遥たちはこの次の番なのだが、それでもすでに遥は緊張していた。なにより、試験は他の生徒の目の前で行うらしく、舞台上に立ち、天井のいたるところに現れるポインターの赤点を探すのだ。全校生徒の視線が集まるのだと思うと、索敵に集中できなくなるかもしれない。おそらくそういう精神面もテストされるのだろうが、それでもやはり緊張する。
「索敵開始!」
長いホイッスルと共に、テストは開始する。
緊張しているのか、ぎこちない手付きで専用のELL代用レンズのついたゴーグルをつけ、スローに索敵をはじめる。その作業は遥や幸一にしたら随分としょぼいもので、しかもそれがトップバッターだからか、遥の緊張も気付けばなくなっていた。はっきり言ってしまえば、遥と幸一なら余裕のテストだ。優がいるなら尚更、嘗めているといっても過言ではない。
「――AチームD、BチームD、CチームE!」
2回目のホイッスル――つまりは終了の合図がなったのはそれから3分後の事だった。
索敵した数は、それぞれ5、5、3。それであの成績なら、妥当といえる。遥はふと隣にいる幸一の顔を見たが、呆れてものも言えないという様子だ。これは正直遥も似たようなものだ。
俯きながら、トップバッターの3チームが舞台から階段を下っていった。
次は遥たちの番だ。




