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学園の神鳴り殺し  作者: 片岡 雅
-侵略者の使い:入学編-
60/110

◇7-8◇

 優が両腕と両足を縛る縄を切断するのに、そう時間はかからなかった。靴裏に隠してあった小型ナイフで少しずつ切れ込みを入れていき、最後には無理やり引っ張ってちぎったのだ。

 周りはどこもかしこも真っ暗で、目に映るのはぼんやりとした黒い輪郭だけだった。幸いライターは盗られてないようでズボンのポケットに入っていた。優はスイッチを入れてスクリーンを展開し、それを明かりの代わりにする。

 するとそこは古く寂れた学校の教室のようだった。滴る水と割れたガラス、散らばる机に穴のあいた壁。そのひどく荒らされた惨状は、まるで何か災害にでもあったようだ。――するとこれはおそらく、8年前のものか。電獣の出現によって崩壊したのだろう。特に近場に水場があるようだから、被害も大きかったに違いない。


(しかし学園の地下にこんな場所があるなんて、知らなかったな)


 この地区に来る前に調べておくべきだったと、少しばかり後悔する。それにしてもひどい。生徒の作品であろう絵画なんかも壁にはまだ飾ってあって、きっと災害後は放置されていたのだろうな。死臭がしないだけいいほうか、おそらくこの場に死人はでなかったのだろう。その他の悪臭もまったくない。

 それから廊下にもでてみたが、こちらは教室とは比べ物にならないほど綺麗なものだった。狭い所為で安定していたのだろうか。奥までは続いていないが、窓ガラスはダンボールで補強されていて、誰かがココに来た事を示している。地上にでる道としてはと思い、優は階段も見てみたが、こちらは想像以上に酷かった。触れれば崩れ落ちそうなほどに素材が老朽化していて、とても使えそうにはない。

 だが、優をココにつれてきたものがいるという事は、ココからの脱出方法は必ずあるということでもある。道は必ず存在する。


(……やっぱ駄目か)


 ライターで連絡が取れないものかと思ったが、地下である所為か、それとも何か妨害するものがあるのか、電波が届かない。いや、届いても無駄か、今優が持っているライターには組織関連のものは載っていない私生活用のライターなのだから。

 我ながら油断していたと優も思う。

 関係ない遥や涼子を巻き込むわけにもいかない。組織の人間が学校にいれさえすればその人に知らせてもらうだけという手もあるが、残念ながらサトシは今は出張中で不在だ。まったく肝心なときに役に立たない人だ。

 とにかく、外部との接触ができない以上、今は優自身がどうにかするしかない。


(今もってるのは、ライターと薬莢とグローブとコア……だめだ。ここ抜け出すにしてもここが崩れたら不味い。下手な事はできない。やっぱり、抜け道を探し出すしかないみたいだな)


 とほほ、と途方にくれる優。

 とその時、優はある変化に気付いた。廊下の端に差し掛かったところで、ライターにメールが届いたのだ。


『To:神田優 From:古川涼子 件名:無題 内容:ちょっと話したいことがあるから会えない?』


 涼子からメールだ。

 この状況だとなんとも言えない内容だが、それでも、ラッキーだった。廊下の端であるこの場所だと、僅かながら電波が届く。という事は、この辺りに抜け道が隠されているかもしれないということだ。

 涼子のメールには適当に返事を送っておいて、優はさっそく抜け道を探す事にした。床が剥がれないかとか、壁に隠し通路はないかだとか……もういろいろと探しまくった。

 そして見つけたのが、ひとつの箱だった。それは床をはがしたらでてきたのだ。そこの床はたまたま補修された床で、明らかになにかありそうだと思って開けたのだ。

 中身は、1通の手紙だった。


(手紙……誰宛だ? こんなところに隠してあって――)


――――!?

 優は、その手紙に驚愕した。



 それからしばらくした頃、遥は大文字先生と階段を駆け下りていた。そしてようやく、人のいないところを見つけたのだ。

 肩で息をする遥を横目に、辺りを確かめる大文字先生。何かを確認し終えると、早速遥に質問を投げかけてきた。


「相沢、お前今神田と連絡は取れるか?」


「すいません、今優くん電波が届かないみたいで、無理です」


「そうか……」


 ちっ、と舌打ちをして、大文字先生は次の質問を投げかけてきた。


「お前、西岡先生を見なかったか?」


「え?」


 西岡先生ならば、遥は大文字先生をとであろうしばらく前にあっている。少し話を聞いて、その後すぐ別れた。


「さっき見ましたけど、それが?」


「そうか、ならまだ始まってないんだな……。相沢、これを持って行け」


 そう言って大文字先生が取り出したのは、銃のカートリッジだった。


「これは?」


「試験用の銃に使えるカートリッジだ。少し威力を上げてある。いざというときはコレを使え。お前ならできるだろう」


 言い終えると、大文字先生は遥の肩をトンと叩いて走っていってしまった。


「え、せんせ――」


 遥はわけも分からず呼び止めようとしたが、そこにもう彼の姿はない。

 怪しまれてはいけない。とりあえずは試験会場に行かないと。――それがまず遥の頭の中に浮かんだ。強化弾カートリッジを体育着のポケットにしまい、遥は走った。階段を上り、2階渡り廊下を介して教室棟に戻り、昇降口からそとへでた。


(なにが起きているのかは分からない。しかし大文字先生が何かを知っていることも、西岡先生が何かをしようとしていることも分かった。そこに優くんが関与あるいは巻き込まれていることも)


 試験会場は第2体育館。電磁科導入前の建築物だが、その実技試験を行うのには申し分ない場所である。そこで何かが起きる。そればかりは、遥にもまだ想像がつかない。

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