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学園の神鳴り殺し  作者: 片岡 雅
-侵略者の使い:入学編-
59/110

◇7-7◇

「はい! テスト終了! それでは筆記用具を置いてください」


 チャイムと同時に、試験監督の先生がクラス中に声を掛けた。その声を聞いて、遥を含むクラスの全員がテスト用紙を裏向きにして、筆記用具を置く。


「それじゃあうしろから、出席番号順に集めてきてください」


 次の指示だ。コレも毎回同じものなため、言われる前から席を立つものもいた。

 うしろから順にテスト用紙を重ねていき、先生の手元に30枚全てが揃う。


「はい、これでテスト終わりね。次は実技だから、該当の人は準備してね。実技がない人は、今日はもう帰ってもらってかまわないから、それじゃね」


 帰りの挨拶、とまではいかない軽い言葉を残して、先生はテストを抱えて教室を出て行った。そして遥も、これから教室を出て行くところだ。

 生徒側が実技テストに必要な準備は着替えのみ。それによって掛かる時間など、ものの数分ですむ。スカートを脱いで短パンをはいて、ベストと上着を脱いで半袖を着る。着替え場所も教室からさほど離れた位置にあるわけでもないので、休み時間の間を無駄なく使う事ができそうだ。

 何はともあれ、万が一の事も考えて先に着替えておくほうがいいだろう。遥は体育着袋を手に取り、椅子をしまった。優の席を一瞥して、教室をでる。


 女子の更衣室は特科棟の体育館付近にある。そこまでは教室棟の2階の渡り廊下を介していくのだが、なにせ1年生以外は実技のテストがないので渡り廊下辺りには部活に行くものやコレから帰る物で満たされていて、たどり着くのには少し時間が掛かってしまった。


(あぁ、急がないと時間なくなっちゃうよ)


 いくら時間が余分にあるにしても、無駄に使う事はできない。

 遥は更衣室の扉を開けると、すぐさま使い勝手のいい位置まで行く。どうやら大体の生徒が時間の余裕を持て余しているようで、ほとんど更衣室に人はいなかった。他のクラスの生徒のようで知り合いもいない。少しばかり肩身の狭い遥である。

 さて、これで着替えも無事終わり、後は西岡先生に話を聞くだけとなった。

 覚えている限りでは西岡先生は実技テストとは関係ないはずなので、今は職員室にいるはずである。もしかしたら何か用事で他にいることも考えられるが、まずは職員室に向かおう。

――と、これから職員室に向かおうというときだった。


「……あっ」


 遥が階段を上ろうと角を曲がったとき、階段の上から西岡先生が降りてくるのを見たのだ。どこかのクラスの試験監督を任せられていたのだろうか、右脇にはテスト用紙が抱えられていた。

 ちょうどいい、今訊こう。

 そう思った。


「あの、西岡先生、ちょっといいですか?」


 いきなり声を掛けられて驚いたのか、少し目を丸くして西岡先生は反応した。


「はい、なんでしょうか?」


「えっと、神田くんのことですけど……」


 遥が訊く。すると、「ああ」と何かを分かったように西岡先生が口を開いた。


「言いたいことはわかりましたよ。神田くんは今日は風邪で休むと、私に直接連絡が来ました。……ほら」


 西岡先生が自分のライターを起動させ、メールボックスを見せてきた。そこには確かに、優からのメールがあった。中身も確かに、「今日は風邪のため学校を休みます」というものだった。アドレスも間違いはないし、何もおかしなところはない。どうやら本当に今日、優は学校を風邪で休んでいるようだ。


「そうですか、すいません呼び止めてしまって」


「いいんですよ。私もそんなに急いでいたわけではありませんしね。――では、私はここで」


「はい」


 階段を下っていく西岡先生をただ眺める。

 遥の中には、今少しばかりのショックがあった。先日優は遥と自分が同じ実技クラスになるためにテストを頑張らなければいけないといっていたのに、彼がテストを受けないのではどうしようもなくなってしまう。


(優くん、なんでいきなり風邪なんかひいたんだろう。それとも具合が悪かったのに無理してたのかな?)


 そんな、どんどんナイーブになっていく遥の目に次に映ったのは、あまり仲が良い訳ではないのだが、芸術科1Bの古川涼子だった。

 俯いて歩いていてたまたま顔を上げて見つけたのだが、どうやら彼女は誰かを待っているような様子だった。それではじめはさっと通り過ぎる気だった遥なのだが、思わぬことに向こうから声を掛けてきた。


「――あ、ちょっと相沢遥」


「へ?」


 それに遥はかなり驚いたが、そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、涼子は言葉を続けた。


「あのさ、神田優のやつがどこにいるか知らない?」


「え、優くん? 今日は風邪で休みのはずだけど……」


 その言葉を聞いて、涼子が目を丸くした。いかにも、「嘘……」と言わんばかりの顔だ。


「え、あいつ今日は学校来てるはずだけど? だって、さっきメール送ったら学校にいるって言うから、ちょっと早いけどココで待ってるんだもん。ほら。休みなわけないわよ。嘘つくようなヤツじゃないでしょう?」


 涼子の話に、確かに、と遥も頷く。

 しかしこれはどういうことだ? 西岡先生のライターには確かに神田優からのメールがあった。これはつまりどちらかが嘘をついているということになる。だが一体誰が? ――遥の思考が終わりなく続く。


(古川さんが嘘をつく理由も先生が嘘つく理由もないはず。でも一体どうして……)


 立ちはだかる矛盾に、立ちすくむ。

――その時だった。


「相沢! ちょうどよかった、ちょっと来い」


 階段から勢いよく駆け降りてきたのは、遼たち電磁科1Dクラス担任の大文字先生だった。いつもなら気怠そうにしてる先生の何か焦る姿に、遥は一歩後ずさる。腕をつかまれていたので余計に後ずさる。


「な、なんですかいきなり!?」


「いいから――神田のことだ」


 遥の当たり前であろう反応に、大文字先生はこそこそと涼子に聞こえないようにそう伝えた。すると、遥もそれに驚いて、彼の耳もとで聞き返した。


「それ、本当なんですか?」


「いいから急げ」


 訊くもむなしく腕を引っ張られるのみだった。

 そんな2人のやり取りにどうしたらいいのかわからない涼子は、ただあたふたしていた。


「ごめん古川さん。ちょっと用事できちゃった。またあとでね」


「う、うん」


 その後、すぐさま遥と大文字先生は階段を下りていった。実技のテストなら第2体育館で行うはずだから、昇降口へ向かうのに階段を下りることはおかしなことではないのだが、2人が下りた階段は特科棟のものだ。その事実に、涼子はただぽつんと立ち尽くしていた。

 彼女が持つのは、優からのメールだけだ。

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