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学園の神鳴り殺し  作者: 片岡 雅
-侵略者の使い:入学編-
58/110

◇7-6◇

 春らしい小鳥のさえずり、少し強めの風が木陰の草を揺らした。それと並ぶようにして校舎内に午前8時30分を知らせるチャイムが鳴り響く。これは平常時には鳴らない鐘だ。だが、実力テストであるこの日に限っては、この鐘がなった。その理由はごく単純なものであり、テストがあるためである。

 国立神桜高の授業は1限につき50分で、休み時間を毎回10分挟んでいる。テストについてもその通りに進行している(昨日のテストでは例外だったが)。しかし本日における実技テストはまた別で、制限時間は1時間と、筆記(通常時)よりやや多めとなっている。そのため少しの変更があり、いつもとは違う時刻に予鈴が鳴ったのだ。


(……優くん、来なかったなぁ)


 場所は1D教室、扉の目の前に席に座っている遥は、頬杖をついて隣の席を眺めていた。それは神田優の席だ。いつもなら遥とほとんど変らない時間に教室についているはずの優だったが、なぜかこの日だけは、彼は学校に来ていなかったのだ。ふと振り返ると、何か思いつめて顔でツカサも彼の席を眺めていた。それは遥にはわからない事情で、だが。


「あー、今日は昨日と同じで実力テストだ。あと、今日休みの神田と七日はテスト受けさせないから。じゃま頑張れよ」


 ホームルームにて、大文字先生のやる気なさげな挨拶を聞かされていた。いや、それについてはもはや遥は気にしていない。そんなことよりも、遥には共有が学校を休むということのほうが驚きだったのだ。

 いままで、優が学校を休んだ事はない。今日だって、遅刻しているだけでそのうち来ると思っていた。しかし、担任である大文字先生は彼は今日学校を休むといっていたのだ。それが少しばかり、遥には信じられなかった。


「大文字先生、どうして神田くんは休みなんですか?」


 ホームルームを終え教室から出て行こうとする先生を呼び止めた。


「ああ? 面倒くさいな。えっとだな、西岡先生の話によると、あいつは今日風邪でやすむそうだ」


「は、はあ……」


 聞いておいて失礼な態度だと遥自身にもわかってはいるが、そんな態度を取らざるを得ない。どうしても彼女には腑に落ちないのだ。昨日、優には体調が悪い様子などまったくなかった。それよりかいつにも増して元気だった気もする。それなのになぜ、いきなり風邪などひくのか、冬場ならまだしも今は環境も最高の時期だ。なかなか考えづらい。それに関しては七日についても同様である。

 どうしても遥には、わからなかった。

 それから大文字先生は廊下を歩いていく。話を終えたと判断して言ったのだろう。実際はただ考え込んで黙ってしまっただけなのだが。

 いや、どちらにしても、今はまず実力テストがある。優は正体を隠している事もあるし、あまり彼を目立たせるわけにもいかないだろう。特に遥は彼がいなくなってしまうことを望まない。


(今はまだ動かないほうがいいか)


 遥はそのまま席に着き、筆記用具を取り出した。まずはじめのテストは社会科だ。主に地図の読み方やら簡単な歴史が出題される。どれも遥には難しくない問題だ。なにせ受験問題の下位互換のようなものなのだから。

――テスト終了。

 予想通り、結果は分からないが遥としてはかなりの手応えがあった。使った時間も短かったので、よく現状整理をすることができた。

 今ある情報は優と七日が休みで、それを西岡先生が言っていたことのみ。だがその詳細については風邪としか聞かなかった。ならば、七日はどうなのだろうか。彼女も風邪であろうか。遥にはそれが気になった。しかしわからない。

 そこで遥が出した答えは、西岡先生にその詳細を訊けばいいというものだった。

 しかし残念な事に、テスト間の10分間の休憩では先生を探し出し話を聞くまではできそうにない。少々気が引けるが、遥は次の休み時間に訊きに行くことにした。実技テストまでの休憩時間は準備のため少し長い。そこを使うのだ。


(そういえば、ツカサちゃんは何か知らないのかな?)


 ふと、そんなことをおもう。今朝ツカサと共に登校してきた遥だったが、その通学途中にツカサが訊いてきたことを思い出したのだ。今日は神田くんはいないの? と。特に何か深い意味があるようにも思えないことばだが、もしかしたら――


(いや、駄目よ。友達も信用できないようじゃ駄目よ。疑惑は闘争を生むだけだわ)


 昔母親に教わった事を思い出して、そう割り切った。

 きっと、彼女にも彼女なりの思いがある、そう信じての行動だ。

(できればなにもあってほしくないけど、もし優くんに何かあったなら、私にできることをしてあげたい)


 とにかく、勝負は次の理科のテスト終了後。チャイムと共に教室を出る勢いでいくつもりで、遥は筆記用具を取り出した。

 廊下にテスト用紙をもって歩いてくる先生の姿が見えた。テストはもうじき始まる。

 扉から先生が教室につき、そしてまるで砂を払うようにスムーズに用紙を配っていった。

 そうしてとうとう最後の筆記テストの開始を告げる鐘が鳴り響く。

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