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学園の神鳴り殺し  作者: 片岡 雅
-侵略者の使い:入学編-
57/110

◇7-5◇

 明朝、まだ動きの少ない町並みが窓から顔を覗かせている。ここらでは少し珍しい5階建てのマンションの一室からふとそれを眺めると、その広さのあまり吸い込まれてしまいそうだ。壁もかなり遠くに見える。

 ネコ柄パジャマをまとった少女は、膝を抱えてベッドに座り込んでいた。どうも昨晩はよく眠れなかったようで、どこかうとうとしている。


「……遥が彼を好きなのは誰だって見ればわかる。あのB組のやつとも仲良さげだったし……あたし、どうしたらいいのかな? 昨日も来てくれなかったし、嫌われてるのかな……?」


 窓に向かって枕が飛ぶ。

 いま、彼女の心を癒せるものはなんであろうか。彼女自身もその答えは知らない。

 窓越しに見る桜の木が滲んでいた。



 桜並木へ続く交差点に、通学鞄を肩にかけて俯く背中があった。

 いつも通りに朝食をとり、家を出た彼女は、いったい何で悩んでいるのか、外から見れば誰にもわからないだろう。


「はぁ……」


 幸せが逃げていく。

 橙色の髪を小さく揺らして、下を見て歩いた。

 すると、そんな彼女の後方から、名前を呼ぶ声が聞こえてきた。振り返ってみると、それは中学の頃からの付き合いの相沢遥だった。


「遥……」


「おはようツカサちゃん。今日は、いい天気だね」


 遥はどうやら走ってきたようで、肩で息をしていた。そんな彼女に、ツカサは疑問を感じていた。


「どうかしたの?」


「いや、ツカサちゃんが見えたからさ」


 そ、そう……と、ツカサは少し呆れ気味だ。


「……そういえば、今日は神田くんいないんだね」


 ならんで通学路を歩いて、ふと話をふってみた。すると、遥は突然困った表情になって、


「……うん。優くん、昨日の放課後から見てないんだ」


 共に住んでいるわけでもあるまいに、普通なら見てなくてもおかしくないだろうと、内心遥の言葉に疑問を覚えたくなるが、そこは2人の仲を考慮して触れないでおく。


「ふーん」


 ツカサから聞いておいて素っ気ないが、それは昨日のことを思い出してのことであり、仕方ないことだ。昨日カフェテリアにて優が姿を見せなかった事に、彼女はまだ不安を感じているのだ。それと共に、優への心配も。

 遥は笑って話してこそいるが、それでもどこか思いつめているようだったのだ。彼女とは長い付き合いのツカサには、それが分かっていた。だからこそ、優に何かあったのではないのかと思わせる。


(……今日は、会えるかな……)


 雲ひとつない空を仰いで、ツカサは交差点を渡った。

 なんて、まるで青春ドラマのような日常は、そうそうやってくるものではない。彼女達を取り巻くものは、果たして甘い青春か、はたまた無味なホラーか。

――少なくともこの時、捕らわれの少年を――神田優を取り巻くものは、そのどちらでもなかった。まさに絶体絶命のピンチである。



 水滴が天井から滴り落ちた。辺りは暗闇に包まれている。


「――……あれ、ここは……どこだ?」


 周囲に意識を向ける。まず目に映ったのは割れた硝子だ。それは天井からの水滴といい、どちらも現在いるこの場が廃れている事を表している。

 そして次に荒れた机だ。それまたつまり、この場がいくら廃れているとはいえ、学園内である可能性を表している。

 最後に時間だ。なにせどれだけの間意識がなかったのかが分からない。暗闇ゆえに外からの明かりで時間を掴む事もできない。――がしかし、薄っすらとだが、どこからか鳥のさえずりが聞こえてきていた。つまりそれは、現在が朝である事を示している。

 そのほかに見えるのは、水溜りと古めかしい文房具くらいのものだ。そこから得られる情報は特にない。


「……一体オレは……?」


 コレまでの経緯を思い返してみる。

 確か、ツカサと待ち合わせをして七日と待ち合わせをしていたはずだ。そして第一体育館裏で人工の電獣にまたもや遭遇し、そのあと……、とここで優の思考が止まる。誰かに後頭部を強打されたことは覚えているのだが、それ以前の記憶が若干飛び飛びになっていたのだ。優が七日と出会っていたのかさえあやふやなのだ。

 両腕両足を縛られているようで身動きが取れない。おそらくこれは影鴉(レイヴン)の仕業だと考えるのが妥当だろうが、それでも、少し以外だった。これまではしばらく人工電獣での観察程度のものかと思っていたが、まさかいきなり行動にでるとは、と。


(まったくまいったな)


 完全に油断していたのだ。学園内ならばそうすぐには手を出してこないだろうと。ましてやまだ学生も多く残っている時間帯だし、テストということもあって教員も神経がピリピリしているだろうに。まったくの予想外だったのだ。


(さて、どうするかな?)


 その時、部屋の上部から学校のチャイムの音が聞こえてきた。音量としてはやや小さめだが、それでもこの場が学園の地下であることを決定付けるのには十分だった。


「抜けるか」


 暗闇の中、優は誰に見せるわけでもなく不敵に微笑んだ。

 敵は相当急いでいたのか、優は気絶したときから格好も何も変えられていない。ないのは電磁流兵器だけのもので、靴裏に仕込んだピンや小道具はなくなっていない。もともとこういう緊急時の訓練は師匠から受けていた。空腹こそ感じるが、それでも体力はいい具合だった。

 抜け出せる。優はそう確信していた。

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