◇6-3◇
遥がゆっくりと口の開いた。
「私のお父さんはね、電磁学の研究者だったの。内容は、電磁波による防衛システムの開発。このお墓もその所為でこんななんだ」
電磁波による防衛システム、センサーだのなんだののことだろう。確かに、それならこの妙なシステムも頷ける。
「お父さん、実は被災者でね、それも、首都で被災しちゃって、助かるわけなかったんだよね……。――でも、悔しくてさ。私、あの日、お父さんにね、いつもみたいに『いってらっしゃい』って言ったんだ。……もしあの時、私が『行かないで』って言ってたら、お父さん、行かなかったのかな、なんて、今でも時々考えちゃうんだ。意味のない事だって言うのはわかってるんだけどね」
「遥……」
そんな、無理をして笑おうとする遥に、優は胸を打たれた。
実は、彼も昔は遥と同じことを考えていたのだ。8年前の災害で亡くした家族のことを忘れるのが怖くて、有りもしない可能性を追いかけて、後悔を繰り返して。そして次第に前に進もうと心に誓ってそんなことを考えないようになったのだ。そのことを彼自身は《進んでいる》と勘違いしていた。
しかしそれを今、優は遥に気付かされたのだ。今まで優がしてきたことは――ただの《逃避》であると。
優は前に進むためと信じて過去から目を背け現実を虚ろな目で見てしまっていた。しかしそれに比べて遥は、過去にしっかりと向き合って、現実にしっかりと目を向けて、その上で前を見て歩き続けていたのだ。
「――意味無くなんてない」
「え?」
優の口は勝手に開いていた。
「オレも昔はそう思っていたんだ。でも今、それは違うって分かった。想うことには必ず意味がある。前に進むために必ず必要なことなんだ。――だから、遥のその想いは、まったく無意味なんかじゃないよ……」
優の顔が微笑む。
「……優くん」
遥もまた、口が勝手に開いていた。それと涙も、気が付けば流れ出していた。
森の中に、柔らかい風が流れ込む。
しばらくの続いたその風によって涙に気付くと、そそくさとスカートからハンカチを取り出してさっと拭った。そしてまた、遥は口を開く。
「あのね、実はココに来たかったのにはもうひとつ意味があるの」
「ん、なんだそれ?」
「えっとね、ここって滅多に、って言うか、まず人なんて来ないじゃない?」
「まぁ、そうだな」
優は、言いづらいのか変にもじもじする遥を眺めながら返事を返した。
「だからその、ココで私にいろいろ教えて欲しいって言うか……」
「たとえば?」
なんとなく察しは着いているが、あえて訊ねる。
「えっとだから、学校では教えてくれないような事とか……そのほら、神鳴り殺しについてとか……」
「ああ、そのことか(やっぱりだよな)」
なんとなく、安堵の息を吐く。まずありえないだろうが、変なこと言い出したらどうしましょうとか、少し無駄な事を考えていたのだ。
遥の言葉に優は快く了承し、潔く諦めた。なにをかって? それは遥を遠ざける事である。なぜかって? それは今学校には優の正体を知っている人間が暗躍しているからである。
だが、もしかしたらすでに遥も狙われる位置にいるかもしれない。だとしたら、優といるほうが幾分か安全と言えるだろう。
それに以前にも神鳴り殺しの話はしていたし、いい場所があるなら尚いいことだろう。
が、今はまずテストだ。大文字先生曰く、今回の実力テストで電磁学で学習するグループが決まる。ならば、今は神鳴り殺しのことよりも実技の勉強のほうが重要視すべきであろう。
「わかった。――と言いたいところだが、それはテストが終わってからだな」
「ふぇ?」
「今回の実力テストでいろいろと条件が決まってくる。それで、極力遥とオレは同じグループの方がいいだろ? オレが遥に合わせるのもいいけど、そうするにしても遥には上の方を目指してもらいたいからね」
「はぁ……」
まだあまりこの状況が把握しきれていないようで、目を点にしてぽかんとしている。
「なんでもいいから、とにかくまずはテストだ。今教えられるのは、実技の事だけ。それから先はまだ後だよ」
「うん、わかった!」
変に瞳を輝かせて頷く遥。本当に分かっているのだろうか。優は少し不安だ。だがまぁ、相手にしなければいいだけの話なのでよしとしておこう。
日も随分と昇って、すでに頭上を通り越してしまっている。風はまたまったく吹かないが、それでも小鳥のさえずりくらいは、聞こえるようになって来ていた。
優と遥はしばらく広間の辺りに点在していた切り株に座り駄弁っていた。……その所為で注意があたりに向かず、あっさりと進入を許してしまったのかもしれない。
その時、2人の背後には忍び寄る(?)影が1つあったのだ。




