◇6-2◇
町外れの森、境界壁まではまだまだ距離があるが、それでもいつも桜並木坂から眺めているよりも、それは明らかに迫力があった。
いつのものかもわからない朽ちた枝を踏んで、バキバキと音を響かせながらそれを眺める。
「やっぱり、近くまで来るとすごい違うね」
「まぁ、そうかな。でも、囲まれてるんだから、あんまりいい感じではないな」
「そうだね。えっと、確か隣町は――」
「森内町だよ。大した距離はないから、行こうと思えば行ける……」
優は歩きながら軽快に説明した。
森内町。国民的製菓企業《森内製菓》で有名な町で、8年前の災害時にもっとも被害の少なかった土地でもある。
「優くんやっぱ詳しいね。でも、私は行こうと思ってもいけないかな」
はははと苦笑いで言う遥。その表情には少し哀しいものがあった。確かにいまの時代、戦闘要員がいなければ町を出るのには危険が伴うから無理もない。
と、そこで優が冗談混じりの口調である提案をした。
「じゃあ、オレがつれてってやろうか?」
その言葉に一度驚いたような顔をすると、こちらもまた冗談っぽく言葉を返した。
「大丈夫。学校で頑張って一人でも行けるようにするもん」
「いまはオレに頼んでるけどな」
「う、意地悪」
それから二人は少しの雑談を交えて、お互いに笑いながら森のなかを進んだ。
壁が近いからか、なんだが辺りから生き物の気配がしなくなってきていた。
「なぁ遥、まだ教えてくれないのか」
「う、うん。まだ内緒。ついたらちゃんと教えるって」
「そっか……」
なんとなく、残念。なにげにずっと気になっていたのだが、やはり教えてはくれないようだ。
まぁ、気長に待つとしよう。
それにしても、静かだ。あまりにも音が無さすぎる。森の中ならもう少し自然の音を聴けてもいいだろうに、いまは足音しかない。風の音すらもないのだ。
優は少し不安を覚えながらも、とにかく奥へと進んだ。
うしろの遥は特に変わった様子もないので気にすることはないと判断したのだ。
それから、どことなく険しい坂道を上る。
この辺り一帯はどうやら森と言うよりか山に近いらしく、道がだんだんと急になってきていた。
「そこ危ないから、気を付けてね」
「うん、ありがとう」
何気ないコミュニケーションをとりながらさらに進む。
壁にはもうずいぶんと近づいていて、あと1キロメートルもないだろう。
すると、突然、なんの前触れもなく木の生えていない、なにもない土地に出た。そこにはここしばらく人がいたような形跡もなく、自然のものかと思わせる。
現に優はそういう決断にいたろうとしている。がしかし、遥はそうではなかった。
遥は広々とした土地の中心までいくと、しゃがみこんで地面の土を払い始めた。
「何してるんだ?」
「まぁ見てて」
それから待つことしばらく、遥はなにかを見つけたようで作業のスピードが上がった。
そして遥が手に取ったのは、1本の紐だった。
彼女がそれを引っ張る。するとどうだろうか、突然このなにもない敷地を何かの膜のようなものが囲んだではないか。
(これは、電子スクリーンと同じ原理か……?)
応用の苦手な優には、少し難しい状況だ。
そして膜に気をとられて気が付かなかったが、遥の前には、墓石すらもが現れていた。
「驚いたでしょ? これは電磁エネルギーで光を屈折させて見えなくしてるんだって。このスイッチでそれを解除できるんだ」
自分のことではないのだが、変に自慢げに説明する遥。その自身たっぷりな顔に、失礼だが少し笑いが込み上げてくる。
「あ、笑うの我慢してるでしょ? もう。――この場所はね、この墓のために作られたの。あまり人に知られていいことじゃないから、こうして結界みたいな感じのもわざわざ作ってるんだよ? 手が込んでるよね」
確かにと、半ば呆れながらも納得の意を見せる優。
賑やかに説明する遥だったが、その顔からはなぜか元気が感じられなかった。
「――実はね、このお墓は、私のお父さんのお墓なんだ……」
落ち込んだように俯き、声が少し震える。それでもなお頑張って笑おうとしているのか、遥の悲しげな顔にはまだ笑顔の一片が残っていた。
「私がここまで来たかった理由はこれなんだ。行きたくても、一人だと来れないからさ。ごめんね、利用したみたいで」
思い詰めたような彼女の横顔が、優にはかつての自分と重なって思えた。
「謝る必要なんてないよ。それに、遥が行きたいなら、行けるところまでオレが連れていく」
「……ありがとう」
遥の強ばった表情が和らいだのを見て、優は少しホッとした。




