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学園の神鳴り殺し  作者: 片岡 雅
-侵略者の使い:入学編-
39/110

◇5-1◇

 例のごとく校内放送が流れた。しかし今回のものはいままでのものとは少し違って、おまけとして肝試し終了の宣言がされた。

 およそ1時間前に第5位としてゴールしていた1D+αのチーム――優たち5人は、待合室代わりにされているカフェテリアで体を休めていた。

 思えば、ゴールまでは非常に長い道のりだった。

 優たちが電磁テロに巻き込まれたあと、辺りを警戒しながら移動し、通信機で班員と連絡を取りながらゴール地点で待ち合わせたのだ。

 優サイドでは涼子のこともあってなかなか歩みが進まず、その上所々で遥が蜘蛛を見つけるものだから、ゴールする頃には入場してから一時間半も経っていた。 それはつまり、肝試しが終わるまで2時間半かかったということでもある。

 この時間は、文字に起こせば短いように思えて、実際はとても長いものだったのだ。

 おかげで今現在、優と遥に涼子の3人は、カフェテリアの丸形テーブルに完全に伏せてしまっていた。


「みなさん、本当にお疲れさまでした! おかげさまで、なんとか5位としてゴールできました!」


 そんなことも露知らず、感謝と祝いの声をあげるのは七日である。

 彼女が肝試しの順位を気にしていた理由はいまだに教えてはくれないが、とにかく本人が喜んでいるのでよかったことにしよう。


「――そういえばさ、ツカサは……どうだったんだ?」


「ツカサちゃん、大丈夫だった?」


 七日がお喜びのところ悪いが、優たちにはそんなことよりも、肝試しの途中で倒れてしまったツカサの身を案じていた。

 どうやら優たちを別れた後、気を失ってしまい、ゴールまでは田中が背負って行ったらしい。

 すると、質問を聞いたとたん、七日は視線をそらし俯いてしまった。


「井上さんね、特に外傷もないし、命に別状ないんだけど……まだ、意識がないんです。保健の先生は、なにか強いトラウマがあるって言ってたんですが、あの状況でいったい何が……」


 そのトラウマとやらの原因は、優と遥と涼子の3人はなんとなくだがわかっていた。――いや、優に至っては、ほとんど確信を持っていた。

 異常なまでに感じられたエネルギーに反応して、被災時のことを思い出してしまった。……ほぼこれで間違いないだろう。

 本当に問題なのは、これからそのトラウマをどう乗り越えるかだ。


(あとでお見舞いにでも行くか)


 優はあまり働かない脳みそで、難しい表情でそう考えた。

 すると今度は、ふいにも甘い香りが漂ってきて腹の虫が鳴った。こうしてやや恥ずかしい思いをしたのは、言うまでもなく頬を染めている優である。


「……シリアスムードが台無しね」


「わるい。つい……」


 たった今、休憩中である優たちではあるが、実はゴール順位10位以内のグループには特製イチゴパフェが配布される事になっていて、それを待っているというのもあったのだ。そしてそれがとうとう近くまで来た事で、空腹を忘れたかのようにも思えた腹の虫が反応したのだ。

 世間知らずコミュニケーション知らずの優でも、これは少し恥ずかしかった。


「――お待たせしました。特製イチゴパフェと、ココアです。5位、おめでとうございますね」


 胸元のバッジからバイトだと考えられる女性は、ほとんどわざとらしさのない綺麗なビジネススマイルを浮かべた。たった1人ココアを頼んでいた優にその笑顔が向けられたとき、不意にも心揺れ動いたのは誰にも言えない彼だけの思い出だろう……。

 冗談はさておき、現在ココにいないツカサの分のイチゴパフェは、後日送る事になっていた。この場を逃すと食べられない特製のため、これは彼女にとっては吉報といえるだろう。そのことを思い、こころなしか遥の口元が緩む。


「さてと、それじゃ、食べますか」


「いただきまーす」


 それから優たちは、少しばかりの会話を挟みながら、いつもどおり、普通に互いに接しあって特製イチゴパフェを堪能した。一番上に乗ったバニラアイスの頂上に綺麗に聳え立つイチゴにチョコシロップ、サクサクで微妙に熱を持ったクッキー、そして一番下にはパフェのしめにぴったりの自家製コーンフレーク。イチゴが旬だからか、日頃口にするようなイチゴパフェよりも断然おいしく感じた。

 コレが勝利の味、というのもありだろうが、なにせ優は仲間の安全のために正体の分からない敵を逃してしまっている。とてもそういう気分にはなれなかった。

 どれだけ楽しもうとしても、やはりどういうわけかあまり楽しい表情ができない。無邪気に笑みを見せる事ができない。――これが今までの人生で得たものなのか、それともコレまでの過程の中で抜け落ちてしまったものなのか、優にさえわかったものではない。

 ただこういうときに限っておもう事が――


(いつまでも子供でいられるっていうのは、いいことだな……)


 これである。

 少しずつパフェの話で賑わいを見せる仲間を見ながら、いまだ冷めはしない熱々のココアに口をつけた。優は猫舌のため幾度かと息を吹きかけて冷まそうと試みたが、あまり効果は無かった。

 舌に走る衝撃とほのかな甘みは、なんともいえない組み合わせだった。


(慣れなきゃ……な)


 1人俯いてしまっている涼子を横目に、優はそう思った。

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