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学園の神鳴り殺し  作者: 片岡 雅
-侵略者の使い:入学編-
36/110

◇4-6◇

 バチンッと嫌な音を経てながら、淡い光が優を包む。青い瞳の繰り出した攻撃から、遥たちを庇った結末だ。

 常人からみても致死量とわかるその光に、目に写るほどの光に、遥の顔から血の気が引いた。

 先刻彼女の目の前に突如現れた青い目。不適に微笑むその目の降り下ろした淡い光に、一度反射的に目を閉じた。

 それから瞼を照らす一瞬の光。その光にそっと瞼をあげると、そこには両手を広げ自分達を庇う優の姿。

 かなりの至近距離のためその顔色を伺えるが、意識の有無はわからない。かなり危険な状況のように思えた。

 優自信、他人を巻き込まないようにと必死に起こした行動だった。その動きが幸いして遥たちは怪我をすることはなかったが、代わりに彼が受ける形となってしまった。


「優……くん……? 優くん、優くん!」


 ゆっくりと前に倒れる優を支えて遥が涙を流す。となりで見ている涼子は、いきなりの出来事にただ呆然と立ちすくむのみだった。

 するととうとう、青い目が不適な笑みを浮かべたまま口を開いた。


「――なんだあっけなかったな。注意しろと言われこれだけ持ってきたが、拍子抜けもいいところだ」


 注意しろと言われた(・・・・)。つまりは誰かに指示されてこの場にいるということか。


「あなた、いったい何者よ! 何が狙いなの?!」


「オレか? オレは影鴉(レイヴン)の尾崎だ。あんたの命をもらいに来た。しってるか? この棒はただの棒じゃないんだぜ? 旧式電磁流兵器。制限のかからない、電獣に一番近いもの。オレがもって、まさに鬼に金棒だろ?」


 旧式電磁流兵器、その恐ろしさは遥もいやというほどよく知っている。さんざん調べてノート一冊を埋めたくらいだ。


「なんで、私の命なんか……」


「そんなことオレが知るか。オレは上の命令で動くだけだ。未来奪取を実現させるために!」


「未来……奪取……」


 まったく意味がわからない。文字通りなら、未来を奪い。しかしいったい何から? やはり考えてもわからない。


「おっと、喋りすぎたかな。じゃあさようなら。死んでくれ――」


 ELLによりその瞳を青く光らせる尾崎は、またゆっくりとその腕を振り上げた。

 人生でそう何度も体験しないほどの恐怖に、遥はただ震えるだけで、逃げることも、地を這うことさえできなかった。そのとなりにいる涼子も同様に、身動きひとつとれず、腰を抜かしていた。

 もう声さえも、悲鳴さえも上げられない。

 ただ、目を瞑り、その腕が降り下ろされるのを待つのみ。


「ばいばい」


 ひゅんっ!

 尾崎が腕を降り下ろし、風切り音が鼓膜を揺らす。そしてそれと同時に破裂音もひとつ響いた。

――なにも起きない。

 おそるおそる瞼を開けた遥。

 すると、そこにはまた、目を疑う光景が広がっていた。


「な、なんだこいつ!?」


「優くん!」


 そこには、尾崎の降り下ろした棒を片手で止める優がいた。媒体として使うグローブもいつの間にかつけており、棒との接触面からバチバチと音を立てている。

 先程まで倒れていたはずと、少々パニックを起こしかねない要素もあるが、それ以上に遥にとって彼が生きていることは喜ばしいものだった。


「な、てめぇ、なんであの電圧で生きてやがる?!」


 焦りにあせる尾崎の声。

 その問いに答える優の言葉は一言、


電気再燃(ショックリバイブ)だ」


 その言葉に尾崎はあっけらかんとして、口許を優ませる。


「そうか、気を付けろと言われていたが、ただの被災者か。それなら何ら問題ねえな」


 そんな尾崎の推測に、今度は遥の表情が変わる。

 電気再燃(ショックリバイブ)というのは、被災者などにまれに見られる現象で、一度強力な電磁エネルギーを受けたときに心配停止の状態から蘇生することをいう。これは電獣の体に触れたわけでなく干渉し、ショックを受けると起こりうるのだ。

 この現象によって蘇生したものは強力な耐性がつき、鍛え方によっては体表が電導しなくなることも有り得る。

 遥が何より驚いたのは、彼が一度死んでいるということだった。


「は、何が電気再燃だ。んなもんオレとこの武器の前にはなんの役にもたちゃしねえよ!」


 確かに尾崎のいう通りだ。もし、優がただの電気再燃経験の被災者ならば。


「あんた、さっき鬼に金棒とか言ったよな? あれあながち間違ってないかもな。あんたからだ丸いし、鬼みたいなキモい面してるしその棒切れもこん棒みたいだしな」


「んだと?」


 尾崎のこめかみに青筋が浮かぶ。


「ちょ、神田優、あんたなに変なこと言ってんのよ!」


 目の前で繰り広げられる口論に、焦りと怖れを覚えて涼子が言った。

 だがその言葉は、優本人には届いていないようだ。


「豚に真珠の方がやっぱりピッタリだな。――あんたみたいなのがオーナーで、その振り回している兵器のほうに同情するよ!」


 こうして、とうとう優の言葉が出揃った。

 我慢の限界か、尾崎の体がぶるぶると震えてきていた。


「ただの高校生の分際で、粋がってんじゃねぇ!!」


 勢いよく尾崎の腕が振り下ろされた。しかしそれをいとも簡単にいなすと、とうとう尾崎も焦りを覚え始めていた。


「なんだ……いや、まぐれか、てめぇさっさとくたばりやがれ!!」


 再び尾崎が突っ込んできた。しかし今度はいなさない。優のうしろには遥がいたからだ。

 起て振りで振り下ろされた棒をもう一度右手で受け止めると、そこで淡い光を放つ。

 一度でなく二度までも呆気なく攻撃を防がれた尾崎は、さすがにもうどうしたらいいのかと戸惑っている様子だ。


「な、なんでこんなガキが……――はっ、まさか、てめぇ……」


 数歩下がると共に、尾崎の顔から少しずつ血の気が引いていく。その反応からして、優の正体にうすうす感づいたのだろうか。いや、もしかしたら事前から知っていた可能性もあるからそれの確証を得でもしたのだろうか。

 そこで優が追い討ちを掛けるように、


「あんたにはその棒、淡い光どころかオレンジ色にピッカピカに光って見えてるんだろう?」


 と、わざとらしく視線を棒のほうへと移して言った。

 これで、尾崎は確証を持った。

 一般人が、ましてや一高校生が、そんな情報を持っているはずがない。そんなことを知っているはずがない。

――彼は今この地区を担当している神鳴り殺し――

 だがココで引けばいいのもを、尾崎は自暴自棄になっていきなり狂ったように棒を振り回し始めた。縦横斜め、と、いろいろな方向へ、いろいろな位置から繰り出される。そんな攻撃を、やはりというべきか優は難なくいなしていった。


「な、なんでだ、なんであたんないんだ!!」


「それはあんたが鈍いからだ」


 尾崎の頭部に、冷たい物体がそっと触れた。それはどこから出てきたわけでもなく、初めから持っていたものだ。優のもつ媒体の1つ、銃型電磁流兵器。

 こうしてとうとう、尾崎は動きを止めた。

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