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学園の神鳴り殺し  作者: 片岡 雅
-侵略者の使い:入学編-
33/110

◇4-3◇

 とうとう優の視界にも、次のブロックとの境界が捉えられた。所々に点々と存在する仄かな明かりではなく、それよりかもう少しはっきりした光が、境界となるラインを表し床から照らしだしていた。そんな何気ない神秘的な光景が、今まで歩いてきた疲れを僅かながら癒してくれる。

 道はまだスチロール性の木に囲まれた形だが、少しばかり広さが増してきていた。思うにここからが本番といったところか。今までの細くて細かい道でちまちまと進ませ、心とも疲れたところで大きなものをかますとか。確かにいいアイデアかもしれないが、優の場合はもう何が来ても平気という心境だった。なにせ、すでにヤツとは遭遇したのだから。

 見た目だけのこけおどしだったにせよ、そのシルエットから受ける恐怖は、世界のどんな生物よりもはるかに多いと、優自ら自負しているほどなのだ。


「しかし、ここで方向転換となると、まだまだ続きそうだよなぁ……」


「そうだよね。いつになったらゴールするのかなぁ」


 なんとなく思ったことを口に出していた優だったが、そんな彼の言葉を聞き逃さず、遥が言葉を返してきた。抜け目がないというかなんというか、いらないところで力を発揮するな。

 彼女もどうやら少し不安を感じ始めていたようで、そんな言葉を発していた。

 しかし今はとにかく歩くしかない。分かれ道を見つけるまではひたすらある道を歩き続けるしかないのだから。

 そしてとうとう、光を放つどことなく神秘的な境界線を、再びまたいだ。


「これ、何回見ても綺麗だよね。私この光なんか好きだなぁ」


 遥がさりげなく感動の声をあげる。それに反応する優は、繋ぐ言葉が見つからないでいた。

 彼の心はあの光を綺麗だとはちっとも思っていないのだ。それどころか、返って嫌なものを連想させる。

 それは、電獣の放つ光。肉眼でとらえられはしない光だが、それは境界の光にどことなく似ていた。


(あまり、いい光じゃないな)


 しかしそんな心の声は誰の耳にも届くわけもなく、遠い目をしていた優に、遥が再び声を掛けた。


「どうしたの優くん?」


「いや、なんでもない。大丈夫」


 あまり他人に自分の持っている価値観だとか意見だとかを押し付けるのはよくない。遥には遥の思うとおりのものを見てもらいたいのだ。

 過去に自分がどんな体験をしていようとも、それはその人の記憶。消してそれが他人の記憶になることはないのだ。要らない心配や不安を与えるのは、意味がない。

 さて、これでとうとう6Dブロックだ。

 約2メートルほどの幅のある道に、やはりここでも天井からは仄かな光が差している。足元には変らず土とブルーシート。今も尚上履きを汚し続けている。

 辺りを見回しても怪しいものはとくになく、見えるものといえば、同じ班員のシルエットくらいのものだった。テキパキと歩みを進める七日にも変化はなく、田中は相変わらず無口。ツカサと涼子は悪口を言うのを止めて、今度はなにかまた変なことを話している。こそこそとしているのでその詳細は聞こえないが。

 なぜだか、こんな状況が愛おしく思えてくる優がいる。それはやはりコレまでの人生の中に欠けていた物だったからかもしれない。


「……遥、なんで君は、そんなにも、神鳴り殺しに憧れるんだ?」


 どうしても聞いておきたい。これは、どうしても揺るがない、優の心そのものだ。こんな平穏なときの中で、なにかを失うのが恐ろしくてたまらない。

 通信機をポケットの中にしまって電源を切り、そっと訊いた。


「……それは――……ごめん。まだ、言えないや」


 何かを言い出そうとしたのか、小さく口を開いた遥だったが、やはり言い出すことはできず、口を閉ざしてしまった。

 何かとても深い事情があるのだろうと、そう考えて聞き出すの諦める。


「いや、いいんだ。言えるようになったら、教えてくれ」


「うん。もう少し、整理がついたらね」


「ああ」


 そう返事をして、優は止まっていた足を再び動かし始める。サクサクといった渇いた音が耳に響く。

 彼女の過去を、少年はまだ知らない。

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