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学園の神鳴り殺し  作者: 片岡 雅
-侵略者の使い:入学編-
31/110

◇4-1◇

 変ることを知らない静寂と暗闇。仄かな明かりもいい加減意識しなくなってきていた。ただそこにあるというだけでそれが何かということは考えない。すでに見飽きた背景だ。

 ブロック番号を示すボードには『6C』と記されていて、足場には何処となく土を撒かれたブルーシートが敷いてある。そこには雑草なんかが散らばっていて、自然の空気を漂わせている。時折踏む砂利の音も耳に響き、イライラしてくる心を紛らわせてくれる。いまだ先は見えず、募るのは不安ばかりだ。

 果たしてゴールにたどり着けるのか――実際、どんな道を通ろうと必ずゴールにはたどり着けるのだが、それを頭では分かっていても、擬似的自然の中をただひたすらに歩いているだけではそんなことも思い浮かぶ。

 これまでの道のりでは7Cブロックで変装した教師に1度会ったが、ただ白いケープを羽織って古い懐中電灯で下から照らしただけという、なんともちゃっちいお化けであった。ツカサと涼子はビビッていたが……。


(この企画、絶対失敗だろ……)


 これはおそらくいずれは皆が共有する意見だろう。

 ただ、いまはまだ先頭を歩く優だけのようだが。

 ちなみに最初のほうで組んだ陣形はまだ崩れていない。後ろのほうでは七日がソワソワしているし、彼女と優と、遥と田中の間では、少し勢いが落ちたにせよ今尚いがみ合い続けるツカサと涼子が健在だった。

 よくよく考えると、元気がなくなっているのは優ただ1人だけかもしれない。他のメンバーは変らず元気一杯だ。――ただ、飽きてきただけで。


「――なあこの体育館広すぎないか?」


 この第2体育館は全校生徒が入る第1体育館の約3倍の大きさだ。校庭の代役として使用される事もあり、それは広いに決まっている。だが、適当な広さで区分けされている所為か、それよりも若干広めに感じる。

 あるいは歩いている道が長いから、かもしれない。8Cブロックから、スチロール製の樹木でまるで森の小道のように木で囲まれた道ができていた。察するに教師達が準備なんかをするためのスペースだろうから、「短縮のため強引に横断する」なんてことは諦めた。案の定つい先程までいた7Cブロックでは茂みの影から例のちゃっちいお化けが出てきたのだ。やはり優の考えは間違っていなかった。


「でも、こんなうねうねした道歩いていると方向感覚がなくなる気がする」


「だな……」


 遥もそろそろ嫌気がさしてきたのか、声を掛けてきた。広さとチャンスを最大限作るためか、木で囲まれた道はやけにうねうねとしている。酷くて2度ほどブロック内でUターンさせられる程だ。

――って、


「なんで遥が前に来てるんだよ」


「だって、全然先が見えないし、疲れたし……」


 まったく、子供かよ。

 そう思う。あまりそういうことのある人だとは思っていなかったから意外だ。こういう状況でも、なんとなく通り過ぎていくような、そんな人だと思っていた。

 その時だった。

 閉鎖された空間の中、甲高い機械音が響く。


『――えー。只今第一グループ、ゴールしました。抜けたのは、電磁科1Aの生徒です。以上、館内連絡でした――』


 そして、あたり一面再び静寂に包まれる。――そう、思ったのだが、


「えー」


「まじかよー」


 このブロックではないが、そこかしこから声が上がった。おそらく隣接しているブロックで声を上げているのだろう。悲鳴ほどの声量ではないにしろ、みな相当疲れているのか、そのショックで大きな声がでていた。

 優たちのところでも、


「うそー」


「でもまだ負けじゃないわ!」


 真ん中でいがみ合っていたツカサと良子が騒ぐ。

 しかし、優たちが一番遅くにスタートしたにしても、最初のグループらと比較してもものの5分程度の差でしかない。これが、A組――電磁科優科性の実力ということか。

 この環境で3年を過ごさなければいけない優は少しばかりプレッシャーを感じる。本音を言えば、彼彼女らはまだまだ新米で優のほうがはるかに上回る。だが、いずれ追い抜かされるということも否めない。


(少し注意が要るな)


 そんなA組優科性に狙われるのだけは勘弁してもらいたいと思う。


 ブロックの平面積から考えて、おそらく最後のUターンをした。

 これからおよそ10メートルを歩けば、次のブロックだ。これでやっと……5個目のブロックだ。計100のブロックからなる迷路でいまだ5ブロックというのは、笑えてくる数だろう。


「ど、どうしたの優くん?」


 顔を引きつらせた遥が優に問いかけた。理由は簡単、優が不気味な笑みを浮かべているからだ。


「いや別に? ただ、なんでこんなことしてるのかなって思ってさ」


「気を確かに!」


「いや、なんでもない」


 とりあえず揺さぶろうとしてくる遥をすこしどけて、優は意図的に、それでいて自然に、軽く息を吸い込んだ。

 そしてその拍子に、目にする。

 あの気持ち悪くておぞましい物を、暗闇の中でも分かるあのオーラ、シルエットから察しのつく特徴的なボディー、そして極めつけは、ヤツの織り成すグロテスクなウェブ。感じに文字で表せる世界で一番優の嫌うもの、彼の生涯の天敵。

 何処まで逃げてもそこにいる、いや何処にでもいる/いてしまうあの――――


「今度はどうしたの?」


 この時、優は無意識のうちに体中から発せられるけたたましいほどの緊急警報サイレンに歩みを止めていた。その様子に遥が反応して、声を掛けたのだ。

 しかし、返事がない。顔色を伺うと、それはもう顔面蒼白で、なにやら言いたげに口をパクパクしている。

 この時優以外の人間に、アレの存在は見えていない。それは特殊なコートが施されているだとかそういうSF的な意味ではなく、単純に暗くて見えていないのだ。

 しかしそれでも、優は動けない。これなら視界なんてなくていいとまで思えてしまう。


「神田優、どうしたというのですか?」


「神田君どうかした?」


 他のみなも彼の異常に気付き声を掛ける。

 しかし、その答えにはなっているのだが、優の発した言葉は……。


「漢字2文字で書き表せる足の多いこの世のものとは思えないキモイ生物がァ!!?」


 そんな優の悲痛の叫びに、1度辺りが沈黙に支配された。

 《蜘蛛》――漢字2文字で書き表せる足の多いこの世のものとは思えないキモイ生物。これが、彼の生涯の天敵である。

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